物流2024年問題によってもっとも影響を受けるのは誰かといえば、荷主であるメーカーだ。日本の精緻な生産システムは、極力部品在庫を持たないことで成り立っている。しかしドライバー不足で部品や原材料が届かなくては、生産は停止する。そのためメーカー各社は対策に追われている。文=ロジビズ・オンライン編集長/藤原秀行(雑誌『経済界』2023年7月号巻頭特集「物流クライシス2024」より)
政府の働き方改革の一環としてトラックドライバーの長時間労働規制が強化される2024年4月1日まで残り1年を切った。物流現場に大きな混乱が生じると懸念されている「2024年問題」は、一般的には「宅配荷物が運べなくなる」といった捉え方をされることが多い。もちろん、全く影響がないというわけではないが、この問題の本質は、1人のトラックドライバーが以前より長時間、長距離を輸送することができなくなる点だ。
そのため、宅配に限らず日々の社会生活で当たり前のように消費されている製品や食料品が、メーカーの工場から卸事業者の倉庫や小売事業者の店舗に予定通り届かず販売計画に影響したり、原材料を調達できなくなり商品の製造自体に支障を来したりすることが危惧されている。現状を放置すれば日本の経済を支えるB2Bの物流が大きな影響を受ける可能性があるだけに、そうした厳しい状況に直面している荷主企業のメーカーや卸・小売事業者らは輸送の効率化に向け対策を急いでいる。
2024年問題への当面の対応として、荷主企業の間では先端技術を生かした自動化機器を物流センターで積極的に採用し、業務時間を短縮して製品の出荷をスムーズに済ませることで乗り切ろうとする動きが広がっている。
酒類・清涼飲料用のアルミ・スチール缶やペットボトルなどを製造する国内最大手の飲料容器メーカー、東洋製罐は今年4月、埼玉県熊谷市で新たな物流拠点「熊谷物流センター」の稼働を始めた。近隣には取引先の酒類・清涼飲料メーカーの充填工場が多く存在しており、主に顧客向けに東洋製罐の容器の出荷を担う。同センターの運営は100%子会社でグループの物流を担っている東洋メビウスが手掛けている。
同センターの特徴が、製品の出し入れを機械で完了できる自動倉庫を取り入れて入出荷の作業時間を短縮、「トラックを待たせない物流センター」を目指していることだ。自動倉庫がパレットに搭載した製品をコンベアーで出荷口まで自動的に運んだ後、専用の装置でパレットに載せたまま、トラックドライバーが容易に製品を荷台の中へ押して積み込めるよう設計している。
物流センターでは現在もトラックドライバーが本来の運転業務だけでなく、重労働の荷物の積み降ろしまで担うケースが多い。東洋メビウスではトラックが同センターの敷地に入ってから荷物を積み込み、同センターを出発するまで大型トラック1台当たり平均20分程度で終えられると想定しており、こうした運営が恒常化できればトラックドライバーの負荷を大きく減らせるとみている。
東洋メビウスの篠山健司社長は「長く時間がかかるようであれば、運送事業者の方々にわれわれの荷物を運ぶ仕事を選んでもらえなくなるかもしれない。トラックを待たせないようにすることが重要だ。2024年問題までこの1年がまさに正念場。新センターを当社物流のモデルケースにしたい」と強調する。
花王は今年3月、愛知県豊橋市でスキンケアやヘアケアの製品などを手掛ける工場で、新たに物流拠点の運用を開始した。工場には物流施設が隣接し、製造から出荷までを円滑に展開できるようにすることに主眼を置いている。
物流施設にはAGV(自動搬送ロボット)などの自動化機器を取り入れ、入庫から届け先向けに仕分けして出庫するまで完全自動化を実現した。加えて、物流施設は2024年問題を意識し、トラックを待たせない仕組みを導入している。トラックドライバーが事前に物流施設に入る時間を予約し、作業の待ち時間を短縮・解消できるシステムを採用し、物流施設に入る際、ゲートに配置したカメラがトラックのナンバープレートを自動的に認証すると、大型のデジタルサイネージ(電子看板)にそのトラックが向かうべき出荷作業場所の番号と経路を表示して、スムーズに移動できるようサポートする。
さらに、倉庫の入出荷や在庫管理を担うシステムに、トラックが物流施設に入ったことを自動的に送信し、そのデータを基に自動倉庫が製品の出荷作業を開始。トラックに積み込む製品が数分で出荷作業場所に届き始める。花王は一連のシステムを駆使することで、ドライバーが荷物を積み込んだり、降ろしたりするまでの待ち時間をほぼ解消できると見込んでいる。
異業種間の提携でコンテナを有効活用
異なる企業が同じルートで同じトラックに荷物を混載して運んだり、往路と復路で同じトラックや鉄道貨物を活用したりすることで業務を効率化する「共同物流」にも、取り組む荷主企業が増えている。
