ネットショッピングなどのラストワンマイルを支えているのが黒ナンバーの軽トラックによる配送だ。この役割を担う軽トラドライバーの最大の課題は生産性の低さ。その問題をドライバー目線によるプラットフォームで解決するのが松本隆一社長率いるCBcloud(CBクラウド)で、今やドライバーの4人に1人が利用する。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年7月号巻頭特集「物流クライシス2024」より)
松本隆一・CBcloud社長のプロフィール
マッチングに必要な時間は最短56秒と大幅短縮
―― CBクラウドが提供する「Pick Go(ピックゴー)」は軽トラック配送業者のためのプラットフォームです。軽トラドライバーの多くが個人事業主ですが、2024年問題は個人事業主にも適用されるのですか。
松本 働き方改革関連法の改正改善基準告示は個人事業主も対象になっていますので、当然、影響は出てきます。
―― どのようなことが起きると想定していますか。
松本 一番影響を受けるのは上流のトラック輸送のところでしょうが、そのしわ寄せが軽貨物配送にくることが予想されます。その結果、個人事業主の方々も過重労働に陥りやすい状況になることも想定しています。また、事故が増えるなどの弊害が起きるかもしれません。荷主企業には、荷物が予定どおりに届かない、あるいは集荷時間が前倒しになるなどの影響が考えられます。
―― ドライバーは、来年、環境が変わることを知っていますか。
松本 それはまちまちですが、それをお伝えするのも私たちの役割だと考えています。私たちのプラットフォームはスマートフォンにアプリをダウンロードしないと使えません。ですが最初はスマホで仕事を受けるということになじんでもらえませんでした。私たちは物流業界の価値を上げるという強い信念をもってこのビジネスを始めています。ですから何か変化が起きたら、それを周知させてより付加価値の高い働き方を提供する。これは2024年問題に限らず、物流業界の価値向上に関わるすべてにおいてやっていきたいと考えています。
―― ちなみにピックゴーとはどのような仕組みなのですか。
松本 ピックゴーは荷主とドライバーを直接つなぐ配送プラットフォームです。以前は荷主から仕事を頂くと、電話でドライバーを探して依頼し、仕事が終わったら報告を受け、それを集計して月末に荷主に請求書を送る。この作業を、すべてデジタル化したのがピックゴーです。仕事を頂いたら、ピックゴーに登録するすべてのドライバーにその情報がいき、仕事にエントリーするかどうかはドライバーが決めます。以前は引き受けてくれるドライバーが見つかるまで順番に電話をかけなければならなかったため時間もかかりましたが、今は最短56秒で配車ができ、配車率は99・2%に達しています。一方ドライバーにとっては、多種多様な案件の中から仕事を選ぶことができ、自分の空いた時間に副業的に仕事をすることも可能です。このサービスを24時間365日提供しています。
サービスを開始した時の軽貨物の登録ドライバーは450人程度でしたが、今では5万人を超えました。日本の軽貨物ドライバーは21万人程度といわれていますから、約4人に1人が利用していることになります。
―― もう1つ「SmaRyu(スマリュー)」というサービスもありますね。
松本 宅配業務の課題のひとつに効率の悪さがあります。例えば配送ルートひとつとってもどれが最適ルートなのか、なかなか分からない。あるいは留守宅の場合、配達できず二度手間になってしまいます。しかしスマリューポストを利用して、荷物についたバーコードをスマホでスキャンすれば、時間指定や在宅率予測を反映した経路を自動的に作成して地図上に表示するため、ドライバーはその指示に従って走行することで効率良く配送することができます。さらには荷物を積み込む際も、車内の荷積み位置を自動的に指定するため、目的地についてから効率的に荷物を降ろすことができ、作業時間を短縮します。そのため配送効率は60%以上アップし、運行前の作業時間を50%以上削減できます。
従来の宅配現場では、アナログな業務方法やドライバー個人の経験や目算に頼った属人的なオペレーションのため、業務非効率が課題となっていました。しかしスマリューポストでドライバーの過去の動きなどを勘案しながらルートを提案し、無駄をなくして生産性を上げていく。こうした取り組みを愚直に続けてきましたし、今後も続けていきます。
配送の最適ルートをスマホの地図に表示
―― ほかにはどんな取り組みを行っていますか。
松本 われわれはドライバー目線で会社を運営してきました。ですからドライバーの生産性を上げ、収入を増やしていく。それと同時に、ドライバーであることに胸を張れるようにしたいと考えています。そのためには、ドライバーの生活を安定させる必要があります。そこで、これまでわれわれはアセットを持たずにやってきましたが、物流拠点を自分たちで持つことにしました。
ECサイトなどで注文された商品を、われわれの物流拠点に運び、ルートごとに仕分けし、ラストワンマイルを軽貨物ドライバーに運んでもらう。これまでは荷主からの依頼があって初めてマッチングしていましたが、自ら仕事をつくっていく。そうすることで、提案型の営業が可能になりました。
―― どんなケースがありますか。
松本 ある大手アパレルブランドのEC宅配を請け負っているのですが、。このブランドは非常に人気があって、発売当日に手に入れたいというロイヤルカスタマーが多くいます。新商品発売日には注文数が増え、それに伴い配送個数が増加します。これに対応するのは相当難しい。しかしピックゴーは、5万人の軽貨物ドライバーが登録しているため、配送個数の波動にも柔軟に対応できる。実際に、そのブランドの1日の平均出荷数と比較して5倍量の商品を発売当日にお客さまに届けることができ、大変喜ばれました。
荷主にとって物流はコストで、安ければ安いほどいいと考えていることが多かったのですが、こうした取り組みによって、そのブランドからは「CBクラウドはわれわれのインフラでありパートナーだ」と言っていただけるようになりました。
このように、これまで以上の価値を荷主に提供することができれば、その価値に見合った報酬を頂くことができます。それをドライバーに還元すれば、ドライバーの収入も増え、生活も安定する。そうなれば積極的にドライバーを目指す人も増えてくる。そういう世界を目指したいと考えています。