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コンテナと車体を分離しドライバーの作業を減らす 柳川弘之 ホームロジスティクス

柳川弘之 ホームロジスティクス

ホームロジスティクスは、2010年にニトリの物流部門が分社化して誕生した。ニトリグループの「製造物流IT小売業」という独自のビジネスモデルを一貫物流によってサポートするとともに、さらなる効率化を目指す。柳川弘之社長に自社物流の強みを聞いた。聞き手=萩原梨湖 photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年7月号巻頭特集「物流クライシス2024」より)

柳川弘之・ホームロジスティクス社長のプロフィール

柳川弘之 ホームロジスティクス
柳川弘之 ホームロジスティクス社長
やながわ・ひろゆき 1967年生まれ。89年にニトリに入社後、物流部札幌DCからキャリアをスタート。 店舗運営部や物流海外システム構築担当、総合物流プロジェクト担当などを経て、2018年にホームロジスティクスの営業本部ゼネラルマネジャーに就任。20年5月から現職。21年にはホームカーゴを設立、社長を兼任。

国内自社物流拠点の再配置で長距離輸送に抜本的改革を

HOMELOGISTICS
HOMELOGISTICS

―― ホームロジスティクスの親会社ニトリでは商品の約90%を海外拠点で生産し、製造から輸入、販売までの物流を含めたプロセスをすべて自社で行っています。

柳川 われわれは2010年にニトリから分社化した物流会社です。貨物利用運送という形でパートナー契約を結んだ運送会社に運送業務を委託し事業をしています。

 分社化した理由は、今まで構築してきた物流ネットワークを利用した運送事業を行い、さらなる効率化を図るためです。

 われわれが扱うニトリの商品は家具もあるため、他社からの依頼でも家具を取り扱うことが多いです。家具は個人宅に配送することがある特殊な物流ですが、日本全国へ供給するネットワークを持った物流会社は少ないと思います。

―― 24年4月からトラックドライバーの残業時間に規制がかかります。人手不足にはどう対応しますか。

柳川 この規制は、トラックドライバーの労働環境改善を目的としているため、長距離運転を回避し長時間労働を削減することが有効です。

 そこで、当社は中長期経営計画として国内自社物流拠点の再配置を掲げています。約3500億円を投じ、2・5万~12万坪の物流センターを日本全国8カ所に新設する計画です。

 物流センター間の距離を適正化することで、必然的に長距離輸送が発生しないような配置です。

 今まで東北エリアには物流センターがなく、秋田や青森の店舗に商品を供給する際は、500キロメートル以上離れた関東の物流センターから長距離輸送で運んでいました。しかし、24年8月から仙台市に物流センターを新設するため、今後は東北6県の供給をこちらでカバーできるようになります。

 これと同じような考え方で営業所の再配置も行います。営業所はラストワンマイル配送の拠点として全国に80カ所ありますが、広域な配送商圏を担っている営業所はトラック配送の効率が良くありません。

 例えば、静岡県富士市の営業所拠点では、東側の沼津と西側の静岡、両方面を配送エリアとしていました。しかしそれでは輸送距離が長く、配送効率が悪いため、沼津市と静岡市の2カ所にそれぞれ営業所を再配置することで配送エリアを狭めました。

―― 拠点を自由に配置できるのは自社物流の特権ですね。

柳川 自社物流ならではの工夫で、ドライバーの仕事を一定量確保することもできます。

 ニトリでは店舗への納品を週の前半に集中させていました。土日に店舗が繁盛するため、それに向けて店内の準備ができるようにという目的で習慣になっていました。

 しかし、店舗では一度に大量の商品が届いても当日には処理しきれず、店のバックルームを圧迫し、店にとっても効率の悪い納品計画で供給していたことが分かりました。運送会社にとっても、週の中で仕事量に偏りがあるのは非効率です。

 これを改善するために、われわれ物流側からニトリの商品部や店舗運営部に提案し、月曜から金曜までの出荷物量を一定量に平準化することにしました。

 毎日同じ物量を供給するようにしたことで、トラックとドライバーの確保にかかるコストは抑えられ、ドライバーのシフトや勤務形態も安定させることが期待できます。

計画的な共同輸送で一定の輸送量を確保

―― 周りからの評価はどうですか。

柳川 20年12月にスワップボディコンテナを使った荷役分離の取り組みが国土交通大臣賞を受賞しました。

 スワップボディコンテナとは、荷台となるコンテナと、運転するヘッドを分離できるトラックです。トレーラーと違ってけん引免許が不要なので、一般の大型免許だけで運転できます。当社はこのスワップボディコンテナを159台所有しています。

 ドライバーはこれまでトラックに荷物を積み込む「荷役」という作業が業務に含まれていましたが、荷役分離により、積み込みは倉庫作業員が実施するため、ドライバーは荷物が積まれてあるコンテナをシャーシに乗せるだけで出発できます。

 荷役で1~2時間要していた作業時間が無くなり、ドライバーの拘束時間が大幅に削減できるようになりました。

 今まで課題だった荷役分離の実現が評価され、国土交通大臣賞の受賞につながりました。

 現在はこのスワップボディコンテナを利用してユニ・チャームと共同輸送を行っています。当社の荷物を関西の物流センターから四国へ輸送をする際の、帰り荷を探していた時にユニ・チャームとマッチングしました。ユニ・チャームはわれわれと反対で、四国から関西へ送りたい荷物はあったのですが、帰りの荷物がなかったため、当社の帰り荷としてスワップボディコンテナを利用して運んでいます。

 従来は、往復どちらかしか荷物がない片荷運行や、運送会社が自分たちで帰りの荷物を見つける方法を取っていました。

 しかし、荷主であるわれわれやユニ・チャームにとって、片荷の運賃は割増しなのでコストアップになります。運送会社は必ずしも帰りの荷物を確保できるわけではなく、安定した仕事量の確保は課題でした。

 これが改善できたことは、われわれだけでなく、ユニ・チャームや運送会社にとっても大きなメリットになります。

―― 運送業社の労働環境や仕事量を守るというのも荷主の役目ですね。

柳川 その通りです。トラックドライバーという職業が必要だからこそホワイトな労働環境づくりが求められています。

 当社は全国の物流ビジネスで、地場の運送業者と契約をしています。運送会社からの要求や提案の声がダイレクトに届くような体制を整えているため解決に向けていち早く行動することができます。

 数百社とのコミュニケーションは時間や手間がかかりますが、それ以上にサービスや品質を高いレベルで維持することにもつながっていると思います。