ゲストは、「ZUU online」の運営をはじめ富裕層向けメディア事業や金融サービス事業を行うZUU代表の冨田和成さん。今年3月、経済界社長に就任しました。創業5年で上場を果たした冨田さんは、「上場するからできることがある」と語ります。経済界との資本提携の狙いと、その経営観を伺いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美、構成=大澤義幸 photo=川本聖哉(雑誌『経済界』2025年8月号より)
冨田和成 ZUUのプロフィール

とみた・かずまさ 1982年神奈川県生まれ。一橋大学卒業後、野村證券入社。超富裕層向け金融業務、海外で経営戦略等を担当。2013年ZUU創業、代表取締役。18年グロース市場上場。富裕層向けフィンテック事業を展開する。25年経済界社長就任。
プロ選手の道をケガで断念 大学卒業後は金融業界へ
佐藤 冨田さんは今年3月、資本業務提携により弊社社長に就任しました。経済界のことはいつから気にかけてくださっていたのでしょうか。
冨田 ZUU創業が2013年で、経済界とのご縁を頂いたのは15年頃、経済界大賞表彰式などを盛大に催す有名な出版社だと認識していました。19年頃に経営者支援プラットフォーム「THE OWNER」で、雑誌『経済界』記事配信の連携をさせていただきましたよね。
佐藤 そこが始まりでしたね。今回の提携で期待していることは。
冨田 ZUUは経営者向け金融メディア事業などを手掛けて成長してきました。多くの経営者と信頼関係を構築してきましたが、経済界には老舗ならではのブランド力と独自のネットワークがあります。そこが合体したらお互いの会社にプラスに働くのではと期待しています。
佐藤 私もワクワクしています。話は変わって冨田さんは大学生までサッカー漬けだったそうですね。
冨田 はい。小学生の頃から身長が高くて、小3の時にゴールキーパーをしたら褒められたんですね。サッカーは練習で努力した分だけ上達するので、どんどんはまっていきました。その後Jリーグで三浦知良選手らが活躍するのを見て、私も学生時代に椎間板をケガするまで、プロになることを夢見ていました。
佐藤 青春を捧げてきたのに残念ですね。同じ学生時代に冨田さんは最初の起業をするわけですが、起業家精神はいつ芽生えたのでしょうか。
冨田 当時は渋谷ビットバレーが注目されており、自分より少し年上の起業家に憧れて私も学生起業しました。数多くの経営者と出会うことができ、その中で「営業畑や技術畑の経営者は多いが、財務畑やファイナンスが得意な人は少ない」と聞いて、この分野に可能性を感じました。就活では切磋琢磨して成長できる厳しい環境を探し、金融業界の野村證券への入社を決めたのです。
佐藤 野村證券では数々の表彰をされたそうですが、金融の仕事はいかがでした。
冨田 常に緊張感を持って走り続けていましたが、それも含めて面白かったですね。私は経営者と話すのが好きですし、一つのことに没頭して頑張るタイプなので成果も出て自信になりました。金融の仕事が合っていたんだと思います。今も365日、朝5時過ぎから夜23時頃まで働いていますが、正しい努力ができていれば、結果が出る可能性は高まると信じています。
「機会格差」をなくし誰もが挑戦できる世界を創る

佐藤 そうした経験を元にZUU創業に至った経緯を伺えますか。
冨田 私は学生時代から、夢や目標に全力で向かうこと、そして走り続けることで仲間との関係が強化され、幸せが最大化されると考えてきました。しかし、例えば企業経営では「資本の壁」があり、経営者は挑戦をあきらめたり、ブレーキをかけざるを得ない場面があります。一方、資本のコントロール感を持てればアクセルを踏み成長を加速できます。この機会格差をなくす事業をやりたいと思ったことが一つ。また、野村證券時代にシンガポールマネージメント大学で卒論のテーマにしたのが、当時は概念すらなかったフィンテックの世界でした。このトレンドの到来を予測できたので、ZUUを創業したのです。
佐藤 最初はマンションの1室で、数人で始められたそうですね。良いスタートダッシュは切れましたか。
冨田 苦しかったです。1期目は売り上げが600万円でしたから。2期目で倒産の危機に直面しましたが、エクイティファイナンスで資金調達した1億円を原資に6千万円を売り上げ、3期目は3億円、4期目は7億円、上場前は10億円弱で営業利益も出せるようになりました。
佐藤 そうした困難を乗り越えて、5年でスピード上場されたのは驚きです。
冨田 私は淡々と上場しましたが、やるべきことをやって認められれば地方の中小企業でも上場できますし、上場したからこそできることも増えます。上場に批判的な方もいますが、上場を目指すことで会社が整い、公開企業になると事業承継もスムーズになりやすい。上場して先頭に立つ経営者からは上場後の後悔はほぼ聞いたことがありません。ZUUはいろいろな資金調達手段があることを伝えながら、次の目標に挑戦していく経営者を支援していきます。その組織づくりの一助として、私はAIを活用しながらPDCAを高速かつ継続的に回す「超鬼速PDCA」を提唱していますが、正しいPDCAを回す仕組みも重要です。
佐藤 ZUUは創業13年目を迎え、目指してきた姿になっていますか。
冨田 走り続けてきた方向は正しかったと思います。ただ、予測していたフィンテックのネット完結型の取引の世界はもう少し先になりそうです。そこで数年前に金融ライセンスを持つ会社を次々とM&Aして、ZUUグループの事業体制や注力領域を見直してきました。
佐藤 今後の目標の一つとして、2038年3月期に売上高16兆円、EBITDA5兆円を掲げています。
冨田 もちろん実現します。数字を出すと叩かれがちですが、私は言霊を信じていますし、明確なゴールがなければ正しいPDCAは回せません。不可能と諦めずに、実現に向けて本気で取り組んでいきます。
