政治・経済

LCC(ローコストキャリア)の発展は、航空機需要を増やし飛行機の旅を身近なものにした。しかし、同時に乗員や整備などの人員不足の原因にもなっている。こうした人材は安全の問題があるためすぐに養成できるわけではない。果たして解決策はあるのだろうか。文=本誌/古賀寛明

拡大する航空需要とパイロット不足

 この4月から日本航空(JAL)のパイロットの給与が大幅にアップする。2010年の経営破綻後、他の航空会社に比べても安い給与に抑制されていたため、パイロット不足の航空業界で引き抜きの草刈り場になっていたのだ。これまでJALの乗務員の年収は1600万円程度といわれていたが、それが100万〜200万円程アップするという。しかし、それでもまだパイロットに対して海外企業からの勧誘があるのだそうだ。

 日本では一昨年、ピーチ・アビエーションが、乗務員を確保できずに欠航を余儀なくされたことがある。今年に入ってからも、タイのLCCであるノックエアで、同様の理由によって欠航が相次いだ。パイロット不足はそこまで深刻なのだろうか。

 ICAO(国際民間航空機関)の予測データによれば、10年の段階では全世界で46万人であったパイロットの数が、30年にはおよそ2倍の98万人にまで必要になる。その内の23万人がアジア・太平洋地域に必要な人数だ。10年段階で5万人しかいないアジアのパイロット需要が、わずか20年で4.5 倍に増える。

 先のJALやノックエアなどの事例を見れば、既にパイロットの争奪戦が始まっているかに見える。しかし、将来の需要拡大と最近の人不足の原因はちょっと違うようである。その裏には、LCCの厳しい現実があるようだ。

 LCCの隆盛は世界中の航空需要を拡大させ、飛行機を庶民の足にした。その最大のウリである低運賃を実現させたのが、低コストの経営だ。しかし一方で、安全に関して言えばLCCもフルサービスのキャリアも違いはない。同じライセンスで、同じ安全基準が求められる。

 ご存じのように、パイロットの養成には多額の投資と長い年月を必要とする。大手の航空会社であれば自社養成も可能だが、LCCのビジネスモデルでは不可能な話である。つまり、LCCではパイロットをどこかからか見つけてこなければならないのだ。ところがそう簡単には見つからない。日本には日本の、米国には米国の、欧州には欧州の資格が必要であることや航空機も機種ごとのライセンスがあるため、機種それぞれに取得しなければならないからだ。しかもパイロットは高度な専門職だけに人件費は高く、人材の確保に余裕を持たせると経営を圧迫しかねない。足りないわけにはいかないし、かといって人余りにさせておくわけにもいかない。LCCはいつも人材に頭を悩ませていると言っていい。

 だからひとたび、辞める人が続いたり、急な事業の拡大に直面すると、最悪の場合、欠航や強引な引き抜きで対応しなければならない。そもそも、12年の同じ時期に日本で3社ものLCCが誕生できたのも、10年の破綻で、JALを離職したベテランパイロットたちがいたおかげだった。しかし、もうそんなこともない。

パイロット不足にむけての対応に追われる航空各社

 ただ、ICAOの予測どおり、パイロット需要が今後もっと増すのは間違いのない事実。しかも、現在の主力である40代が大量に退職する2030年問題まで持ち上がってきている。既に、こうした需要を見越して各社動いており、ビジネスにする会社もある。

 ANAホールディングスは、11年に訓練事業に参入。13年には米国のパイロット養成会社であるパンナムホールディングスを1億3950万ドルで買収し米連邦航空局(FAA)のライセンス取得も可能にしている。さらにその翌年には、タイに訓練施設をつくり旺盛なアジア・太平洋地区の需要を取り込む。

 エアバス社も同様だ。シンガポール航空と共同で新たな訓練施設のオープンを発表。エアバス社は、仏トゥールーズ、マイアミ、北京と訓練施設を持っているが、旺盛な需要を背景にシンガポールにシミュレーター8基を抱える最大の施設をつくった。既に17の航空会社がこの施設を利用する契約を結んでいる。

 日本でもこうした需要を取り込もうと私立大学も参入してきた。東海大学を皮切りに、法政大、桜美林大など、最近では日体大もパイロットの養成課程を開始するという。ところが高額な授業料負担は一般家庭には厳しい。国交省の資料によれば、国内パイロットの出身構成は約40%が航空大学校で、自社養成が34%、その他の防衛省、外国人、大学などで約26%となっている。しかし、自社養成は経営事情に左右され、航空自衛隊OBも即戦力ではあるものの定年までの在籍期間が少ない上、例えば、民航機だと揺れを少なくするために雲を避けて飛ぶが、自衛隊にその配慮は必要ないなど飛び方も違う。結局は航空大学校頼みになりそうだが、定員を増やすまでには至っていない。

 国交省もこの問題に64歳だった年齢制限を67歳まで引き上げ、さらに、副操縦士としての技能付与に特化したライセンスであるMPL(准定期運送用操縦士)を新設し、取得期間を約9カ月短くするなど工夫を凝らす。

 しかし、根本的な解決には至っていない。LCCを中心に航空業界にとって頭の痛い問題は続きそうだ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る