経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

第2回 NFTはアートだけではない! あらゆる現物に応用できる! -足立明穂

足立氏

【連載】NFTが変える経済とビジネス

5月、岸田首相がロンドンの金融街シティで講演し、「ブロックチェーンや、NFT、メタバースなど、web3.0の推進のための環境整備を含め、新たなサービスが生まれやすい社会を実現いたします」と発言し注目を集めています。首相が公の場でNFTやメタバースという単語を口にしたのは世界初かもしれません。いよいよ日本も大きく変化しようとしているのでしょう。今回はNFTはアートの世界だけのものではなく、あらゆる現物に応用できることについてお話します。「NFTなんて関係ない」と言っていられない時代になりますよ。(文=足立明穂)

足立明穂氏のプロフィール

足立明穂(あだち・あきほ)。ITビジネスコンサルタント。1962年京都府生まれ。Windows95の登場前にアメリカのシリコンバレーに出向し、黎明期のインターネットに触れ、世の中が激変すると確信。以降はインターネット関連のベンチャー企業を転々とする。ブロックチェーンやNFTなど最新の技術の説明に定評があり、企業や商工会議所での講演多数。NFT専門家としてテレビ番組等でも活躍。著書に『だれにでもわかるNFTの解説書』(ライブ・パブリッシング https://amzn.to/3rGkmSy)ほか。Twitter: https://twitter.com/TanishiNishi

ウイスキーがNFTに! 権利をデジタル化するということ

 NFTはデジタルアート作品で有名になったこともあって、デジタルの世界だけのように思っている人は少なくありません。しかし、デジタルアートそのものがNFTになったのではなく、あくまでもその作品の「所有権」がデジタル化されNFTになっただけ。ということは、権利をデジタル化すれば、NFTにして売買することが可能なのです。

 例えば、2021年12月15日、UniCask(ユニカスク)から世界初ウイスキーNFTが発売され、わずか9分で完売しました(約4,000万円)。このウイスキーNFTは、41年にボトル詰めされるウイスキーと交換できます。これだけだと、単に予約販売と変わらないように思うかもしれませんが、「ウイスキーに引き換える権利」を購入しているので、その権利を売ることもできます。

 このウイスキーが注目されて人気が出てくれば高値で販売することも可能です。しかも、デジタルなので、海外の人に販売するのも簡単にできてしまいます。未来のウイスキーを買うというのは、まるで先物取引をしているような状態です。

(参考)12月15日発売開始のUniCaskのNFT第一弾、シングルモルトスコッチウイスキー スプリングバンク 1991年(Genesis Cask)のNFT約4,000万円分が一般販売開始から9分で完売!

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000086385.html

不動産をNFTにして融資を受けられる世界がやってくる

 こちらはまだ実証実験ですが、トグルホールディングスは、不動産の所有権をNFTにして、それを小口化し、その小口化した不動産NFTを販売し現金化します。マンション1棟を分譲マンションとして販売するような手法です。NFTを使うことで、デジタル上の権利にできれば、さらに小口化して1つのNFTを10万円とか100万円に分割して販売することもできます。不動産を証券化して株のように売買する仕組みをつくろうとしています。

 ただし、日本国内の不動産を扱うと法律の壁がありうまくできないのですが、国によっては問題なく売買が可能になります。例えばエジプトなどでは合法になるので、エジプトの不動産所有権をNFT化し小口化し、それを日本で購入することは可能です。

 現実に考えるとエジプトの不動産を買うなんて書類の手続きなど面倒なことがありますが、NFTがデジタルだからこそ、インターネットを経由して国境をも軽々と越えて取引できるようになるのです。

(参考)不動産を担保にNFTで融資を受けるDeFi事業の実証実験を開始

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000097866.html

あらゆる権利をNFTとして売買できると気付けるかが鍵

 未来のウイスキーと交換する権利、不動産の所有権など、「権利」であればどんなものであってもNFTにすることが可能です。そもそも権利は書類に記載している約束事なので、最初から形があるものではありません。紙に書いているのか、デジタル化されて記録しているのかの違いにすぎません。ただ、デジタル化した場合は簡単にコピーできるので、それをどのようにオリジナルとコピーを区別するのかが課題でした。そこにオリジナルであることを証明できるNFTが登場したことによって、デジタル化された書類でも権利を売買できるようになったのです。

 世界最大級のロシアのエルミタージュ美術館は、名画そのものを販売するだけでなくデジタル・スキャンし、それをNFT化して販売も行っています。しかも、面白いことにデジタル化された絵は2枚あり、1枚は美術館が所有し、もう1枚を販売します。ダ・ヴィンチやゴッホといった作品もあるそうで、現物のアートはそのままにして、デジタル化したもので収益化することもできるようになりました。

 NFTの火付け役になったNFTアートも、アート作品そのものが変化したのではなく、アート作品の所有権をNFTにすることによって売買できるようになったのです。そのことに気が付けば、フランチャイズ権や賃借権、金銭の貸し借り、ローンなどさまざまな権利や負債までもがNFT化されていくでしょう。書類のデジタル化どころではなく、根本的な考え方を変えていく必要が出てきています。

法整備が追い付かない。それでも利用の可能性は無限大

 アイデア次第で、面白いNFTの使い方が続々誕生するでしょうし、実際に毎日さまざまなNFTのサービスが登場しています。しかし、技術的には可能であっても法律上は問題になることも出てきています。

 先に書いたような不動産についても日本の法律では違法になる可能性が高く、特に小口化するという方法は弁護士などの専門家とよく検討しないと、証券取引法に触れることがあります。

 また、NFTを100万個とか1億個といった大量に発行し、現実の商品と交換するようなサービスを行うようになると、電子マネーや商品券と変わらなくなってしまいます。売買でお金が動くとなると、税制面でもどのように考えるべきなのかがはっきりしなくなってきます。

 このように法律がNFTの実情に追い付いていないこともあり、自民党のNFT政策検討PTワーキンググループが出している「NFTホワイトペーパー」でも問題点が指摘されています。

(参考)「NFTホワイトペーパー(案)」PDF(リンク)

 卒業証書や講座の修了証、ファンクラブの会員証やチケットの半券などのNFT化では売買が行われず問題にならないので、現時点ではこういった利用が進むと思われます。

 まだまだ私たちはNFTの利用方法のほんの一部を思いついただけ。何を希少価値として提供し、NFTをもらった人がどう喜ぶのかを考え抜けば、驚くような利用方法が生まれてくるでしょう。

 さて、次回は、実際にNFTをビジネスに利用するときに考えるべき重要なポイントについて説明したいと思います。