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自動運転の実用化が自動車の定義を変える

電気自動車

昨年、自動車業界で大きな話題となったのが「EVシフト」だった。そして今年は自動運転に注目が集まっている。すでに一部のクルマで高速道路などでの自動運転が始まっているが、今年はさらに高いレベルの自動運転車が登場する見込みで、2025年の完全自動運転も見えてきた。自動運転にシェアライドが加わることで、クルマは「所有から利用へ」の時代を迎える。クルマの概念が根底から覆ろうとしている。

「トヨタは生まれ変わる」と豊田章男社長がCESで宣言

トヨタ自動車

「私はトヨタを、クルマ会社を超え、人々のさまざまな移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました」と豊田章男・トヨタ自動車社長が高らかに宣言したのは、今年1月に米ラスベガスで開かれた「CES」におけるプレスカンファレンスの壇上だった。

CESを説明する時によく使われるのは「世界最大のコンシューマー向け家電見本市」。つまり本来、電機メーカーが出展する見本市だ。このCESにトヨタは初めて出展し、社長自ら会社の未来像を語ったのだ。

ちなみに昨年、日本で開かれた自動車の祭典「東京モーターショー」のプレスカンファレンスに登壇したのは豊田社長ではなくディディエ・ルロワ副社長だった。地元のモーターショーには登壇せず、米国の家電見本市に登壇する。トヨタのCESへの力の入れようがよく分かる。

展示内容は、トヨタの考えるこれからのモビリティ社会を示した「e-Palette Concept」(eパレット)というもの。箱型ワゴンだが、「電気自動車であり自動運転によって制御される。ライドシェア、物流、輸送、リテールから、ホテルやパーソナルサービスにいたるまでさまざまな用途をサポートするオープンかつフレキシブルなプラットフォーム」(豊田社長)。

このワゴンにさまざまなアプリケーションを組み込むことで、人的輸送や物流など、クルマを使ったビジネスのあらゆることに対応できるというのである。

例えば空港にあるeパレットに乗れば自動的にホテルに連れていってくれるし、商品を注文すればeパレットが届けてくれるというわけだ。サービス開始は2020年代半ばになるが、トヨタの周到なところは既にアマゾン、ピザハット、Uberといったビジネスパートナーが決まっていること。つまりトヨタは本気になってモビリティ社会におけるプラットフォームを抑えようと考えている。

従来のクルマは走行性能が最大の差別化だった。しかしこれからのクルマは単なるプラットフォームにすぎない。むしろその上にいかなるサービス・機能をアプリケーションとして搭載するかが重要になってくる。クルマ社会の未来をトヨタがそう考えていることを、eパレットは証明している。そしてそれがCESに出展した最大の理由でもある。極論だが、未来のクルマはスマホにタイヤが付いたモノだからだ。

今回、CESに出展した自動車メーカーはトヨタだけではない。日産自動車、ホンダ、メルセデスベンツなども出展した。このことからも自動車とエレクトロニクスの壁がなくなりつつあることは明らかだ。

EVシフトと自動運転実用化に向けて変わる自動車業界の構図

では、この先、クルマはどのように進化し、それによって社会はどう変わっていくのだろうか。

現在、自動車社会を大きく変えようとしているのは①EVシフト②自動運転③シェアリングサービス――の3つの大きな波だ。

EVシフトに関しては昨年、イギリス、ドイツ、フランス、中国各国が、30~40年にはエンジンを動力とするクルマを禁止する方針を打ち出したことで火がついた。もともとEVに関しては08年に三菱自動車が世界初の量産型EV「i-MiEV」を発売、さらに翌年には日産が「リーフ」を発表し、これまでに30万台を売るなど日本メーカーが先行していた。

しかしエンジン車を製造しないテスラがアメリカで人気となり、さらには16年にフォードがEVシフトを宣言。そして昨年はフォルクスワーゲンなどヨーロッパメーカーなどもEVシフトを鮮明にしたことで、全世界での競争が始まった。

国産勢ではホンダも「30年までに生産台数の3分の2を電動化する」(八郷隆弘社長)と発表したほか、トヨタも「30年には電動車率を半分にする」(豊田社長)と猛追を始めた(※電動車とはEV+ハイブリッド車)。

EVはガソリンが電池、エンジンモーターに変わるだけで、クルマであることに変わりはない。

しかし、電機業界を見れば分かるように、製造工程が大幅に簡素化されるとともに部品点数が激減するため、自動車メーカーを頂点とした産業構造そのものが大きく変わる可能性がある。同時にテスラのように、それまで自動車製造とは無縁だった企業も参入しやすくなる。

