政治・経済

規制緩和や財政黒字化は経世済民達成の手段に過ぎない

 政府の目的は「利益を上げること」ではない。経世済民の実現である。経世済民とは「世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」という意味を持つ。すなわち、国民を豊かにする政策を実施することこそが、政府の目的なのである。

○政府の財政を黒字化する(財政健全化)
○政府の規制を緩和する
○公共投資を削減する
○増税する

 などはすべて「手段」であり、目的ではない。経世済民が達成できるのであれば、財政健全化や規制緩和、増税、公共投資削減政策は正しい。経世済民が達成できず、国民が貧しくなってしまうのでは、前記の政策はすべて間違いになる。

ところが、現在の世界の政治家、官僚の多くは、手段と目的を混同している。経世済民という政府の本来の目的を無視し、

「財政は黒字でなければならない」

「効率化のために規制緩和は断行されなければならない」

 などと、手段を目的化した主張を繰り広げ、政策を推進している。結果的に、世界は次第に不安定な方向に向かっている。

 例えば営利目的の「企業」であれば、何しろ目的が「利益を上げること」であるから、「黒字でなければならない」は正しい。また、利益(黒字)を出すには効率化が必須である。時には人員を削減するリストラクチャリングを断行しても、「利益を上げる」という企業の目的から鑑みると、特に間違っているわけではない。

 とはいえ、政府と企業は違う。政府は利益を目的とした企業ではなく、「経世済民」が目的のNPO(非営利団体)なのだ。それにもかかわらず、政策という手段を目的化し、国民が所得を得るための雇用の場が失われていくことを放置し、経世済民と懸け離れた状況に至った国が少なくない。

失業とは究極的には「飢え」の問題

 代表が、もちろんギリシャである。ギリシャでは、バブル崩壊後に緊縮財政を強行するという愚行を続け、失業率が27%を突破してしまった。サマラス政権はそれでも雇用対策を打ち出そうとしないため、ついには貧困家庭の子どもたちが学校の授業中に「飢え」が理由で気を失うという、おぞましい事態を招いてしまっている。

 1929年10月のNY株式大暴落に端を発した大恐慌期、米国の失業率は24・9%に達した。当時の米国の都市部では、公共施設や電車の中などで、やはり「飢え」から失神する市民が散見されたのである。

 筆者は失業問題について取り上げる際に、

「失業者は所得を得られない。所得を得られないと、最終的には飢えにつながる」

 と、繰り返し書いているが、現在のギリシャや大恐慌期の米国は、まさに「失業により飢える」状況に至ってしまったのである。ギリシャの第1四半期の失業率は、27・4%。大恐慌期の米国をも上回っている。

 人間は「モノ(食料)不足」でも飢えるが、失業による所得不足でも飢えるのだ。

 しかし、日本や米国、そして欧州には「失業」について軽く見る学者、評論家、官僚、政治家が少なくない。失業とは「失業率」「失業者数」といった数字の問題ではなく、究極的には「飢え」の問題なのだ。

経世在民の目的を見失った欧州

 ギリシャは、確かにもともと失業率がそれほど低くない国ではあった。それでも、80年以降で見れば「悪くても10%台」程度だったのだ。2008年以降のギリシャの失業率上昇は、明らかに異常事態である。何しろ、「それまでの最悪値」の3倍近くにまで高騰してしまった。

 ここまで雇用環境が悪化すると、社会全体が不安定な方向に向かわざるを得ない。ギリシャの「失業による飢えの拡大」は、経世済民達成どころか、社会全体を壊す可能性を秘めている。誰でも飢え死にするのは嫌であるため、最後には暴動や犯罪に手を染めてでも、食料を手に入れようとする。

 具体的に「何%の失業率で社会が壊れるのか?」といったレッドラインは引くのは難しいが、例えばドイツでは32年に失業率が43・3%に達した結果、翌年、ヒトラーを首班としたナチス政権が誕生した。そして、現在、ギリシャで支持を伸ばしている政党が、「黄金の夜明け」である。

 黄金の夜明けは、

「すべての移民を国外追放し、国境地帯に地雷を敷設する」

 という過激な公約を掲げ、昨年5月の総選挙で18議席を得た。さらに、黄金の夜明けは「ギリシャ人限定」ではあるものの、貧困層への支援を展開し、次第に支持を広げていっている。

 13年6月現在、黄金の夜明けの支持率は14%と、何と第3位だ。現時点で総選挙を行った場合、ND、SYRIZAに次いで、黄金の夜明けが第3党になる可能性がある。PASOK(NDと連立している)や民主左派(先日まで連立与党)の支持率を、追い抜いてしまったのだ。

 いずれにせよ、ギリシャはユーロに加盟している限り、サマラス政権は緊縮財政を強行せざるを得ず、まともな雇用対策を打てない。結果、社会がますます不安定な方向に向かい、最終的には政治的混乱が加速し、ユーロ離脱を検討する状況に追い込まれるだろう。

 ドイツがドグマ的な財政均衡主義に基づき、ギリシャのサマラス政権に緊縮財政を要求すればするほど、瓦解の方向に向かうというのが現在のユーロなのである。

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