マネジメント

20170124ANA_P01

(かたのざか・しんや)1955年鹿児島県生まれ。79年東京大学法学部を卒業し全日本空輸(現ANAホールディングス)入社。人事部長を経て、2007年執行役員、09年取締役、11年常務、12年専務、13年副社長を経て15年社長に就任した。

 ANAホールディングスの前期決算は、売上高1兆7911億円、営業利益1364億円と過去最高益を達成した。今期の上期決算でも過去最高益を更新、営業利益率は10%を超えた。これを支えたのが、好調な国際線旅客事業だ。2016年はANAが国際線に進出して30年の節目の年に当たる。それが今、大きく花開いている。

 また、ANAホールディングスは傘下にピーチ・アビエーション、バニラ・エアの2社のLCC(格安航空会社)を持つが、それぞれ収益に寄与するだけでなく、新しい需要を創造、地方創生にも貢献している。

 後発エアラインのANAが、今日の地位を築いたのは、挑戦し続ける社風によるところが大きい。いかにして醸成されたのか。片野坂真哉社長に聞いた。聞き手=本誌/関 慎夫 写真=幸田 森

無我夢中で走り続けた国際線進出からの30年

―― 2016年、ANAは国際線進出30周年を迎えました。今では押しも押されもしないナショナルフラッグキャリアに成長しましたが、30年を振り返ってどんな感想をお持ちですか。

片野坂 入社して6年目、経営企画室に配属になりました。この部署は、まさに国際線参入を検討していて、いよいよ海外に出るという機運に満ちていました。ですから1986年にグアム、ロサンゼルス、ワシントンD.C.の3路線を開設したことは非常に思い出深い。当時、先行していた会社(JAL)は40路線以上ありましたから、その背中ははるかに遠く、国内線でもまだかなわなかった。それでも追いつき追い越せと、無我夢中でここまでやってきました。今日があるのは退職者も含め、必死に頑張ってくれた全社員のお陰です。

―― 30周年の記念すべき年に、羽田~ニューヨーク便、羽田~シカゴ便を開設、来る2月には成田~メキシコシティ便が待っています。これでアメリカ方面は打ち止めですか。

片野坂 これで終わりということはありません。まだまだホワイトスポット(空白域)はあります。今度就航するメキシコは親日国ですし、日本の自動車メーカーもメキシコに工場を持っています。ですからメキシコへのノンストップ便は多くの人が待ち望んでいました。

―― 中型機なのに航続距離の長いボーイング787のお陰ですね。

片野坂 これまでに787を83機発注しましたが、これは世界一です。そのうち56機が既に納入され、今後、エンジンがバージョンアップします。おっしゃるように、787がなければ、メキシコまでノンストップでは飛べませんでした。今後も後続距離を必要とする路線を探していきます。

―― 17年の抱負を聞かせてください。

片野坂 4月から就任3年目を迎えます。ANAグループでは現在、16~20年の中期経営戦略を遂行中です。これは20年の東京オリンピック・パラリンピックも見据えた成長戦略ですが、足元の原油価格や為替や金利の動向を踏まえて微調整していく必要があります。五輪に向けては成田や羽田の空港容量の拡大が期待されています。それまではモデレートですので、17年は少しペースを抑え、コスト削減や品質・サービスの点検をしていく年としたい。でも踊り場だからといって踊っていてはすぐに抜かれてしまう世界なので、気を引き締めてやっていきます。

―― 公的支援を受けたJALは発着枠の配分でANAと差をつけられていましたが、この期限が間もなく終わります。となると今後の空港容量拡大の際には、熾烈な確保合戦が起きることになります。勝算は。

片野坂 国土交通省には、競争環境が大きく歪んだというわれわれの主張に耳を傾けて格差是正に尽力いただいたことに感謝しています。ただ、決算を見ても、過去数年の積み重ねもあり、残念ながら日本航空さんとの財務体質の差は明らかです。ANAグループの顧客の皆さまや株主の皆さまのためにも、ネットワークやサービスの充実を図り、財務的体力の差を少しでも縮められるよう努力していきたい。

LCCで新規需要地方創生にも貢献

―― ANAグループ内には、ピーチ・アビエーション、バニラ・エアの2つのLCCがありますが、両社とも黒字になり、収益に貢献し始めました。ただ海外に比べると、まだまだLCCの比率は低いですね。

片野坂 確かに欧米、特にヨーロッパと比べるとLCCの比率は低い。つまり拡大余地があるということです。実際、バニラが成田~奄美大島便という、どこも飛んだこともない路線を開いたら、年間10万人が利用しました。今まで運賃が高くて里帰りできなかった人が、何年かぶりかで帰ったという話も聞きました。この路線は奄美大島に42億円の消費を生んだという、報道もありました。

