ゲストは銀座「クラブ麻衣子」オーナーママの雨宮由未子さん。1971年のオープンから現在まで、政財界人、作家など数多くの著名人が集う「紳士たちの社交場」として愛されてきました。由未子ママが麻衣子の経営で大切にしてきた思いを伺いました。似顔絵&聞き手=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=幸田 森(雑誌『経済界』2023年2月号より)
クラブ麻衣子 雨宮由未子氏のプロフィール
一流の著名人に愛される「麻衣子」を23歳でオープン
佐藤 由未子ママが銀座で「クラブ麻衣子」をオープンしたのが1971年。今日まで約半世紀にわたり、「紳士たちの社交場」として、誰もが知る経営者や作家など、各界の著名人に愛される、名実ともに銀座を代表するクラブになっています。
雨宮 ありがとうございます。長年通ってくださる皆さんが応援してくださり、コロナ禍の2021年、50周年を迎えることができました。
佐藤 銀座のクラブというと、敷居が高くてママは髪形も身なりも武芸の師範代のようにピシッとされていて粋な印象です。ところが、由未子ママは上品でありながら柔和で竹久夢二の絵のようです。
雨宮 恐れ多い(笑)。ありがとうございます。私はいつも自然体で前向きにやることを心掛けてきました。仕事は何十年たっても飽きませんし、常に新しいやり方を模索しています。ただ性格的にぎすぎすしたくないので、仕事も趣味も詰め込みすぎないように気を付けています。
佐藤 その前向きさが今日の麻衣子の心地よい雰囲気をつくっているのですね。少子高齢社会の現在は昼も夜の世界も人材不足で、限られた有能な若手をいかに見つけ出すか、またいかに育てていくかが問われています。由未子ママはお店の女性をどう集めているのですか。
雨宮 スカウト、紹介など常に広い間口で探していて、そこから選んでいます。最近うれしかったのは、拙著『寄り添う』を読んだ学生がこの世界に興味を持ってくれて、麻衣子で働きたいと連絡をくれたことです。
佐藤 社交場という文化は世界に類のない日本特有のものですし、世代を超えて惹き付ける魅力があるのでしょうね。女性は長く勤めている方が多いのですか。
雨宮 10年以上勤めているベテランもいれば、昼職と掛け持ちしている人も、若い人もいます。多様性を排除するのではなく、それぞれ良いところを生かしていくことを大切にしていて、それが麻衣子のカラーになっています。皆が楽しく仕事ができる環境づくりに努めています。
佐藤 仕事を楽しむ場づくりは本当に重要ですね。
雨宮 はい。その上で私たちはお客さまに対し、いかに質と価値の高いおもてなしを提供できるか。麻衣子はただお酒を飲めればいいという場所ではありません。毎日いろいろな問題が起こりますが、その対応も含めてどうすればお客さまに喜んでもらえるかを考え続けることが、この仕事の醍醐味でもあります。
佐藤 麻衣子はお客さまも一流の方ばかりで、紹介なしでは来店できません。最近は大金を手にした若い起業家など、マナーのない勘違いした人もいますよね。
雨宮 そのようですね。ただ麻衣子では、クラブを経験したことのない若い経営者でも、素敵な先輩経営者に連れてこられて、立ち居振る舞いや飲み方を学びます。普段は着ないジャケット姿で場を楽しんだり、緊張して背筋を伸ばしている人も、あるいは若いうちは興味がなくても、経営者として成熟するにつれて社交場に興味を持つ人もいます。
佐藤 そうやって世代を超えて文化が承継されていくのですね。
お店をさらに発展させるため幹部候補育成に力を注ぐ
佐藤 現在は幹部候補の育成にも力を入れているそうですね。
雨宮 良い状態のお店を保つために新陳代謝、世代交代は必要です。私もすぐに引退するわけではありませんが、幹部候補の育成は常に考えています。例えば麻衣子で何年も頑張ってきた人には上位ステージを用意し、新しい仕事の役割も与えたいと考えています。
佐藤 最近は1店舗に複数のチーママがいるところも多いですよね。由未子ママの理想のママ像とは。
雨宮 私が理想とするママは、場所を借りて自分のためだけに仕事をする人ではなく、麻衣子の文化を理解し、後進の女性たちに継承し、質を高め発展させることのできる人です。人材育成は一朝一夕でできるものはなく、毎日の積み重ねです。時間はかかりますがこれを進めていきます。お店を永続させるためには、時代に合った体制を整えることが重要なので、麻衣子でも必要に応じて女性幹部を増やすことも考えています。
佐藤 女性同士、また経験者同士であれば気持ちも通じますしね。
雨宮 おっしゃるとおりです。麻衣子では若い人の良さを引き出し、経験豊かな人たちは知見とキャリアを生かして働けるよう、ベテランは若手を教育する側に回るという体制も整えています。これは男性スタッフも同じです。
佐藤 一人一人が役割を自覚できる職場であれば、モチベーション高く安心して長く働けますし、お店の質も上がりますよね。
雨宮 そうですね。お店の経営は、表舞台で接客する女性だけでなく、それを支える男性スタッフもいて、営業、事務などいろいろな仕事があって成り立ちます。舞台袖で誰が頑張っているかも意識して見ています。
佐藤 私も社長に就任して20年以上たちますが、「企業は人なり」の言葉通り、会社の存続は支えてくれるスタッフのおかげと感謝しています。
雨宮 共に働く人たちの大切さに気づき、皆が活躍できるお店づくりをしていきます。同時に、お客さまにとって「心地よい空間、価値ある時間」を提供し続ける麻衣子であるために努めてまいります。