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シャープを傘下に収めた鴻海・郭会長の勝算は?

シャープが台湾の鴻海精密工業に事実上買収されることになった。しかしもう1つの選択肢に挙がっていた産業革新機構の支援スキームよりは鴻海傘下で事業立て直しを進めるほうがメリットは大きい。今後は、鴻海グループ内でのシナジーを生かせるかに懸かっている。文=本誌/村田晋一郎

 

鴻海傘下に入るシャープのメリット

 

 シャープは3月30日、台湾の鴻海精密工業とその関連会社を割当先とする総額3888億円の第三者割当増資を実施することを発表した。

 シャープ再建については、1月までは産業革新機構による支援が有力視されていたが、好条件を提示した鴻海がひっくり返した格好。その後、シャープの業績悪化や偶発債務問題、鴻海側の出資金額減額など条件変更で、交渉は難航したが、結局は鴻海で決着した。

 4月2日に堺ディスプレイプロダクト(SDP)で開催された共同会見において、今回の出資を髙橋興三・シャープ社長は「戦略的提携」、郭台銘・鴻海精密工業会長は「投資案件」であることを強調したが、鴻海がシャープ株式の66%を握る大株主となり、事実上の買収となる。ブランドは残り事業を独自に運営していくとしているが、シャープは鴻海の一事業会社として立て直しを図ることになった。

 日本の大手電機メーカーが海外メーカーの傘下に入ることは初めてとなる。

 「日本の技術が海外に流出する」という悲観的な見方は一部で根強い。また、鴻海のしたたかな交渉から「産業革新機構のほうが良かった」という声も聞こえてくる。

 確かに鴻海にいいようにやられた感はあるが、それでもシャープにとっては鴻海の傘下に入るメリットのほうが大きいと考える。

 そもそも産業革新機構の再建スキームはシャープを事業ごとに分割し、液晶事業はジャパンディスプレイと、白物家電は東芝とそれぞれ統合するもの。「オールジャパン」と言えば聞こえは良いが、実現していれば、シャープが事業部ごとにバラバラに解体される上、統合先でのリストラは必至だった。

 過去の事業統合の例を見ても、不遇な扱いを受けるのは、主導権を握れず統合される側だ。つまり統合の過程で、シャープの技術は廃棄、拠点は閉鎖、人員は大幅に削減される可能性が高かった。

 郭会長は、「個人の成績を理由に年間3〜5%の社員に辞めてもらっている」と語っており、鴻海による買収でも、ある程度の人員削減が予想されるが、革新機構のスキームと比べれば少ないだろう。シャープをほぼまるごと鴻海グループに取り込むことで、組織の一体性や技術の継続性、雇用は守られる。

 また、鴻海はEMS(受託生産)事業からの脱皮を目指しており、ブランド力のある自社製品を必要としていた。今後、鴻海がシャープブランドを自社ブランドとして展開していく上で、シャープ製品の開発は加速する。ここでシャープの技術はさらに発展することが期待される。

 技術の継続と活用、そして従業員の雇用、法人税の納税といった社会的影響までも考えると、産業革新機構のスキームでバラバラになるよりは、外資の子会社でも存続したほうが各方面でプラスの効果は大きいだろう。

 

鴻海はSDP再建の手法をシャープにも適用か

 

 では、鴻海はこれからシャープをどうしていくのか。4月2日の共同会見で、郭会長は「2年と思っていても、日本の文化では4年と言うだろう」と早期の黒字化に自信を見せつつも、手のうちを明らかにしなかった。そこで一つの指針となるのが、SDPでの実績だ。

 SDPは、世界で唯一「第10世代」(2880×3130ミリメートル)の大型液晶パネルを製造できる堺工場の事業会社。堺工場建設の大型投資がシャープの経営危機の元凶になった。12年の経営危機に際して郭会長の投資会社が出資し共同運営となってからは、15年12月期まで3期連続の黒字化を達成している。

 黒字化の要因は、鴻海流の早い経営スピードと、鴻海のグローバルな販路を活用し液晶パネルを売りさばいたこと。鴻海傘下となったシャープも恐らくはSDPの手法でビジネスを立て直すものと思われる。共同会見をSDPで実施したのも、そのことを暗示している。

 シャープは4月6日付人事でSDP会長の野村勝明氏がシャープ副社長に、SDP社長の桶谷大亥氏がシャープ常務に就任することを発表。この人事は鴻海の意向と見られるが、さすがに動きが早い。

 両氏とも転籍してSDPの経営にあたっていたが、その実績が評価されてシャープ本体に戻ることになった。今後発表されるシャープ新経営陣でも要職に就く可能性が高い。SDPで培った鴻海流をシャープに還元する形だ。

 また、ディスプレー事業に関しては、鴻海傘下の世界第3位の液晶パネルメーカーであるイノラックスとのシナジーも期待できる。

 郭会長としては、イノラックスとシャープの液晶技術を組み合わせ、ディスプレー市場の勢力図を変えたいのだろう。「ディスプレー業界は、技術変化の重要なタイミングに入っている」とし、次世代技術開発に勝機を見いだそうとしている。

 シャープは今回の出資金3888億円のうち、2600億円をディスプレー事業の投資に使うが、そのうち600億円は液晶、2千億円は次世代ディスプレーの有機EL(OLED)の開発に充てる。

 イノラックス側200人、シャープ側60人で開発を進める方針。OLEDは韓国メーカーが先行しており、まずはどこまで追い付けるかが成長の鍵となるだろう。

 
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