マネジメント

 若者のアルコール離れが言われて久しい。さらには缶チューハイをはじめ低価格飲料などの影響で、ビール類の販売は振るわない。しかしサッポロビールのビール販売は好調で、15カ月連続で前年より数量を伸ばしている。いかなる手段を用いたのか。昨年末までビール事業会社の社長を務め、1月1日にサッポロホールディングス社長に就任した尾賀真城氏に話を聞いた。 聞き手=本誌/関 慎夫 写真=幸田 森

 

尾賀真城・サッポロホールディングス社長プロフィール

尾賀真城氏

(おが・まさき)1958年東京生まれ。82年慶応義塾大学法学部を卒業しサッポロビール入社。2006年首都圏本部東京統括支社長、09年執行役員北海道本部長、10年取締役兼常務執行役員営業本部長、13年社長、今年1月1日、持ち株会社のサッポロホールディングス社長に就任した。

 

本業のビール回帰で15カ月連続前年比増

―― 1月1日付でサッポロホールディングスの社長に就任しました。前日まで務めた事業会社であるサッポロビールの社長とは何が違いますか。

尾賀 サッポロホールディングスは、国内酒類事業以外にも、国際、食品・飲料、外食、不動産と計5つの事業セグメントがあります。今までに比べると事業の幅が大きく広がりました。しかも、これまでは国内中心だったのが、海外の事業も見なければいけない。海外の比重が高くなることが、一番変わったことかもしれません。

―― 国内市場において昨年のビール類の出荷数量は約98%、ビール、発泡酒、新ジャンルのすべてが前年割れという結果に終わりました。その中でサッポロビールは、99.5%と健闘し、ビールに関しては15カ月連続で前年を上回り好調です。ビール離れが進む中、どういう施策を打ってきたのですか。

尾賀 われわれは発泡酒や新ジャンルの先鞭をつけ、市場を開拓、成果を上げてきました。ただし、多くの商品を投入した結果、分散したところがあったことは否めません。

 そこでもう一度原点に戻ろうと努めてきました。それが本業のビールに特化するというものです。デフレ社会とあって低価格商品が人気を集めていますが、その一方で、本当においしいものを味わいたいという人も増えています。そこに注力した結果、お客さまが支持してくれた。

 お客さまがサッポロと聞いて何を思い浮かべるかというと、やはりビールです。ですから原材料にこだわり、もっとおいしいビールを提供していく。しかもビール以外のシーンや器など、お酒の文化をトータルで提案する。

 今後、ビールの需要がぐんと伸びるということはないかもしれませんが、それでもお酒の中では一番飲まれている商品です。そこにアプローチをしていきたいと考えています。

―― ビールが好調とはいえ、業界シェア4位の座が定着しています。

尾賀 シェアは買っていただいた結果、支持された結果ですから、われわれにとっての通信簿です。だからものすごく意識はします。でも気にはしますが、シェアのためになんでもやるということではありません。

 利益の度外視など論外です。相手を気にするより、われわれ自身が、マーケティングをしっかりできているか、お客さまにメッセージが届いているかを重視すべきだと考えています。

営業100年を超える銀座ライオンの歴史

―― 海外の仕事が増えると言いますが、他社のような大型のM&Aを考えているのですか。

尾賀 2006年にカナダのスリーマン社を買収しました。売り上げで1.5倍、営業利益は2.8倍に成長しています。一方で、東南アジアでも販売が伸びています。ベトナムでは自社工場も稼働しており、今後も伸ばしていきます。北米と東南アジアの2つのエリアに注力していきます。

 M&Aは否定しませんが、単に規模が大きくなるというだけでなく、それでビールがおいしくなるのか、お客さまにとって素晴らしいことが起きるかという観点が必要です。規模を拡大しコストカットすることで利益を生んだとしても、それだけでは意味がありません。われわれのやっていることをさらに深められる、共に成長していける相手であることが肝心です。

―― 食品・飲料、中でも飲料は、大手メーカーの間で熾烈なシェア争いが起きています。そこで存在感を示すのは大変です。

尾賀 おっしゃるように、飲料水は大手のシェアが高く、そこで勝負するのは厳しい状況です。ですから、お茶やコーヒーだけでなく、オリジナリティーのある商品を出していく方針です。

―― ポッカを統合して5年目になります。その効果はどんなところに出ていますか。

尾賀 ポッカを統合した当時、サッポロの飲料事業は300億円の売り上げしかありませんでした。そのままで生き残れたかどうか。ポッカは伸びる分野を持っています。最近ではスープが好調ですし、もともとレモンの会社ですから、その特徴を生かした商品づくりが可能です。

