今年9月に三井生命保険株の8割を取得し、同社を買収すると発表した日本生命保険。2016年3月末までに買収を完了し、保険料収入で首位に立った第一生命保険から首位の座奪還を狙う。日生の次の動きに関して、業界では早くもさまざまな憶測が飛び交っている。
三井生命との合併を拒否してきた住友生命と日本生命による買収
国内生命保険会社による米国の中堅生保への“爆買い”が続く中、日本生命保険が花嫁に選んだのは、国内のしかも経営再建中の三井生命保険だったことに「首位陥落の焦り」などさまざまな憶測が飛び交っている。かつての大再編で銀行や建設、損害保険などの分野で三井住友グループが誕生しており、「住友生命と三井生命が合併し、『三井住友生命』がいずれ誕生することがグループの悲願」(生保大手関係者)とされていたからだ。生保業界では、依然として三井住友生命の誕生を信じる関係者も少なくない。
「住友生命にはご協力いただいてきた。感謝している。ただし、経営統合についてはさまざま視点から考えた結果」
三井生命の有末真哉社長は9月11日の統合記者会見で、住生ではなく日生による買収提案を受け入れた理由を説明した。
三井生命は、保険料等収入の減少と運用損失計上により業績は長年低迷。2004年には、資金調達の多様化と将来の買収などを見据えて相互会社から株式会社への転換を図った。だが、08年のリーマンショック後に、運用損失の拡大により財務基盤がさらに脆弱化。その後、三井住友銀行、住生、三井住友海上火災保険、三井住友信託銀行ら三井グループ、住友グループ企業を引受先とする600億円の第3者割当増資を行った経緯がある。
住生は、ライバル社ともいえる三井生命に増資のみならず、人材も派遣し、再建に尽くしてきた。こうした経緯があるにもかかわらず、三井住友生命が誕生しなかったのは、「住生が三井住友銀行からの統合提案を拒否し続けてきた」(三井住友銀関係者)からだ。住生は15年3月期にようやく、契約者に約束した利回りを運用利回りが下回る「逆ざや」を大手のなかでもっとも遅れて解消したばかりで「三井生命との合併を考える余裕がなかった」(住生関係者)とされている。一方、三井生命は、462億円もの逆ざや状態にある(15年3月期)。
ただ、住生が拒否してきたのには、これ以外にも理由がある。ひとつは、営業職員チャネルが大半と業態が同じことだ。今後の人口減少を見据えれば、チャネルの多様化などに取り組み、若年層やシニア層など、さまざまなニーズを取り込むことが重要。一方で、主力の営業職員チャネルは、利益率は高いものの、「都心部を中心に企業のセキュリティー強化で得意先への出入りが難しくなっているほか、共働きの増加で自宅を訪問しても留守の世帯が多い。従来の伝統的な営業が限界にさしかかっている」(全国紙経済部記者)。
少子化や女性の社会進出が進む中、晩婚化も進んでおり、「家族を守るために生命保険に加入する」と考える若年層は急激に減っている。こうした中、業態が同じ三井との統合は「負担」との判断を下したことは想像に難くない。しかも、「三井の営業職員のコストは高いことで有名。取り込んで、賃金を下げれば、職員からの反発は必至」で、住生はこうした背景からも合併に及び腰だったといわれている。
加えて、住生は、チャネルの多様化に生保大手でいち早く着手。06年度から来店型保険ショップ「ほけん百花」を展開するいずみライフデザイナーズを子会社とし、現在約70店を展開するなど成功を収めている。
三井生命は先行する分野がない。今回の統合会見で、日本生命はメリットを「貯蓄性の高い銀行窓販分野の商品が豊富」(筒井義信社長)なことを理由に挙げたが、これは建前で、日生は窓販の販売に定評がある三井住友銀行との親密性のみを期待したとさえいわれている。
日本生命が三井生命買収を機に住友生命の取り込みに動く?
住生が合併を躊躇したもうひとつの理由は、日生のように子会社化ができないこともネックとなったようだ。
日生は、今回、合併でなく、傘下に収める経営統合を選んだ。だが、仮に住生との統合となれば、あくまでも「三井住友生命」の誕生が前提。合併となれば、明治安田生命のように、明治生命、安田生命がそれぞれ販売した保険商品のシステムを維持しつつ、新しいシステムを構築しなければならない。3つのシステムを維持管理するには、相当な費用が必要だ。中でも、三井生命のシステムは「他生保よりもきめ細かい設計」(大手生保関係者)だといわれている。
というのも、経営危機に陥って管理部門のリストラに踏み切った際、本部と現場を直接つなぐため、システムでのバックアップ体制を強化したからだ。その分、システムの維持管理費は高めである。
ただ、こうした中でも、ささやかれるのが、日生による住生の取り込みだ。住生は、9月から就業不能保険に大手では初めて参入を果たした。主力の死亡保障も含め、商品開発力に定評がある住生は、かつて第一生命保険も合併をもくろんだほどだ。
日生の筒井社長は会見で、「国内市場は世界と比べても良質なマーケット。そこで圧倒的な基盤をつくる。フィロソフィー(哲学)や戦略、ビジョンがマッチすれば今後も可能性を模索したい」と述べた。日生が傘下に「三井住友生命」の誕生を既に描いていても不思議はない。文=ジャーナリスト/山根亮一
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