明治と昭和産業は今年1月、東日本と西日本の間で鉄道貨物を採用した共同物流を開始する方針を発表した。その前段として明治は21年9月、倉敷工場(岡山県)で製造している粉末プロテインを埼玉の物流拠点まで運ぶ約770キロメートルのルートで、主軸の運送手段をトラックから鉄道貨物に切り替える「モーダルシフト」をスタートさせている。輸送時のCO2を大きく減らすとともに、トラックドライバーの労働負荷軽減を図ってきた。
1月以降は、岡山県の貨物ターミナル駅から埼玉県の貨物ターミナル駅まで明治の製品を運んだ鉄道貨物コンテナの復路で、昭和産業が千葉県に構えている工場から製品を東京貨物ターミナル駅で搭載。兵庫県の神戸貨物ターミナル駅まで鉄道貨物で輸送し、同県内で昭和産業が運営している物流拠点へ届けている。
明治だけでは鉄道貨物コンテナの復路が空だったが、昭和産業の商品を積むことで往復ともにコンテナを有効活用し、輸送効率を高めるのが狙いだ。CO2の排出量が少ない鉄道貨物に切り替えることで、脱炭素の潮流に対応していきたいとの思惑もある。
明治は24年度にトラックドライバーの長時間労働規制が強化される方針が決まる以前から将来のドライバー不足深刻化を意識し、対応を進めてきた。4月には協力運送会社を対象に、軽油価格の高騰をカバーするための燃料費補助制度を見直し、よりきめ細かく軽油価格の変動に対応できる仕組みに変更した。その背景には協力運送会社の経営をサポートし、関係をつなぎとめたいとの切実な思いがある。
サントリーホールディングスと大王製紙は昨年8月、関東~関西間の製品輸送を効率化するため、新たな取り組みを始めると公表した。東京~大阪間の長距離は鉄道貨物輸送に切り替え、神奈川県のサントリーグループ工場から東京貨物ターミナル駅で積み込み、大阪府の安治川口駅まで届け、大阪府内のサントリーグループ拠点に輸送する。その帰りは兵庫県にある大王製紙の製造拠点から製品を安治川口駅で鉄道貨物コンテナに積み込み、再び東京貨物ターミナル駅から神奈川県内の大王製紙物流拠点へ収める。
サントリーグループは従来、関西から関東への貨物移動が、関東から関西に比べると少なかったため、単独では鉄道貨物へのモーダルシフトが難しい状況だった。そこで、関西から関東への荷物輸送が多く、業務効率化を模索していた大王製紙と組むことで往復の鉄道ルートを有効活用できるようにし、モーダルシフトの実現にこぎ着けた。
両社は他にも、トラックで荷物を輸送する際、双方のグループの製品を混載し、積載率を100%まで極力近づけるようにしている。サントリーグループの飲料を積み込んだ後、荷台上部の空いたスペースに大王製紙の紙製品などを搭載。この取り組みで両社のトラック稼働台数を抑制、トラックドライバーの負荷を軽減している。
ライバルメーカーがタッグを組むケースも
共同物流は商品がよく売れる繁忙期が異なるために混載しやすいことなどから、異業種間で進むケースが多い。しかし、トラックドライバーの不足などの課題を前に、同業他社間でも共同物流に踏み切るケースが出てきている。
化学品大手の三菱ケミカルグループと三井化学は今年1月、化学品の物流に関する標準化・効率化を共同で検討すると発表した。三菱ケミカルの製造拠点が三重県、三井化学の製造拠点が愛知県にそれぞれあることなどから、中京エリアで共同物流を本格的に展開することを目指している。他にも、双方が持つ物流のネットワークを使い合ったり、海上で化学品を輸送する内航船を共同で利用したりすることも視野に入れている。
輸送手段をトラックから鉄道やフェリーに切り替えるモーダルシフトは、2024年問題の存在をにらみ、企業単独でトライする動きも相次いでいる。スズキは4月、補修部品などでモーダルシフトを拡充する方針を表明した。既に実施している鉄道輸送に関し、新たに大型の31フィートコンテナを採用した。現在使っている12フィートコンテナより積載量が2倍以上増えるのがメリットだ。まず静岡県の西浜松駅から福岡貨物ターミナル駅までの週2回の輸送で利用をスタート、徐々に利用ルートを拡大していくことを念頭に置いている。
昨年12月に北海道で新たに稼働を始めた部品センターへの輸送については、静岡県の部品工場からの輸送距離の約8割を海上輸送に移行した。鉄道と海上輸送の両方をバランス良く使うことで、トラックドライバー不足でも物流ネットワークを持続可能にしようと奮闘している。
ただ、産業界全体がカーボンニュートラルへの対応を強いられている中、モーダルシフトの需要が高まっているが、鉄道貨物輸送はJR貨物がJR各社のレールを借りて実施していることなどから輸送能力を急速に拡充するのは難しいのが実情だ。近年頻発している大雨や地震などの災害に弱く、運休に追い込まれやすいこともウイークポイントだ。2024年問題の解決を下支えするインフラとして、いかに強化を図っていくかが求められている。
また、2024年問題に関しては、トラックドライバーを物流業界につなぎとめるためには、もちろん作業の負荷低減も急務だが、全産業の平均に比べて1割程度低い賃金の底上げが不可欠だ。今後は荷主企業としても運送事業者と運賃を最適化する交渉に応じ、トラックドライバーの賃上げを実現できるだけの原資確保に取り組む必要性がこれまで以上にに高まりそうだ。