 それに、シンガポールではお茶市場で約5割のシェアを誇るなど、東南アジアで非常に強い。ですから単に国内のみならず海外でも相乗効果を引き出せるし、物流や原材料の調達などでも、その効果が出ています。

―― 外食についてはいかがですか。

尾賀 ヱビスバーを全国の主要都市で展開していますが、好調です。単にヱビスビールを飲んでいただくだけでなく、ヱビスビールの情報発信の拠点として位置付けています。

 一方で銀座ライオンは、世界一のビヤホールチェーンを目指しています。銀座7丁目店は創建から82年がたちました。昨年リニューアルオープンした銀座5丁目の店の歴史は100年以上です。

 こんな一等地でビヤホールをやるのかと言われることもありますが、ビールを楽しむ場であるだけでなく、お客さまとわれわれの接点の場でもあります。ビヤホールを広めたわれわれだからこそ、続ける価値があると考えています。

―― 不動産事業の中核である恵比寿ガーデンプレイスは高稼働率が続き、大きな収益源になっています。

尾賀 恵比寿ガーデンプレイスができた時に、ここは収益源になると思っていましたし、実際そうなりました。

 でも開業したのはバブル崩壊後で、その借入金の負担は大変でした。今、恵比寿は住みたい街ナンバーワンになっています。われわれも多少の貢献ができたのではないかと思っていますし、今後とも付加価値を高めていきたいと考えています。とはいえ不動産事業にはリスクがつきものですし、他の不動産会社のような大規模開発は考えていません。

新ジャンルを開拓し既存商品を磨き上げる

20170221SAPPORO_P02―― この1月から新しい中期経営計画がスタートしました。20年度に売上高6400億円、営業利益340億円が目標ですが、課題はなんですか。

尾賀 ビール類に関して言うと、どのカテゴリーにも商品があふれています。お客さまの選択肢がたくさんある中で、どうすれば選んでいただけるか。ひとつは先駆者として新しいカテゴリーを創出すること。糖質、プリン体、人工甘味料をゼロにした「極ZERO」などがそれにあたります。

 もうひとつは、既存の商品でも、「この商品いいよね」と思ってくれるお客さまを増やすこと。そのためには、もっとおいしくするだけでなく、情報発信もきちんとして、お客さまがサッポロの商品を選ぶ理由を提案していく。

 そうした努力を各事業会社が行うことで、あの会社いいな、とお客さまが支持してくれる会社に成長していきたいですね。

―― さらにその先、どんな会社にしていきたいですか。

尾賀 26年に創業150年を迎えます。そこで昨年「サッポログループは世界に広がる『酒』『食』『飲』で個性かがやくブランドカンパニーを目指します」という「2026グループビジョン」を発表しました。

 われわれが以前からよく言っていたのは、「強くて良い会社」になりたいということでした。過去20年を振り返ると、収益に苦しんだ時代もありました。谷が来ても揺るがない、社員のやる気や活気がみなぎる。それが強い会社です。良い会社とはお客さまから信頼され、社会からも信頼される会社です。

 日々、それを目指し、着実に新しいことへのチャレンジを積み上げてきた結果、10年前と比べても着実に収益力がついてきました。これからもこれを継続していきます。

黒ラベル販売中止で学んだ継続の大切さ

―― 継続はサッポロビールの文化のひとつです。箱根駅伝も1987年にテレビ中継が始まって以来スポンサーを務めています。経営が厳しい時も恵比寿の土地を手放そうとはしませんでした。

尾賀 もしそういう文化があるとしたら、ビールは継続することが大切な事業だからだと思います。一度やめるとすべてが台無しになってしまうことがあります。

―― 黒ラベルをやめたことの反省ですか(89年に販売を中止したが半年後に復活)。

尾賀 それはあります。あの時、私は池袋で営業していましたが、お客さまがどれだけ商品を愛してくださっていたか、強く感じました。お客さまから「(黒ラベルが)復活しなければサッポロはもう飲まない」とおっしゃっていただき、その声が集まり、復活が決まりました。

 今でも商品のデザインを少し変えただけでもご意見をいただきます。クレームではなく、それだけ多くの人が商品を理解し、飲んでいるということです。本当にありがたいことです。こういう人たちに支えられている。それを忘れてはいけません。

―― 最後に、尾賀さん自身が事業会社の社長から持ち株会社の社長になったことで変わらなければならないことはなんでしょう。

尾賀 もっとグローバルな感覚を磨いていきたい。これまではたまに海外出張するぐらいでしたので。もうひとつは、なんでも自分でやろうとは思わないこと。

 それぞれの事業に優秀な担当者、社員がいます。彼らにやる気を持って働いてもらえるよう努力していきたいですね。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る