 このように、フルサービスキャリアがなかなか踏み切れない路線もLCCなら飛べる。これが新規の需要につながっています。特に女性や外国人、シニアの利用が目立っていて、今までは友達同士でバス旅行をしていた人たちが、LCCを利用するようになりました。機内でもとても楽しそうです。

―― LCCは地方創生にも貢献しているようですね。

片野坂 ピーチは関空、バニラは成田を拠点としていますが、ピーチは仙台や千歳など、地方空港での拠点化に意欲を示しています。これは地方創生、あるいは観光立国日本にも貢献していけると思います。最近では、各地方空港から、「うちにも路線をつくってほしい」という要請が随分ときているようです。

―― 路線が増えると、ANAとLCC、あるいはLCC同士のカニバリが起きませんか。

片野坂 LCCには自由にやってもらっています。今はそれが大事だと考えています。ピーチの井上(慎一)社長、バニラの五島(勝也)社長が、それぞれの考えでどんどん展開していく。今ではピーチは羽田やバニラの拠点である成田にも入っています。逆にバニラも、ピーチの拠点の関空に入ってきた。こうなると行司としてさばきたくなりますが、そこは我慢して自由にやってもらっています。

―― 地方創生では、各地方の味を全国や世界に紹介するキャンペーンも行っています。

片野坂 「Tastes of JAPAN by ANA」ですね。これは「食」「酒」「スイーツ」「カルチャー」をテーマに3カ月サイクルで3つの都道府県を紹介するもので、機内サービスや空港ラウンジで特産品を利用した食事やデザートを提供しています。始めてから3年がたち、年内には47都道府県すべてを紹介し終えます。これは、全国、そして世界に翼を広げるANAだからこそできることだと自負しています。こういうことで、少しでも日本が元気になってくれたらうれしいですね。

貨物部門を黒字にし3本目の柱に育てる

―― ANAは貨物輸送にも力を入れています。沖縄には貨物基地も持っています。

片野坂 沖縄に貨物ハブをつくってから既に8年がたちます。ここを拠点に、世界に貨物を運んでいます。ヤマト運輸と組んで国際クール宅急便をやったり、最近では越境Eコマースなど新しい分野にもチャレンジしています。これがANAの沖縄におけるプレゼンスを高めています。しかし残念なことにまだ赤字です。現在は貨物の市況が厳しいですし、競争も激化しています。でも事業ですから、貨物部門には、今が正念場だと言っております。貨物部門には近々に黒字化を何とか達成し、ANA、LCCに続く第三の柱となれるよう期待しています。

―― ANAはこれまでJALに追いつき追い越せというチャレンジャー精神で成長してきました。ナショナルフラッグキャリアになった今、ややもするとその精神が薄れるかもしれません。いかにこのDNAを維持していきますか。

片野坂 ここまで来るには紆余曲折ありました。30年前に参入した国際線も、最初はいけいけどんどんで路線を増やしていきましたが、10年たった段階で、会社の経営が苦しくなったため、いったん縮小しています。そして20年目から再び拡大路線を歩み始めた。この間、9.11もあったし、リストラをせざるを得ない時代もあった。けっして順風満帆ではありませんでした。社員はそのことを知っていますから、今がいいからといって浮かれてはいません。

 それにどんなに厳しくても、挑戦する気持ちだけは失ってはいませんでした。経営悪化で国際線を縮小した時も、歴代社長は誰一人、国際線をやめようとは言わなかった。こういう気持ちこそが、ANAのDNAです。

 このDNAを引き継ぐには、歴史を語り続けることです。若い社員にも年表を見せて、この時期は厳しかった。それをどうやって乗り切ったかを伝えていく。慢心することなく、気を引き締めていく。

 航空ビジネスは常にさまざまなリスクと隣り合わせであり、景気変動、紛争、テロ、自然災害や疫病など、突然波が襲ってきます。光があれば常に影がある。そのことを肝に銘じています。

―― 10年後、ANAはどんな会社になっているでしょう。

片野坂 ANAグループの経営理念は、「安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します」というものです。これを実現していきたい。それにつきます。これからも、安全を守り、サービス品質を高め、新しいマーケットを開拓していきます。南米、アフリカ、中東など、路線のないところはいくらでもあります。そしてそういう地域でも、日本企業は進出し、日本人が働いている。ANAが就航するのを待ち望んでいる人もたくさんいます。この人たちのためにも、世界をつないでいきたい。社員にもハッパをかけています。

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