インドの食べ物に歴史的な出来事が与えた影響
インド料理には、インド発祥のバラエティー豊かな各地域の料理がある。土壌の種類、気候、職業などの多様性と、その地域で調達できるスパイス、ハーブ、野菜、フルーツを使用するためだ。これらの料理の発展は、宗教的・伝統的な信仰、とりわけインドが起源であるベジタリアン主義によって形成されてきた。インド北部の料理は、ムガル朝時代からの中央アジアの影響を受けている。
外からの侵略、交易関係、植民地主義などの歴史上の出来事も、インドの食べ物として世界的に知られている特定の食べ物をインドに広める役割を果たしたが、そうした食べ物はインド発祥ではない。それらが短期間でこれほど有名になったのは驚くべきことだ。以下に挙げるのは、インド発祥ではないもののインドの名物として世界的に有名な5つの食べ物リストである。
1.チャイ:インドのミルクティー:インド人のほぼ全員にとっての癒しの飲み物は、インドの飲み物でも伝統的な飲み物でもない。チャイの起源は中国にある。中国では薬効のある飲み物として利用されていたが、イギリス人がそれを発見し、その多様な性質を気に入った。イギリス人はお茶市場における中国の独占を切り崩したいと考えた。そこで、わずかなチャイをインドに持ち込んだ(インド北東部の部族に栽培技術を教え、インドで栽培を行おうとするイギリス人に対して報奨金を出した)。それ以来、チャイはインドの一部となった。事実、チャイがインドでこれほど人気になったのは、1950年代のことにすぎない。
2.ナン:発酵させて膨らませたパンの一種であるナンは、北インドで広く利用されており、北インドのほとんどのレストランで食べることができる。アメリカ人、ヨーロッパ人、日本人は最近になって、ナンをカレーと組み合わせることの楽しみを発見した。しかし、ナンはインド発祥ではなく、ムガル朝の時代にインドに持ち込まれたものだ。ナンの起源はペルシャ料理にあり、実際にはイランの食べ物である。
3.サモサ:世界的に有名なインド料理のひとつで、インド中の家庭で特別な存在である。サモサは、中東発祥のお茶の時間の軽食だ。もともとはサンボサ(Sambosa)と呼ばれ、13〜14世紀に中東からの交易商人によってインドに持ち込まれた。インド人がサンボサに各種スパイスや技法を加味した結果、サモサが誕生した。
4.グラブジャムン:乳固形分をベースにしたデザートで、発祥の地である地中海やペルシャではluqmat al qadiと呼ばれている。ペルシャ語を話す侵入者が15世紀にインドに持ち込んだ。グラブジャムンは、インドでは非常に有名かつ万人に好まれている。祭りや結婚などの大きな祝いの場で食される。
5.インディアンフィルターコーヒー:南インドに行くと、人々が朝、湯気を立てているフィルターコーヒーを楽しんでいるのを見ることができる。コーヒーは、タミルナドゥ州、カルナータカ州、ケララ州、アンドラプラデシュ州などの南部の州で人気がある。イスラム神秘主義の聖人であったインドのババ・ブダンという人物が、16世紀にメッカへの巡礼の際、アラブ滞在中にコーヒーを発見したと言われている。発見したものを母国の仲間と分かち合いたいと熱望した彼は、7粒のコーヒー豆を腹に巻きつけてイエメンのモカ港から南インドに持ち出し、そこで栽培した。20世紀初期には、インディアンフィルターコーヒーはマレーシアやシンガポールなどの海外にも広められ、独自の味と固有性を持ったインドの飲み物のひとつとなった。
インドの食べ物には人々の感情も影響を与えた
インドの食習慣は地域によって異なる。北インドでは平たいパンを食べ、南インドでは米が好まれる。ケララ州やベンガル州などの海岸沿いの州では魚料理が人気だ。山岳地域や平原地域では、鶏肉やマトン(羊肉)がよく食される。ヒンドゥー教徒の多くは牛肉を食べない一方、イスラム教徒は豚肉を食べない。ヒンドゥー教徒、仏教徒、ジャイナ教徒の多くはベジタリアンだ。
人がある文化の中に一度溶け込んでしまうと、人と文化を切り離すことはできないとよく言われる。食べ物も人間から切り離すことのできない要素だ。インドでは、単に食べ物の味だけではなく、それに関連する感情が食べ物の発展に大きな影響を与えてきた。現在では、アメリカのファストフードがインドで大きく広がりつつある。
次の世紀には、インド風バーガーなど全く新しいインド料理が見られるかもしれない。
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