経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「挑戦してたくさん間違えること」こそ教育――ゲスト 黒田真紀(エノアコーポレーション社長)後編

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

黒田真紀・エノアコーポレーション社長プロフィール

黒田真紀

(くろだ・まき)10代でカリフォルニアに家族で移住し、空軍に入隊。4年間勤務したのち、退役してMBAを取得。ソニーコーポレーションアメリカ、マリオットホテル、野村證券などを経て、1996年にハワイに移住。ワイキキトロリーの運行などを手掛けるエノアコーポレーションの代表取締役社長に就任し、現在に至る。

黒田真紀氏が語る日本人の弱点とは

イゲット 過去に働いていた大企業と、今経営しているエノアコーポレーションで違いは感じますか?

黒田 従業員の人間性の部分と、大企業だと何かを始めるまでに何年間もかかるところが、今の会社ではやるとなったらすぐにやるというところですね。私が以前働いていたソニーも、ウォークマンがヒットした後、デジタル化に時間がかかりすぎたために、アップルにやられてしまったのではないでしょうか。

イゲット 確かに、日本企業はスピード感がなくて出遅れてしまうところがありますよね。

黒田 今は変わってきているとは思いますが、日本のサラリーマンには「失敗したくない」と考える方が多いのも理由でしょうね。日本企業は長期的に物事を考えますが、アメリカ企業の場合は、長くても1年ぐらいの短期ビジョンで動いています。

それには良いところも悪いところもあって、日本人とミーティングをすると、みなさんTQM(トータル・クオリティ・マネージメント)、つまりチームの調和を重視して全体を見る傾向がありますが、アメリカ人は個人で走っている人がたくさんいて、どちらかと言えば自分勝手(笑)。昔の日本の会社は、朝ラジオ体操をやって、会議をたくさんやって、ボスの前に部下がずらっと座ってという学校みたいなところがたくさんありましたが、そういうところは今でも残っているでしょう。私は問題児だったから、小さなころから先生にもいろいろ言って、落第する寸前まで行きましたけど(笑)。

イゲット 規格外の子供だったから先生が大変だったでしょうね。

黒田 先生には迷惑をかけて、悪かったなという思いはありますけどね(笑)。日本人は素晴らしいけれど、心配している部分もあります。間違ったことを言ったら恥ずかしいとか、嫌われちゃうんじゃないかとか、考えすぎているのではないでしょうか。日本人には我慢することが美徳という考え方があって、結婚もそう。日本人カップルで「本当に幸せ!」と言っている人は本当に少ない気がします。

イゲット 確かに、アメリカ人に比べると幸せ自慢みたいなのは少ない気がしますね。

黒田 先生とも、夫とも、職場のボスとも本音でコミュニケーションしない人が多いから、もっと素直に話して、どうやって一緒にやっていこうか話し合えばいいと思います。

黒田真紀氏が自分の娘に説いていること

イゲット千恵子と黒田真紀イゲット それは、子供のころから意見を求められる場面が少なかったということも影響している気がします。

黒田 私が最初にアメリカに来た時、子供たちが先生と友達のように話して意見を言い合っている姿を見て、初日から「ここが私のいるべき場所だ」と感じました。

イゲット アメリカの教育現場では、手を挙げて先生に疑問を呈してもいいし、先生もそれを間違っているとか言わないですからね。いろんな意見を聞いてくれるというか。

黒田 日本の教育は変えないといけません。まず、英語はグローバル言語だから、絶対勉強した方がいいと思います。日本語でもはっきり言わないのに、英語ができれば良いのかという疑問もありますが、言葉がはっきりしていれば、はっきりと主張できますから。

それと、英語だけではなく文化の相違についても学んだ方がいいです。何かを言うほうが何も言わないよりはマシなので、とにかく「メイク・ミステイク!」です。子供をそうやって教育していくことをスターティングポイントにしないといけません。うちの娘には「今日ミステイクを犯した?」と尋ねて「やってない」と答えると「Why?」と聞きます。たとえ小さいことでも、何かにトライして間違うことはいいことなんです。

イゲット 間違えることで、新たなことを発見したり調べたりできますからね。

黒田 科学でも医学でも、何万回も失敗して新しいことを発見してきたのが歴史ですから、挑戦してたくさん間違えなることが必要です。

黒田真紀氏が展望する事業面の課題

イゲット 今後の事業面での課題や展望を聞かせてください。

黒田 まず、B to Cが重要になるのでオンラインに力を入れていくことです。テクノロジーを使いながら多言語システムも作っていきたいし、そして何といってもハワイに来るお客さんを喜ばせたいですね。日本からのお客さんだけでなく、アメリカ人に対してもそうです。一生に一回の旅行がハワイという人もたくさんいらっしゃいますから。

これは本当の話ですが、あるツアーにおばあさんが一人で参加していて、話を聞くと、旦那さんと一緒に旅行しようとずっと貯金してきたけれど、旦那さんが亡くなってしまったので、彼女が旦那さんの写真を持ってハワイに来たそうです。そういう人たちに対しては、本当にハワイに来てもらって嬉しく感じます。

イゲット トロリーは今、何時から何時まで運航しているんですか?

黒田 朝は早いですよ。6時くらいから夜の10時半ぐらいまで運航しているので、一日が長いです。トロリーとは別に、バスツアーで島を一周することもできます。

イゲット ハワイは小さい島なので、昔から観光スポットがあまり変わっていない印象もありますが。

黒田 ハワイをよく訪れる日本人の方でも、名所の周辺にいろいろなものがあるのを知らないことが多いんです。この停留所には有名な名所があるけれど、周辺にはこういうものもありますよというのを伝えていきたいですね。ローカルの人でも知らないスポットが実はたくさんあるんです。

イゲット ハワイはリピーターが多いので、もっと深く知りたいという人はいっぱいいそうですね。

黒田 私も20年以上住んでいて、いまだに知らない場所があります。停留所は43カ所あるので、その周辺をどうやって紹介していくかが課題ですね。あとは、「トランスポテインメント」、つまり、トロリーを移動手段としてだけでなく、エンターテインメント性の高い乗り物にしていきたい。今後もいろんな計画がありますから、楽しみにしていてください。イゲット千恵子×黒田真紀(前編)

イゲット千恵子

(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

イゲット千恵子氏の記事一覧はこちら

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る