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競争は商品で物流は共同で食品企業の新たな挑戦 本山 浩 FーLINE

本山浩 F-LINE

F‐LINEは、2019年4月、食品メーカー5社(味の素、ハウス食品グループ本社、カゴメ、日清製粉ウェルナ、日清オイリオグループ)の出資により味の素物流株式会社、カゴメ物流サービス株式会社、ハウス物流サービス株式会社(事業の一部)の物流事業を統合して誕生した物流会社。社長の本山浩氏にその取り組みを聞いた。聞き手=萩原梨湖 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年7月号巻頭特集「物流クライシス2024」より)

本山 浩・FーLINE社長のプロフィール

本山浩 F-LINE
本山 浩 F-LINE社長
もとやま・ひろし 1961年生まれ。早稲田大学商学部卒。1983年、味の素入社。味の素冷凍食品執行役員家庭用部長、味の素大阪支社長、加工用調味料部長、常務執行役員などを経て2021年6月から現職。

資本提携で共同配送。最初の壁は出資比率

―― 本来ライバルである食品メーカー5社が共同で物流を効率化、環境負荷低減の効果も発揮しています。どのようなきっかけで物流事業を統合したのですか。

本山 2011年の東日本大震災の影響で交通が途切れてしまい、物が運べない状況を経験したことがきっかけです。1メーカーの物流だけではお客さまのもとに物が行き届かない、それだけではなく原材料や包材も納入できず商品が作れないという状態に陥り、食品メーカー各社は相当な危機感を持ちました。一社一物流という小さなスケールではなく、似通った物流形態を持つ企業同士が協力して、みんなで使える安定的で大きな物流網の構築を目指しF︱LINEを設立しました。

―― 味の素、ハウス食品グループ本社、カゴメの物流子会社の事業を統合する上で最も苦労したのはどの部分ですか。

本山 15年のプロジェクト立ち上げから19年の設立までです。この4年間は各社の出資比率や物流システムの統合、雇用形態の調整など大きいことから小さいことまで、事業化に向けて落とし込む期間でした。

 最も時間をかけて話し合ったのは出資比率をどうするかという内容です。プロジェクト設立当初は、出資会社5社の資産をすべて足すと7割が味の素物流でした。これでは味の素の子会社になってしまい、本来の「みんなで出資して公器としての物流会社を創る」という目的から外れてしまいます。ですので、味の素物流が保有していた土地、建物の一部を売却することで資産を減らし、味の素の出資比率を調整し45%にしました。他4社の構成比は、ハウス食品グループ本社26%、カゴメ22%、日清製粉ウェルナ4%、日清オイリオ3%です。

 出資比率は、味の素、ハウス食品グループ本社、カゴメが大きいですが、それぞれ元の物流子会社としてのスタイルが大きく異なり、それを標準化することが最大の難関でした。
そもそも所有するトラックの数や倉庫の有無に差があります。味の素物流がトラックを500台所有しているのに対し、ハウス物流サービスは約30台、カゴメ物流サービスは一台も持っていません。また、味の素物流は自社倉庫を持っていますが、カゴメ物流サービスは倉庫業務をすべて外部に委託しています。トラックや倉庫のような手足を持つ味の素物流と、物流企画のような役割のカゴメ物流サービス、それぞれ異なる強みを共有できるメリットがある半面、標準化しなくては一企業として稼働することができないという大きな壁がありました。

―― 一筋縄ではいかなかったということですね。

本山 その通りです。社員の待遇も全く違い、給与体系、休日日数、人事とあらゆるものを統一することから始まりました。社員が安心して長く働けるようバランスの取れた人事制度を見直しました。

 その中でも最も標準化に時間を費やしているのが物流システムの標準化です。各社、商品の保管、荷役、包装、流通加工、情報管理、輸配送の流れが全く異なります。この部分は日々稼働しているため、一旦止めて新しい技術を導入したりやり方を変えたりするのは難しく、標準化は道半ばです。

難航する物流効率化。総論賛成各論反対の実情

―― 現在現場ではどれくらい効率化が進んでいるのでしょうか。

本山 新しい技術やシステムは取り入れていますが、現状はまだかなりアナログな手法が残っています。

 例えばトラックに積む荷物の配置や順序、これをAIで組む方法もありますが、導入できていません。従来のやり方通り、ドライバーの経験と知識で降ろす順序を逆算し積んでいます。導入できない理由は、利便性の低さです。われわれが取り扱う商品は形や大きさがバラバラなうえに種類も多いです。より標準化されていてアイテム数の少ない商品、例えばカップラーメンや飲料といったものでないと導入は難しいでしょう。

―― 24年4月からトラックドライバーの残業時間に規制がかかります。さらなる効率化が要求されますが、どのように対応しますか。

本山 4月からの規制はドライバーの労働条件を改善するというのが目的です。ですので、われわれ運送会社もきちんとルールに則ってドライバーの労働環境をつくり、それに合わせたサービスを提供していくことが求められています。

 当社ではすでにドライバーの残業時間は時間内に抑えることができていて、規制の上限である960時間には届きません。われわれの委託先となる大手の運送会社の多くも同様に960時間を切っています。

 2024年問題の対処には2つ方法があり、1つ目は物流を効率化すること、2つ目は商品を受け取る側が、今まで通りでない輸送に適応することです。効率化に関してはほかの企業もわれわれと同様模索中のようです。

 しかし、荷主メーカーや消費者も物流がこれまで通りでなくなることは理解しているはずです。

 30年に今運んでいる荷物の3割が運べなくなる、という予測がありますが、それは今まで通り運べなくなるということです。n+1(受注日プラス配送までの日数が1日)で運んでいたものがn+2(配送までの日数が2日)になる可能性があるということ。これを見越して商品製造計画、発注計画を立てるという方法で対処することもできます。荷主の企業にはぜひそういった方法も積極的に検討してもらいたいです。

―― これからの物流は協力体制が欠かせません。

本山 そのために現場で働く人や委託先とは密にコミュニケーションを取り、積極的にフィードバックをもらうようにしています。

 今後さらに物流の見える化や標準化を行うため、当社では今年4月1日に物流未来研究所という部署を設けました。これは私の直下部門で、出資会社5社の社長会とも連携しています。未来研究所の柱は、国交省が定義づけているスマート物流サービスの提供で、物流・商流データ基盤の構築やITの活用などを通じてサプライチェーン全体の最適化を目的としています。

 ただ、これは物流会社だけの努力で達成できる目標ではありません。商品の生産者、問屋、小売業者、いわゆる荷主と荷請け主と呼ばれる立場のコンセンサスを得ない限り実行に移すことができません。

 物流業務を効率化させるアイデアや技術はたくさんあるのですが、各々の立場で思惑があり、総論賛成各論反対でなかなか前へ進めません。

 そこでF-LINEプロジェクト参加6社との協議を、今後はすべて物流未来研究所のメンバーを中心にして行うことにしました。研究所の各担当者が荷主である各メーカーとの協議を牽引するという仕組みを定着させていく予定です。