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スイッチ2狂騒曲 転売ヤーとの仁義なき戦い

ニンテンドースイッチ2が発売された。予約販売には220万人が応募するほどの人気となり、一刻も早く手に入れたい人たちで店頭には行列ができた。そうなると気になるのは転売で利ザヤを稼ぐ転売ヤーの存在だ。任天堂はその対策としていくつものハードルを設けた。果たしてその効果は。文=小田切 隆(雑誌『経済界』2025年8月号より)

予約販売への応募者220万人

 任天堂が6月5日、家庭用ゲーム機の次世代機「Nintendo Switch 2(ニンテンドースイッチ2)」を発売した。同社による新型ゲーム機の発売は2017年3月のニンテンドースイッチ以来、およそ8年ぶり。満を持して送り出された次世代機だが、発売前から人気が沸騰しフィーバーとなった。一方、同時に、フリーマーケットサイトなどで、より高額でスイッチ2を転売する問題が過熱。任天堂は転売ヤーらとの「仁義なき戦い」に勝利すべく、徹底した対策を打ち出した。

 スイッチ2は画面サイズが7・9インチで、6・2インチのスイッチよりかなり広くなり、高精細で明るくなった。本体の重さは100グラムほど増えた。

 本体の内蔵メモリーは256GBで、スイッチの8倍。処理性能が向上し、ボイスチャット機能が搭載された。総じてみると、スイッチからかなりアップデートされたといえるだろう。

 希望小売価格は国内向けが税込み4万9980円、多言語対応モデルが6万9980円。「マリオカートワールドセット」という、本体と人気ソフトがセットになった商品も発売された。価格はスイッチより高くなったが、性能アップや部品の高騰などでコストも増えたとみられ、任天堂は、粗利率はスイッチよりも低いとしている。

 任天堂はスイッチ2について抽選販売を行った。募集が始まると、予想通りというべきか、すさまじい人気ぶりが浮き彫りになった。

 任天堂の古川俊太郎社長は4月23日、交流サイト(SNS)上で、初回の抽選におよそ220万人もの応募があったことを明らかに。そして、「事前の想定を大幅に上回った」「相当数が当選しないことが想定される」「ご期待にお応えできないことを深くお詫びします」とコメントし、生産体制を強化する考えを示した。

 一つのゲーム機にこれほど多くの人が熱狂するさまはほかでは見られず、もはや社会現象と言えるだろう。

 任天堂は5月8日、26年3月期の販売台数計画を1500万台と発表した。10カ月間の計画なので単純比較できないが、17年3月に発売されたスイッチの18年3月期の販売実績(約1500万台)とほぼ同じ台数となる。

 予約の人気ぶりを考えると、「とうてい足りない台数では」「上方修正することを初めから見込んでいるのではないか」といった声がネットなどで上がっている。

転売対策のためのハードルと連携

 一方、スイッチ2の販売にあたって任天堂が全力を注いでいるのが転売対策だ。

 近年、転売は、日本を蝕む社会問題となっている。

 ゲーム機のみならず、人気商品が発売されるときには必ずといっていいほど、買った商品をフリマサイトやオークションサイトなどで高値で転売して儲ける「転売ヤー」が暗躍している。

 このため、「商品を本当に欲しい人が手に入れられない」「きわめて高額で買わざるをえない」といった事態が頻発している。任天堂も、スイッチ2が転売ヤーの餌食になることを避けるため、さまざまな対策を打ち出した。

 その一つは、日本国内専用モデルの導入だ。

 これまでのゲーム機は世界共通のモデルとすることが主流だったが、スイッチ2は「国内専用モデル」「多言語対応モデル」の2種類を用意し、国内版の価格の方を安く設定するという戦略を打ち出した。転売ヤーが日本国内でスイッチ2で買い占め、海外で転売して儲けることを防ぐためだ。

 国内で安く大量に仕入れて海外で高値で売るという転売ヤーのやり口は、多くの真っ当なゲームファンたちを苦しめてきた。

 だが、国内専用モデルは日本語以外に対応していないため、海外で転売することは難しい。そうなれば転売ヤーも日本国内での仕入れを諦めざるを得ない。

 もう一つの対策は、抽選販売の応募条件の厳格化で「スイッチのソフトのプレー時間が50時間以上」「ニンテンドースイッチオンラインに有料で累積1年以上加入している」などを応募の条件とした。

 転売ヤーは、とにかく多くの空アカウントを使い、手当たり次第に申し込むことで当選確率を上げようとする。しかし、厳しい条件を設けて空アカウントをつくるのを防ぎ、当選確率を上げる行為を駆逐しようというわけだ。

 普通のゲーマーからすると、新しい条件も厳しいものではないだろう。たとえば50時間のプレー時間は、ゲームファンなら余裕でクリアできているのではないだろうか。

 また、ニンテンドースイッチオンラインへの1年以上の加入も、普通にオンラインでゲームを楽しんできた多くのファンにとっては、高くないハードルだろう。

 つまり、普通の真っ当なゲームファンにとってはほとんど問題のない条件といえ、「インチキ」する転売ヤーをふるい落とすためのフィルターの役割が期待できるといえる。

 さらに、3つ目のより徹底した転売対策が、メルカリやヤフーオークション、ヤフーフリマといった主要なサイト運営会社との連携だ。任天堂は、オンライン上の「闇市」排除にも積極的に乗り出した。

