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三菱自動車の経営再建が総仕上げに「スリーダイヤ」は再び輝くのか

三菱自動車の経営再建が大詰めだ。まず資本金と資本準備金を取り崩し、9246億円に上る累積損失を解消することを決定。優先株の処理にも取り組み、今期中の普通株への復配を目指す。リコール隠しなどで一度は信頼が地に落ちた「スリーダイヤ」は再び、輝きを取り戻せるのか。(東京新聞記者/藤川大樹)

三菱自動車の自立支えた三本の矢

5月24日に開かれた取締役会で事態は大きく動いた。資本金と資本準備金を取り崩して巨額の累積損失を解消するほか、優先的に高配当が得られる優先株から普通株への転換に備えて株式を併合したり、株式の発行枠を事実上、拡大したりする議案を、6月25日開催の株主総会に提出することを決議した。

「円高や欧州の経済危機、東日本大震災など厳しい局面を乗り切っていく中で会社が強くなり、成長への手応えを感じるようになった。復配に向けて前に進みたい」。

取締役会の終了後に東京都港区の本社ショールームで記者団の取材に応じた益子修社長は、今期中の復配に向けた「環境整備」に乗り出したことを明らかにした。

バブル崩壊後の1990年代前半に多目的レジャー車(RV)「パジェロ」が大ヒットした三菱自。ピーク時の95年度にはトラックなどを含めて80万9670台の国内販売を記録し、トヨタ自動車、日産自動車に次ぐ国内第3位のシェアを獲得した。

しかし、96年に米国の三菱自動車製造で女性従業員に対するセクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)問題が発覚し、97年には総会屋への利益供与事件が発生。2000年にはリコールにつながるクレーム情報を約30年にわたって隠し、運輸省(現国土交通省)に報告していなかったことが明るみに出た。さらに04年に再度のリコール隠しが起き、当時パートナーだった独ダイムラー・クライスラーから金融支援を打ち切られ、深刻な経営危機に陥った。

満身創痍の中、三菱重工業、三菱商事、三菱UFJフィナンシャル・グループの「御三家」を主な引き受け手とする計約6300億円の優先株を発行し、経営再建に着手。再建を託された三菱商事出身の益子社長は、欧州での現地生産から撤退する一方、タイを中心としたアジア・新興国市場に力を入れるなど事業の「選択と集中」に努め、着実に利益を積み上げてきた。

07年3月期以降は、リーマンショックの影響を受けた09年3月期を除いて最終黒字を達成した。市場関係者は「09年3月期から4期連続で最終赤字に陥ったマツダよりも収益力は高い」と話す。

足下では、ピックアップトラック「トライトン」やスポーツタイプ多目的車(SUV)「RVR」に加え、昨年4月からタイで生産を始めた戦略小型車「ミラージュ」が世界販売を牽引し、国内市場では、日産と共同開発した新型軽自動車「ekワゴン」の受注が好調。今期は営業利益で前期比48・4%の1千億円、純利益で31・7%の500億円の業績予想を立てており、グループ関係者は御三家の支援を「アベノミクス」に例え「商事が販売面、重工が技術面、銀行が金融面を支える『三本の矢』で、三菱自もようやく自分の足で立てるようになった」と感慨深げに語る。

三菱自動車の経営再建に向け価格交渉がヤマ場に

業績回復を背景に、益子社長は中期経営計画「ジャンプ2013」が終わる14年3月末までの普通株に対する復配を明言。足かせとなっていた巨額の累積損失と、議決権がない代わりに優先的に高い配当が得られる優先株の処理に乗り出した。

優先株の配当率は5%。現在、御三家が3862億円の優先株を保有しているため、優先株に対する配当総額は193億円にも上る。優先株を処理しない限り普通株への配当は難しいのが現状だ。

優先株の処理方法は大きく分けて①普通株へ転換する②三菱自が買い入れ消却する――の2つ。すべてを普通株に転換すると、株式数が増えて1株当たりの価値が薄まってしまう。一方、すべてを買い取るには、多額の資金が必要となるため、①と②を組み合わせた方法が現実的と言える。

そこで、比較的持ち分が少ない三菱商事と三菱重工の優先株を普通株に転換した上、銀行法で5%以上の普通株を保有することができない三菱UFJが持つ大部分を買い取る方向で検討を始めた。

優先株の買い取りの原資は現預金の一部に加え、新株を発行する公募増資で市場から調達する案が有力だ。ただ、公募増資でも株式数は増えてしまうため、最小限にとどめ、復配できる範囲で一部の優先株は処理を先送りし、毎年の利益を使って今後、数年間掛けて買い取る可能性が高い。

三菱自の株式数は60億株超と多く、株価の値動きが粗い。このため生命保険会社や損害保険会社、投資信託会社など中長期で多額の資金を運用する機関投資家からは避けられ、大半を個人投資家が占めている。まず10株を1株にまとめる株式併合を実施した背景には、株価が1円動いた際の投資収益のぶれを抑え、公募増資で機関投資家を呼び込む狙いがあるとみられる。

三菱自は今後、水面下で御三家と優先株の買い取り価格の交渉を行う見通しだが、三菱UFJは簿価を下回る価格での買い取りに応じる意向を示唆している。ディスカウント率が高ければ高いほど、少ない資金で多くの優先株を買い取ることができるため、三菱自は「4~5割引き」での買い取りを目指している模様。

ただ、三菱UFJの株主からは「なぜそんな安値で手放すのか」との批判が起きる懸念もあり、別のグループ関係者は「買い取り価格の交渉が最大のヤマ場になる」と予測する。

いずれにせよ、三菱自の経営再建はいよいよ最終段階を迎えた。このまま順調に進めば、スリーダイヤが再び輝きを取り戻す日は、そう遠くない。

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