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新しい消費のかたち サステナブルなファッションレンタル 天沼 聰 エアークローゼット

エアークローゼット 天沼聰

環境保護や資源循環が求められ、注目を集めるシェアリングサービス。日本初・国内最大級の月額制のファッションレンタルサービスを手掛けるエアークローゼットが他業種とのコラボなどで存在感を増している。その強さの秘密を天沼聰社長 兼 CEOに聞いた。(雑誌『経済界』総力特集「注目企業2024」2024年5月号より)

エアークローゼット 社長 兼 CEO 天沼 聰氏

エアークローゼット 天沼聰
エアークローゼット 社長 兼 CEO 天沼 聰 あまぬま さとし

会社設立時から目指すのは時間の価値を高めること

シェアリングという言葉が世に浸透していない2015年。日本初の月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」を開始したエアークローゼット。天沼氏は「イノベーションを起こしたくて事業を始めたわけではない」と語る。

ロンドン大学で情報システムを学び、コンサルティングファームでIT戦略コンサルタントの経験を積んだ天沼氏は当時の同僚2人と同社を起業したが、いずれもファッション業界とは無縁だった。

「会社設立時、何をやるかだけでなく、『何のためにある会社にするか』を話し合いました。そしてたどり着いたのが『人のライフスタイルが豊かになるものをつくりたい』ということ。ライフスタイルとは人生であり時間そのものです。時間の長さは同じでもその価値は人によって異なり、気持ちや行動によっても変わります。その時間の価値を高められる会社にしようと考えました」

そのために必要なのが、ワクワクする時間をつくることだという。

「ファッションは人の心を動かし、ワクワクが持続しますが、忙しい女性から『買い物をする暇がない』『忙しくてトレンドを追えない』という声が聞かれました。そこで『生活リズムを変えずに新しいファッションに出合うことができたらワクワクするのではないか』と考えたのです」

情報量が増加し続ける中で求められるサービスとは

サービスの中で安価なお洋服を大量に購入してもらうという案も出たが、それは採用しなかった。

「忙しい女性はお洋服を選ぶ時間がないので、弊社が大量生産・消費・廃棄を率先するのも違う。そこで、パーソナルスタイリストがその人に合うコーディネートを選んでレンタルするサービスを始めました」

人々が日常的に接する情報は増加する一方だが時間が増えるわけではなく、自分に合うものを選ぶのはますます難しくなる。だからこそ、情報をキュレーションして届けるサービスが今後必要になると考えた、

「airCloset」には、クリーニングや修繕を同社が担当する、返却期限がないという特徴がある。

「この実現にはコストがかかるため月額会員制としました。返却後に新たなお洋服を送るシステムとなっており、会員はお洋服との出合いに集中していただけます」

その人に合ったアイテムを届けるため、会員登録時にファッションの好みや気になる身体の部位などを記入してもらう。その情報を元にパーソナルスタイリストがその人に似合うお洋服の候補を挙げていく。レンタルして気に入ったものがあれば、都度購入もできる。

近年はパーソナルスタイリストの教育に力を入れているほか、スタイリストと会員のマッチングや、在庫状況を踏まえたお洋服のピックアップなどにAIを活用している。

「これまでのレンタルサービスは経済合理性の下で行われていましたが、私たちの目的は人々の時間の価値を高めること。レンタルサービスはその手段です」

事業拡大戦略を支える、循環型物流プラットフォーム

近年シェアリングサービスが増えているが、最大の壁は物流コントロールの難しさにある。

エアークローゼットではファッションレンタルサービスに加え、最新家電を借りて試してから購入できるメーカー公認月額制レンタルモール「airCloset Mall」を立ち上げたほか、アウトドア用品のレンタル事業の物流機能の受託も決定。成長を続ける秘密は独自の循環型物流プラットフォームにある。

ファッションレンタルサービスでは配送と返却のほか、モノの保管、検品・クリーニング・メンテナンスがスムーズかつ効率よく行われることが重要だ。だが、「airCloset」は返却期限がなく、いつ返却されるかはユーザー次第なので、クリーニング工場の人材がいつ、どれだけ必要か見極めるのは難しい。変動する在庫を見ながら予測を立て、仕入れを行わなければならない。この難易度の高いサイクルを回すために構築されたのが循環型物流プラットフォーム・AC‐PORTだ。

「効率だけ考えれば物流は外部に任せた方が早い。しかし、弊社の循環型物流はこのサービスの肝です。サービス開始前からサプライチェーンのチームを組んで徹底的に考え、都度改善してきました」

AC‐PORTの基盤システムは自社でフルスクラッチ開発を行ったWMS(倉庫管理システム)。これは返却前提のシステムで、他社サービスにも対応できる設計となっている。ここにRFIDタグを掛け合わせることでアイテムの個品管理も可能になった。天沼氏のキャリアが生きているが、重要なのは改善活動の継続だという。

「サービス基盤や業務フローだけでなく、染み抜きに至るまで現場の課題改善を泥臭く続けてきましたし、たくさん失敗もしました。このサービスは仕組みをつくって終わりではなく改善が重要。AC‐PORTはファッションレンタル以外のサービスにも対応可能な物流基盤です。実際、企業とのコラボレーションの相談も数多く頂いています。これを増やし、よりよい未来を創れたらとても嬉しいですね」

循環型物流プラットフォームの強みは今後も同社のビジネスの幅を広げてくれることだろう。 

会社概要
設立 2014年7月  
資本金 5,006万円  
売上高 37億4,004万円  
本社 東京都港区  
従業員数 113人  
事業内容 日本初・国内最大級の月額制ファッションレンタルサービス『airCloset』、商品を試してから購入できるメーカー公認月額制レンタルモール『airCloset Mall(エアクロモール)』等の運営  
https://corp.air-closet.com