九州の経済成長率は全国を上回る水準で推移している。福岡市都心部・長崎市の大型再開発、コロナ禍前を上回るインバウンド、熊本県に進出した台湾積体電路製造(TSMC)を起爆剤に相次ぐ半導体工場の新増設などが牽引している。(雑誌『経済界』2025年1月号「躍動する九州」特集より)
韓国からの観光客が夏の福岡の小売業を下支え
福岡市の再開発促進策「天神ビッグバン」によるオフィスビルの建て替えが相次ぐ天神地区。その目玉プロジェクトの一つである西日本鉄道の「ワン・フクオカ・ビルディング(略称・ワンビル)」の外観が顔を見せた。2025年春の開業予定だ。
天神交差点のシンボルを目指す「ワンビル」は、商業・ビジネス・ホテル・カンファレンスなど多様な機能を網羅する九州最大規模の大型複合ビル。高さ97m、地下5階・地上19階建て。地下2階から地上5階までが商業施設、8~17階がオフィス、18~19階がホテルとなっている。1フロア当たりのオフィス面積は約4600㎡。西日本の賃貸オフィスビルでは最大規模を誇る。
隣の天神ビジネスセンターに続き、25年3月の開業を目指している日本生命福岡ビル・福岡三栄ビルの建て替え、同年5月の「住友生命福岡ビル・西通りビジネスセンター建替計画(仮)」、26年12月予定のイムズビル跡地開発など天神交差点地区の全容が明らかになりつつある。
そこを闊歩するのはインバウンド、半数近くが韓国からの観光客だ。
福岡県の外国人延べ宿泊者数の国・地域別シェアは、韓国46%、台湾14%、香港13%、中国8%と続く(観光庁「宿泊旅行統計調査」)。韓国から近いこともあり、国内旅行感覚で、日帰り観光客もいるという。夏は観光需要の繁忙期でもあり、百貨店の売り上げの10%以上をインバウンドが占めたともいわれ、小売業を下支えしたことは間違いない。
九州全域で同様の傾向が見られる背景には、九州全県の空港に韓国の航空会社が就航していることがある。ただ、インバウンドがコロナ禍前を上回り、九州北部は過去最高となったが、南部はまだ戻り切れていない。
ジャパネットHDの長崎スタジアムシティが開業
通販大手のジャパネットホールディングスが、長崎市駅から北へ約1㎞の地点で建設していた「長崎スタジアムシティ(NSC)」が10月14日に開業した。通信販売事業に並ぶ二つ目の柱として取り組むスポーツ・地域創生事業だ。サッカーやバスケットボールのゲーム、こけら落としの福山雅治フリーライブなどオープニングイベントが相次いだ。
プロサッカーチームV・ファーレン長崎が本拠地とする「ピーススタジアム」(約2万席)を中心に、プロバスケットボールクラブの長崎ヴェルカのホームとなる「ハピネスアリーナ」(約6千席)、スタジアムを見下ろせるホテル、オフィス棟、商業棟を併設している。
NSCは、民間主導で街づくりに取り組む国内では珍しいプロジェクトだ。ジャパネットHDが総事業費約1千億円をかけて、三菱重工長崎造船所幸町工場跡地、約7・5ha(東京ドーム1・5個分)を再開発。1万3千人の雇用創出を見込む。
TSMCの第2工場建設で経済効果を上方修正
また、半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県菊池郡菊陽町の工業団地で建設を進めてきた新工場が完成。年末からの本格出荷を待つばかりだ。
TSMCの進出などによる熊本への経済波及効果について、地元銀行は10年間で11兆2千億円規模に上ると試算。同行が22年9月に発表した試算では約4兆3千億円、その後23年8月に6兆9千億円に上方修正していた。経済効果は約2年で2・6倍に上振れしたことになる。
TSMCが今年2月、熊本第2工場の建設を決めたことで、県外や台湾などから新たに進出・投資する企業数も171社と前回調査の約2倍になる見込み。TSMCの進出以降、鹿児島、長崎県などでも半導体工場の新増設が始まり、半導体産業から受ける恩恵も大きいため、取引関係をつくる動きも強まっている。
これを受け、半導体関連企業の進出が進む近隣自治体の地価(24年の基準地価)が伸びている。工業地では、大津町が33・3%で全国トップとなり、菊池市32・3%、合志市29・5%と続いた。商業地でも、大津町が31・5%、菊陽町も25・1%と全国の市区町村別で1位と2位だった。
九州経済調査協会は、九州の24年度実質域内総生産成長率を前年度比1・3%増と見込む。全国の民間予測(シンクタンク8社平均、同0・7%増)を上回る。半導体関連をはじめ民間企業設備投資、インバウンドなどによって牽引されている。