 5月に国内の大手通販サイトをのぞいてみると、国内専用のスイッチ2本体とマリオカートワールドのセット商品が、それぞれの希望小売価格を合計した額の2倍以上となる12万円以上で発売されていた。6月5日の発売前だったので、実際には手元に商品がないにもかかわらず売り出す「空出品」だったと思われる。他のサイトでも、スイッチ2本体が10万円程度の高額で取引されていた。

 このようなサイトは、これまでも転売ヤーが暗躍する「温床」となってきた。これを少しでもなくすため、今回、任天堂はサイトの運営会社と協力し、徹底的な転売対策に乗り出した。

 任天堂は5月27日、LINE(ライン)ヤフー、メルカリ、楽天グループの3社と不正出品の防止で協力することで合意したと発表した。対象となるサービスは、メルカリ、ヤフーオークション、ヤフーフリマ、楽天ラクマ。利用規約に違反した出品があった場合は各社が削除の対応をとるほか、各社の間で情報を共有するなどの連携体制をつくるとした。

 そして、サイト運営会社自身もそれぞれ、対応をとっている。

 メルカリは、悪質な詐欺行為や利用規約に反する出品の削除だけでなく、スイッチ2本体の出品についてはオークション機能の利用を停止するという踏み込んだ対策を打ち出した。メルカリは1月にオークション機能を取り入れたばかりだが、価格の高騰が予想されるスイッチ2に限って、この機能を止めたのだ。

 オークション形式はこれまで、転売ヤーが高額な値段で売りさばく舞台となっていると批判されてきた。メルカリの対応は、こうした批判を跳ね返すものといえる。

 一方、ラインヤフーは27日、ヤフーオークションとヤフーフリマにおいて、スイッチ2の本体の出品を、発売後も当面禁止すると発表した。メルカリよりも、さらに強硬な姿勢であるといえる。

 禁止期間に出品された場合は、出品の削除に加えて、アカウントの利用を停止するといった厳しい対応をとることにした。これも転売ヤーにとっては、大きな打撃になるだろう。

 フリマサイトはこれまで、「転売ヤーの活動を黙認している」とすらいわれてきた。しかし今回の各運営会社の対策は、「転売ヤー包囲網」ともいえる徹底した取り組みで、汚名をすすぐものといえるだろう。転売問題の根本からの解決に向けた大切な一歩になると同時に、転売ヤーに立ち向かうためには、複数企業の連携が大切であることを証明するモデルケースになるかもしれない。

大阪万博でも出現 チケットの転売ヤー

 転売の問題はスイッチ2だけにとどまるものではない。

 最近問題になった一つが、人気キャラクター「ちいかわ」のグッズをめぐる騒動だ。

 日本マクドナルドは、ちいかわのおまけつき「ハッピーセット」の第1弾を5月16日に、第2弾を23日に発売。しかし、どちらも最初に予定していた時期から前倒しして終了した。30日に予定していた再販も中止している。

 いずれも、転売用におまけを集めるため、ハッピーセットを大量に買いあさる動きがあったからとみられる。実際、フリマサイトでは高額でちいかわが売られているのが確認されている。海外のサイトでも販売されていた。

 また、マックの店内では、食べられなかった食品が大量に廃棄されるなどのケースもみられた。ちいかわの件に関しては、深刻なフードロスの問題も引き起こしているといえる。

 一方、大阪湾の人工島、夢洲で開催中の2025年大阪・関西万博でも、転売をめぐる問題が起きている。

 会場内で店舗を出している回転ずし大手のくら寿司は5月、予約が転売されていることを確認したとして、そうした行為をやめるよう呼びかけた。

 同社のサイトには、次のように書かれている。

 「予約を購入することも利用規約の不正行為に該当します。予約の取り消しやアカウント削除などの処置がとられる場合がありますので、不正な取引を行わないようにご理解をお願いいたします」

 「順番待ちチケット・予約の転売は禁止です。くら寿司の予約はEPARKサービスで発行されており、順番待ちチケットや予約チケットの転売・譲渡・購入は、EPARK会員規約により禁止されております」

 そして、違反時のペナルティーとして、「該当チケット、予約の取消し」「アカウントの停止、強制退会」「必要に応じた法的対応」を列挙。「すべてのお客様に公平なサービスを提供するためご理解とご協力をお願いいたします」と訴えた。

 ほかにも、国民を苦しめているコメの価格高騰にからんで、放出された備蓄米を混ぜたコメがフリマサイトで転売されていることが確認されている。 

 徹底したスイッチ2の転売対策は、幅広い業界や市場の対策のあり方にとって参考になる可能性がある。今後もスイッチ2を巡る動きから目が離せない。