商業用ドローンの機体開発を手掛けるテラドローン。測量、点検、データ分析、運航管理など産業向けサービスの最前線で活躍する同社は、移動手段として新たに「空飛ぶクルマ」の開発にも力を入れている。ものを運ぶ「物流用ドローン」についてはどのような計画があるのか。聞き手=萩原梨湖 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年7月号巻頭特集「物流クライシス2024」より)
徳重 徹・テラドローン社長のプロフィール
ドローンを着実に進化させ空の道をつくる
―― 2016年に創業して7年がたちますが、現在はどのようなサービスを展開していますか。
徳重 1つ目はドローンを用いたレーザー・写真測量です。測量結果から高精度3次元図面を短時間で作成し、施工管理に役立つサービスを大手ゼネコン・建機メーカー・測量会社等へ提供しています。すでに400回以上のUAV(無人航空機)測量実績があり、2時間飛行が可能な固定無人機も自社で開発しています。
そして2つ目に、中心だった測量に加え点検の分野でもドローンを活用しています。
3つ目はUTMというドローン運航管理システム事業です。ドローンが産業になるためには必ず「目視外飛行」といって、操縦者の視界内にドローンが存在しない状態での操縦を実現させなければいけません。ドローンが何台も上空を飛び交う状態にするためには、飛行機と同じように、どこに何が飛んでいるかをシステムで管理しなくてはならないためドローン管制システムの開発も行っています。
今後のビジョンとしては、測量、点検、UTMという順で事業を大きくしていき、現在はステップアップとして空飛ぶ車にも挑戦しています。そして最終的にはグローバルへの進出を目指しています。
―― 開発中の空飛ぶクルマはどのような目的で使用されることを想定していますか。
徳重 基本的には移動用で、交通の分散と地域航空の活性化を目的としています。
都市交通の滞留を改善するために、地上150メートルから300メートルの空間に道を作りそこを交通してしまおうという発想で始まりました。地上では自動運転の開発、さらに上では宇宙開発が始まっているため、この領域は空飛ぶクルマやドローンの出番というわけです。
また距離で言うと200キロメートルくらいまで飛行できるため、県と県をまたいだ移動にも使えます。例えば飛行機で松山市から那覇市に行くとすると、一度福岡空港を経由する必要がありました。しかし、空飛ぶクルマを使えば一直線で行けるので、点と点の移動が可能になります。このように都市と地方で用途は異なりますが空飛ぶ車の実現は移動手段に革命を起こします。
―― 人を運べるということは、ものも運べます。
徳重 その通りです。人を乗せる前にものを配送する流れが来ると思います。実際に中国では何度も実証実験を行っており、実績も得られています。
私が中国で実験した例でいうと、事務所で打ち合わせをしていた日、昼食にケンタッキーをドローンでデリバリーしました。ドローンは上空からやってきて駐車場にあるドローンポートに到着、自動で荷物を整えポートの受け取り口に設置します。これで受け取り完了です。
技術はクリア残るはビジネス面の課題のみ
―― 有人地帯を飛行できるようになり日本では22年12月に無人航空機の規制が緩和されました。ドローン配送は実現できそうですか。
徳重 技術面は特に問題ありません。ただ、ドローンで配達できる荷物は1つなので、B2Bよりはラストワンマイルで利用するのが適しています。そうなったときの問題は受け取り手の許容範囲です。中国でドローンによるデリバリーが進んでいる理由は、配達の精度が多少低くても国民がそれを許容できているからです。日本ではバイクデリバリーのサービス品質が高く、それが当たり前になっています。
しかしドローン配送では、中身が傾いていたり、人通りのある場所や駐車場の真ん中に届くこともあります。果たして、日本人はこれを許容できるでしょうか。
―― 25年ごろまではドローン物流の社会実装に向けた準備期間だというロードマップを国交省が掲げていますが、26年以降のサービス展開は考えていますか。
徳重 われわれの技術がドローン物流で力を発揮するとしたら、一番は航空管制システムUTMです。UTMをパッケージングし、物流会社に利用してもらうというのが有力な応用方法で、現在複数社とそのような話を進めています。
ただ、ドローンの物流利用を考えたときに明確な課題が2つあり、1つはペイロードの問題です。ペイロードというのはドローンに搭載する荷物や機器の最大積載量のことです。ペイロードが重いほど機体が大きくなり、機体が大きくなると飛行の安定性も低下します。
2つ目は距離の問題です。重いものを持ち上げるにはそれ相応のパワーが必要になります。大きな機体で重い荷物を運ぶとなると、持ち上げるのにパワーを使ってしまい、必然的に走行距離が短くなってしまうのです。書類や手紙などの郵便物や、医薬品などの軽い物でしたら簡単に運べますが、3キロくらいあるパソコンやそれよりも重い物は運ぶのが難しくなってしまいます。
さらにドローン物流をビジネスにしようとするとどうしても利益と市場規模を考慮しなくてはなりません。ドローン自体は非常に便利で、さまざまな業務の省人化・効率化に寄与しますが分野を選びます。日本では主に測量でドローンが使われていますが、海外では異なります。アメリカでは送電線の点検、インドネシアでは農薬散布。その国の産業や地域の特性によってドローンの開発目的も変わってきます。
配達目的のドローンを開発したからといって、それに対してどれほどの需要があるかは不明です。もちろん山間部や過疎地域への配送、災害時などの支援物資輸送でドローンは大きな役割を果たします。しかしこれはドローン配送しか手段がないという状況であって、都市でそのような需要はあまりありません。
ですので現段階ではドローンの可能性を配達に限定する必要はないと考えています。よって当社のドローンビジネスは、引き続き需要の多い測量・点検と、物流も含むさまざまな業界向けのドローン用UTM開発が中心になると思います。
ただ、今後別の企業からドローン物流事業のお誘いがあれば喜んで当社のドローン管制システムUTMを提供したいと思っています。