1万件以上の支援実績を持つ、ECコンサルティング会社いつもの共同創業者であり、『2025年、人は「買い物」をしなくなる』や『買い物ゼロ秒時代の未来地図』など、消費動向に関する著書がある望月智之氏に、2023年の消費トレンドについて聞いた。聞き手=和田一樹(雑誌『経済界』2023年2月号より)
熱狂を生むライブコマース。勝機はコミュニティパワー
ーー 経済産業省などの指標をみると、コロナ禍でEC化率が高まっているようですが、コロナが落ち着いてきた2023年は、リアル回帰がトレンドになるのでしょうか。
望月 たしかにコロナによってECの浸透度合いは増しました。全く経験がなかった人が使ったということもありますし、既に活用していた人も、金額や頻度が増しました。また、商品カテゴリーで言えば、これまでも衣類やコスメはECとの相性が良かったですが、コロナ禍で食品のカテゴリーが伸びています。
ただ、ネットで注文し店舗で受け取る場合のように、購買行動にリアルとオンラインが絡み合っています。ですから、単純にEC化率が高まったと言っても、どこまで消費行動の実態を把握できているかは分かりません。確実に言えるのは、ネットで商品を知ったということまで含めれば、購買プロセスにオンラインが関与している比率が高まったということです。そのため、23年は単純なリアル店舗回帰ということにはならず、オンラインとオフラインが混ざり合っていく消費行動が定着するのではないかと考えています。
ーー EC消費に関して、23年のトレンドは何でしょうか。
望月 注目しているトレンドは2つあります。P2C(person to cons
umer)と、ライブコマースです。どちらも一部では既に過熱していますが、さらに広がる期待があります。
まず、P2Cです。コロナ前くらいから、D2Cという言葉が注目されていました。これは、direct to consumerの略称で、メーカーが卸や小売を介さず、直接消費者に販売するモデルです。そこから派生したP2Cも、同じように消費者に直接販売するモデルですが、売り手は個人(person)です。
前述のようにオンラインを介した買い物が浸透しましたが、改めて人による接客の強さが見直される機運にもなりました。例えばアパレルでは、Zoomのようなツールを使って接客するパターンもありますし、YouTube等にコーディネート動画をアップするようなスタイルもあります。共通するのは、生身の人間がおすすめしていることです。
ECについても、一時期はテキストと画像で商品説明がなされるのが常識でした。しかし、TikTokやInstagramのようなSNSを通じて動画に接する機会が日常化し、情報インプットのスタンダードが動画になりつつあります。そういった環境変化の影響も受けつつ、結局は人が説明する方が分かりやすいという時代になっています。
ーー オンラインの買い物が浸透しつつも、人が起点になる消費が盛り上がるわけですね。
望月 そうですね。2つ目のトレンドであるライブコマースにも、人の力は大きく関わります。
ライブコマースというのは、ライブ配信を組み合わせたECをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。SNSなどでのライブ配信を通して配信者と視聴者が双方向にコミュニケーションを図り、モノやコトを販売します。
コロナ禍で来店が減ったアパレルなどの店舗は、店頭のスタッフに商品写真をSNSにアップさせたりInstagramでライブ配信をさせたりするような動きがありました。フォロワーが1万人くらいいるInstagramアカウントを運用する企業では、自社ブランド商品をインスタライブで紹介したところ、あっという間に完売したという話がいくつもあります。あるいは、普段は百貨店で販売している革雑貨小物のお店がライブコマースを実施し、わずか1時間の配信で10日分の売り上げを稼いだ事例もありました。
ライブコマースはライブであることが重要です。単なる動画のアーカイブにしてしまうと、ここまでの爆発力はありません。双方向の掛け合いを生かして、ライブ会場さながらの熱量を生み出す配信者もいます。配信中のコメント欄では、「もっと知りたいです」や「これ買いました」みたいな普通のコメントもあれば、コメントしている同士で知り合いがいて、コメント欄の中で「〇〇さん今日誕生日だね」みたいなやり取りが発生していることもあります。
しかも、そのコメントをしている同士がリアルでも知り合いということではなく、そのライバーの配信を頻繁に見に来ているからコメント欄でお互いを認識して関係性が生まれているんです。当然、そういったやり取りは配信側にすべて見えていますから、「わー、誕生日おめでとう!」みたいに、配信者がいじるわけです。すると、他の参加者もみんなおめでとー! とコメントするみたいな盛り上がりが生まれています(笑)。
ライブコマースを経験したことない方には理解しがたいと思いますが、もはや言葉では表現しきれないコミュニティパワーです。単純にモノを買うためだけに見にきているというよりも、その空間を楽しみにきている人が数多くいます。まだ未体験の人は、ぜひまず一度のぞいてみることをおすすめします。
インフルエンサーを自社で抱える時代に
ーー 盛り上がっているECですが、これから需要が増すポジションなどはありますか。
望月 社内インフルエンサーですね。現状としては、既存の外部インフルエンサーにPRを委託するケースや、自社のスタッフをインフルエンサーに育てる需要が増していますが、23年はインフルエンサーを社員として自社で抱える流れが強烈に進みます。
外部のインフルエンサーを活用する場合、消費者感覚では伝えられますが、本当に商品を理解し、魅力を発信するのはほぼ不可能です。とはいえ、現実的には育成することは簡単ではありませんので、SNSで多数のフォロワーを獲得している人材を採用する流れに入ります。既に、アパレルやコスメ系の企業では、通常の社員とは別のパスで採用しているケースも少なくありません。
一方、慢性的に不足しているのは、EC店長やECマネジャーと呼ばれる、ブランド全体をコントロールする人材です。現在のECは自社サイトに加えて楽天やAmazonなどのモールもあり、それぞれ個別に戦略を立てて運用する必要があります。さらにはSNS戦略も求められますので、ここまで精通している人材はほとんど市場にすらいないという状態です。デザイナーやエンジニアも重要ですが、究極的にはECも小売りですから、商売が分かる人が不可欠なわけです。
日本経済は長らくチェーン化、均一化の流れが強くありました。けれど、物事が単一化するのは面白くありません。中小企業や地方企業の魅力的な商品が、ライブコマースやSNSの力でより多くの顧客に届くようになることを期待しています。