今回はLUFTホールディングス社長の南原竜樹さんをゲストにお迎えしました。多くの方がご存じのとおり、売上高100億円から一気に破綻寸前まで追い込まれながらも、這い上がった波乱万丈の経験を持つ経営者です。そんな南原さんの人物像と考え方に迫ります。
南原竜樹社長のジェットコースターのように浮き沈みの激しい人生とは
佐藤 南原さんは、ジェットコースターのように浮き沈みの激しい人生を歩まれた経験が、ある意味勲章みたいになっていますね。
南原 勲章ではないですが「そういう人生のほうが楽しいよ」と周囲には話していますね。
佐藤 事業を始めたのは学生時代だそうですが、昔は起業のハードルも高かったのでは。
南原 今は名刺に携帯番号とメールアドレスを書けば済みますからね。当時は留守番電話を外出先から聞くこともできなかったし、起業する時は事業所を借りて事務員を雇わないといけなかった時代。僕も最初は、知り合いの修理工場の一角を借りて事務所として使っていました。電話契約に30万円の保証金と30万円の権利金、それと自動車電話も使っていたのでその工事費が30万円掛かりました。それに比べると、いかに今は起業しやすいことか。親からは「いつまでもプー太郎しているんじゃない」と言われていましたが、25歳の時に1カ月の稼ぎが3千万円くらいありました。
佐藤 周囲からは随分やっかまれたのではないですか(笑)。
南原 友達は誰もいなくなりましたね(笑)。居酒屋に行って、金がない友達に奢ってあげると喜ばれたんですが、それが何回も続いて「南原、今日もゴチな」と言われた時に、ちょっと違うよなと。それでみんなと飲みに行くのを止めてしまいました。
佐藤 今は幅広く事業を展開していますが、儲かる事業を見つけ出す秘訣は。
南原 タイミングが重要です。自動車の並行輸入を始めた当時はベンツやBMWがバンバン売れていて、そういうときにドンと仕入れて販売するルートを開拓したから成功しました。肉体改造のパーソナルトレーニングジムも、広まったのはタイミング良く始めたから。今、全国に同様のジムが200から300あると言われていますが、ある人によれば、その95%は僕のジムがルーツだということです。結局、時流をどうつかまえて、世の中に出していくかなんです。
佐藤 その嗅覚はすごいですね。
南原 大事なのは情報と知識。例えば成功した例では、1995年にメキシコでペソが大暴落した時に、古いフォルクスワーゲンビートルを4千台ほど輸入しました。北米自由貿易協定(NAFTA)が結ばれたので、ペソが値下がりするチャンスを虎視眈々と狙っていたら、一気に暴落しました。中古で100万円ほどだったビートルが半値くらいになったんです。それを大量に購入して、日本に輸入して売ったら爆発的に売れた。そういうことを常に考えていると、一般の人が他人事と考えるニュースも、ビジネスチャンスとして生かせます。
南原竜樹社長の輸入車事業が破綻した時の状況とは
佐藤 輸入車の事業が破綻した時の状況はいかがでしたか。
南原 ご存じのように、仕入れ先のローバーが破綻して、またゼロになりました。ゼロから起業するより、事業を拡大してからゼロになるほうが復活は難しいんです。起業する場合は信用保証協会などからお金を借りやすいのですが、うちはローバーの破綻で特損を20億円くらい出していたので、そういう会社にお金を貸してくれるところはありません。ローバーが潰れても、バランスシート上はプラス45億円くらいありました。でも入ってくるお金がなくなったので、売り上げをすべて返済に回さなければいけなくなったのです。毎月1億円ずつくらいキャッシュアウトしていく状態で、不動産を含めた全部の資産を売るしかなくなりました。05年春にローバーが潰れて、それから従業員を全員解雇して、その年の12月には誰もいないオフィスを1人で掃除していましたね。
佐藤 そういう厳しい状況から復活されたことは、多くの経営者の励みになりますね。
事業再生の秘訣は「トレンドをつかみ当たり前のことをやる」
佐藤 事業を整理した後、サラリーマンになることも考えられたとか。
南原 敗戦処理にメチャクチャ疲れたので、求人情報誌に載っていたバスの運転手の募集に電話したこともあります。でも、年齢を聞かれて45歳と言ったら、35歳までだから駄目だと。当時、45歳からでも大丈夫なのはタクシーの運転手と夜間警備くらい。就職しようと思ったらできなかったから、商売で稼ぐしかなかったんです。
佐藤 その後は旅館の再生や沖縄のレンタカー会社の買収など、幅広く手掛けて成功されましたが、落ちこんだ事業を再生させるために必要なことは。
南原 きちんとしたトレンドがあるところに入って、経営の本質的な部分をしっかり押さえているだけです。当たり前のことを当たり前にやれば、商売は勝てます。例えば、講演会などで「今後10年間で売り上げが倍になるビジネスは何か」と尋ねるとみんな分からないんですが、答えは「棺桶」。高齢化社会で関連ビジネスの需要が増えるのは確実で、僕らがメディカルケアの事業をやっているのも、そのトレンドをつかんでいるから。人は棺桶に入る前には病院のお世話になるので、病院相手の仕事をさせていただいているわけです。
後は、現場をしっかり見れば問題が見えてきます。旅館の再生をやった時は自分で配膳の手伝いもしたし、風呂洗いもしました。風呂桶に穴が開いていたので取り換えるように従業員に指示すると、「檜の風呂を取り換えると1千万円は掛かる」と言う。でも、知り合いの業者に尋ねたら「80万円でできる」と(笑)。そういうことも、自分で風呂桶を洗っているからよく分かるんです。
事業はいわばカーリング、起業というゲームに参加してほしい
佐藤 内輪の常識や慣習に縛られていると、見えないことがたくさんあるという良い例ですね。ところで先日、手掛けられている銀座のフレンチレストラン「ドミニク・ブシェ・トーキョー」にうかがいましたが、お金を掛けるところにはしっかり掛けていらっしゃいますね。
南原 このご時世に内装代だけでも1億8千万円くらい掛けています。お金を掛けるべきところに掛けてしっかりと積み上げた結果、豪華な雰囲気をつくり上げているので、人気が出て当たり前なんです。かたや、ウチのオフィスは事務所の机は貰いものだし、自分の洋服代も年間2万円くらい。商売にならないことにはビタ一文使いません。
佐藤 名古屋人はその辺がシビアですよね(笑)。地味でも安定している企業が多い印象です。
南原 名古屋は狭いから、夜逃げしてもすぐに分かっちゃうんです。名古屋の車屋さんはみんな僕の実家まで知っていますからね(笑)。昔からの人間関係があって堅いので、いい加減なことができないんです。
佐藤 これから起業を志す人にメッセージをお願いします。
南原 日本という国はお金を貸してくれるところもたくさんあるし、起業するリスクは思ったほどありません。失敗したとしても、サラリーマンに戻るのはそれほど難しくないでしょうし、ぜひチャレンジしてほしい。事業はギャンブルではなく、ゲームに例えるとカーリング。ストーンを投げた後、ほうきで方向を変えるように軌道修正できます。でも、投げないと始まらない。ぜひ、起業というゲームに参加してほしいと思います。
対談を終えて
南原さんのオフィスは移転前の弊社と同じビルにあったため、よくお見掛けしていました。じっくりと仕事の話をしたのは初めてですが、やはりただ者ではありませんでした。近々上場を予定されているとのこと。ますますのご活躍を期待しています。
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