経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

素人でも手を出せる創薬ベンチャー投資の手法

株価の変動はジェットコースター

昨年の大納会では810円だった株価が年を越えてから急騰。5月25日には瞬間風速で7700円と、10倍近くにまでなったと思いきや、翌日から5日連続のストップ安。6月6日には一時1千円を割り込んだ。

これがアキュセラショックと呼ばれたアキュセラ・インク株の暴落劇だ。

別稿でも触れているため詳細は略すが、同社の開発したエミクススタト塩酸塩のフェーズ2b/3の臨床試験において有効性を得られなかったことが明らかになった。それまでは期待が期待を呼んで株価を引き上げていただけに、その反動はあまりに大きかった。この高騰・暴落は、創薬ベンチャー株の魅力と怖さを端的に物語っている。

アキュセラだけではない。アンジェスMGは今年1月までは200円前後の株価だったが、その後急騰。4月半ばには900円以上の高値をつけた。そこから下落に転じるが、7月初めには開発中のアトピー治療薬が、フェーズ3の臨床試験で有効性を得られなかったことが明らかになり、ストップ安をつける。今の株価は約300円にすぎない。

ナノキャリアも同様だ。同社株は2月までは1千円前後。それが4月には1900円とほぼ倍増するが、現在は931円(8月24日現在)と元の水準以下だ。7月初旬、日本化薬が抗がん剤の臨床試験(フェーズ3)に失敗。この薬はナノキャリアからライセンスアウトされたものであり、上市されればロイヤルティー収入が同社に入るはずだった。そのもくろみが崩れたことが、今の株価につながっている。

開発された薬が臨床試験を経て市場に出回る確率は非常に低い。創薬ターゲットを決めるところから始まり、化合物を同定し、前臨床、臨床試験と徐々にふるいにかけられ、上市にいたるのは3万分の1ともいわれている。それでもフェーズ3までいけば、確率は〇か×かの2分の1。その分期待も膨らむが、敗れたときのショックは大きい。

ただでさえ、創薬ベンチャー株のボラティリティは大きい。そーせいグループ株は昨年10月までは4千円を下回る水準だったが、年末から高騰を続け、5月9日には2万5730円をつけた。

しかしそこから2週間で一時2万円を割り込み、直近では1万7千円程度だ。ペプチドリーム株も、2月12日で3265円。それが6月9日には7190円をつけた。

そして現在の株価は5千円前後。最高値に比べ4割程度下落した。創薬ベンチャーで時価総額トップ2にしてこの変動幅。時価総額の小さいベンチャーなら、振れ幅はさらに大きくなる。

技術の目利きは無理 提携企業の多さが目安

それだけに投資妙味は大きい。底値で仕入れ、大化け後に売れば短期間で10倍に増やすことも夢ではない。しかしその一方で信用買いで高値づかみをすれば目も当てられない。

ではどうやって株を選別したらいいのか。

「一般の投資家が技術的な目利きをしようとしたところでうまくいきません」と語るのはみずほ証券アナリストで、薬剤師の資格も持つ野村広之進氏だ。

「一流のベンチャーキャピタルでも、技術の目利きは2~3割しか当たらないといわれています。それほどまでに新しいメカニズムを評価するのは困難です。得られる情報に限度のある一般投資家にはさらに難しい」

次の指標となるのが、パイプラインの積み上げだ。パイプラインとはそのメーカーが開発中の医薬品のラインアップのこと。前述のように開発中の医薬品を上市できる可能性は低いため、経営を安定化させるためには数多くのパイプラインを持つことが必要だ。臨床段階に進んだパイプラインがあれば、成功率や薬価、潜在患者数や普及率を掛け合わせていくことで、今後の売り上げが推計できる。

しかしもっとも信頼できる評価は他の製薬企業の評価だと、野村氏は指摘する。

創薬ベンチャーは資金的余裕がないため、開発段階で既存の製薬メーカーと提携し、契約一時金およびマイルストーンごとの権利金などを受け取る。

「製薬会社は提携前に秘密保持契約を締結した上でデータを検証、その上で契約を結ぶため、その評価は信頼できる。さらに提携企業が複数あれば、信頼性はさらに増す」(野村氏)

例えばペプチドリームは16社と共同研究開発を行っており、昨年1年間だけでも6社と契約を結んだ。その事実をもってして、ペプチドリームの技術は「本物」と評価できるというのだ。

それでいてペプチドリーム株は前述のように、2月からの4カ月間で倍以上に値を上げ、今も5割高の水準を保っている。売買のタイミング次第だが、投資妙味もある。

創薬ベンチャー株の多くは、昨年暮れから今年春にかけて大きく値を上げ、今は調整局面にある。しかし野村氏は「過熱感は薄れつつあり、秋口から上昇気流に乗る可能性がある」と言う。となると、今こそ銘柄選別、そして仕込み時と言えるかもしれない。

ただし野村氏は釘を刺す。「1銘柄で勝負するというのは博打と一緒。投資戦略と考えるならポートフォリオを組み立て分散投資することを忘れずに」

 

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