現に中国では、政府がEVシフトを推し進めた結果、EVメーカーが乱立している。やがては淘汰が始まるだろうが、参入障壁が一気に低くなったことは間違いない。

GMの自動運転車の衝撃と実用化に向けての動き

EV以上に社会を大きく変えるのは自動運転だ。それを目指して自動車メーカーだけでなく、グーグルやアマゾンなど、IT企業がしのぎを削っている。

自動運転には5つのフェーズがある。

レベル1・運転支援 加速・操舵・制動のいずれか単一をシステムが支援的に行う。

レベル2・部分自動運転 加速・操舵・制動のうち同時に複数の操作をシステムが行う。

レベル3・条件付き自動運転 限定的な条件下ですべての操作をシステムが行うが、システムが要請すればドライバーが対応する。

レベル4・高度自動運転 高速道路など特定の条件においてすべての操作をシステムを行う。その条件にあるかぎり人間は必要ない。

レベル5・完全自動運転 あらゆる状況においてシステムが操縦する。

現在の自動運転はレベル2にある。昨年発売された、高速道路での同一車線の自動運転を行う日産「セレナ」は、ここに該当する。またテスラの自動運転レベルもここに位置する。

レベル3も目前に迫っている。独アウディは今年、自動運転機能を搭載した「A8」を発売する予定だが、これはレベル3に該当すると言われている。このレベルになると、一般道は人間が運転するが、高速道路に乗れば、降りるまではすべてシステムが担当する。途中の車線変更や追い越しにも対応する。

来年にはいよいよレベル4のクルマが登場する。この1月12日にゼネラルモーターズ(GM)は、ハンドルもペダルもない自動運転車を19年までに実用化すると発表した。GMのEV「シボレー・ボルト」をベースとしたもので、現在公道で走行実験を行っている。

日本でもレベル4に向けての実験は始まっており、日産は「20年までの実用化」、トヨタは「20年代前半の実用化」を公表しているが、GMはその一歩先を行く。GMはリーマンショックで業績が悪化し経営破綻にまで追い込まれたが、自動運転車での浮上をもくろんでいる。

余談だがGMの本拠地であるデトロイトも、ビッグ3の不振により人口が減り都市が荒廃したが、むしろそれを逆手にとって街を自動運転の実験場に生まれ変わらせた。現在では自動運転にかかわる多くの企業がデトロイトで走行実験を行っており、GMも都市も自動運転に未来を賭けている。

完全自動運転実用化で通勤時間はゼロに

その先にはすべての状況下で人間が運転に関与しないレベル5の実用化がある。

政府のロードマップでは25年にレベル5を目指すとなっているが、そのために必要なのは、さらなるセンサー精度の向上とAIの進化だ。既に実用化されているセンサーでも、周囲の状況を認識することは可能だが、例えばトンネルから外に出た瞬間や太陽の反射する雪道などでは認識率が落ちてしまう。これを複数のセンサーを組み合わせるなどして精度を高めていく必要がある。

また前後のクルマや歩行者などの動きを予知するためにもAIをさらにレベルアップする必要がある。AIの進化は日々加速している一方で、米国や中国などで自動運転の大規模な公道実験が行われている。それらのデータを取り込むことで、自動運転はさらに完璧なものになるはずだ。

さらに言えばレベル5の達成がクルマの進化の終点ではない。完全自動運転車は、クルマ自体がICT端末機能を有する「コネクテッドカー」になる。車両の状態や周囲の道路状況などのさまざまなデータをセンサーにより取得するだけでなく、これをネットワークを通じて収集・分析している。

しかも今後は、クルマ同士もデータのやり取りを行うようになる。その結果、どこかで突発的な事故があったら、すぐに代替コースを選んで走行できるばかりか、渋滞情報もいち早く入手できるため、移動時間を最短化することも可能だ。

そしてここでシェアリングエコノミーが加わることで、利便性はさらに増す。例えば自宅から会社までクルマで通勤する時は、スマホで配車アプリを使えば、最短の場所にあるクルマが家まで来る。それに乗り込めば自動的に会社まで連れていってくれる。運転の必要はないので、クルマの中で仕事をしても寝ていてもかまわない。事実上、家と会社が直結するため通勤時間はゼロになる。

物流にも革命が起きる。長距離輸送では自動運転=無人運転が当たり前となり、物流業界の人手不足問題は解決する。しかも休憩時間も不要となるため、配達時間も短縮される。家庭への荷物の配達にしても、在宅時間と場所をAIが判断して最適ルートを進むことで効率ははるかに高まる。

ドライバーの中には自分での運転にこだわる人もいるに違いない。しかし安全性を考えても自動運転が取って代わることは必然だ。そして自動車メーカーはプラットフォーマーとして生まれ変わる。その新しい時代が、2025年のレベル5の実現とともに始まる。

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