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「利は川下にあり」でつかんだ商社トップの座 岡藤正広 伊藤忠商事

経済界大賞 岡藤正広 伊藤忠商事

(雑誌『経済界』2025年2月号より「第49回経済界大賞」大賞受賞)

経済界大賞 岡藤正広 伊藤忠商事
経済界大賞 岡藤正広 伊藤忠商事

大 賞 岡藤正広 伊藤忠商事会長CEO

11兆8千億円、10兆3千億円、9兆5千億円――これは伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、それぞれの時価総額(12月1日現在)。伊藤忠は、三菱商事を15%、三井物産を24%上回る。

 総合商社はここ数年、好決算が続いている。また株価も、米バークシャー・ハサウェイが買い増していることもあって高値をつけている。その背景にあるのが資源価格の高騰で、資源に強い三菱商事や三井物産は、ともに1兆円近い純利益を上げている。

 ところが伊藤忠は違う。資源ビジネスに頼らずに時価総額で総合商社トップを走っていることは特筆すべきこと。その伊藤忠を2010年から社長・会長として率いるのが岡藤正広氏。社長就任からの14年あまりで、伊藤忠の時価総額は10倍以上に膨らんだ。

 伊藤忠の経営方針のひとつが「利は川下にあり」。

 事実、伊藤忠は川下戦略に力を入れてきた。コンビニ大手の一角、ファミリーマートを完全子会社化、スポーツ用品大手のデサントも連結に加えた。最近も経営が悪化していた中古車販売のビッグモーター(現WECARS)の買収に踏み切った。

 しかし川下重視というのは事業領域のことだけではない。岡藤氏は統合レポートで次のように語っている。

 「消費者に主導権が移っている現在、『プロダクトアウト』でアプローチすれば、命取りになりかねません。商売のヒントは常に川下にあります」

 マーケットインを徹底すること。それが伊藤忠の快進撃を支えている。

 しかしそれ以上に岡藤氏が重視しているのが、30ページからのインタビューにあるように、社員が働きやすい環境をつくることだ。

 商社ビジネスは人が命。そのため平均給与1割増も打ち出した。それだけでなく、いかに自分の力を発揮できる職場環境をつくれるかに岡藤氏は力を入れてきた。

 おかげで伊藤忠は就職人気ランキングでもトップをひた走る。優秀な人材を採用し、力を発揮させて収益を上げる。そしてそれが次の採用につながる。その好循環をつくったことも、岡藤氏の功績だ。