経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

悲願のJリーグ優勝へ ミクシィグループの相乗効果を生かす 川岸滋也 東京フットボールクラブ

川岸滋也 東京フットボールクラブ

2021年12月、FC東京の経営権をMIXI(ミクシィ)が取得した。ミクシィはSNSやスマホゲームの運営を手掛けるIT企業だが、Bリーグの千葉ジェッツふなばしをグループ会社に持ちスポーツビジネスに強い側面もある。社長の川岸滋也氏は、クラブ単体の経営ではなくグループの総力を動員して経営と競技成績の両立を目指すと意気込む。聞き手=和田一樹 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年6月号巻頭特集「熱狂を生み出すプロスポーツビジネス」より)

川岸滋也 東京フットボールクラブ社長のプロフィール

川岸滋也 東京フットボールクラブ
川岸滋也 東京フットボールクラブ社長
かわぎし・しげや 慶應義塾大学経済学部卒業。1999年 NTTドコモ入社。コンテンツ開拓やポータル運営、Webサービスの立ち上げ等、ネット事業全般に携わる。2008年7月ミクシィ入社。12年リクルート入社。ネット系開発部門やコーポレート部門で従事後、20年7月ミクシィに復帰。ライブエクスペリエンス事業本部 スポーツ事業部の事業部長を経て、22年2月東京フットボールクラブ社長に就任。

「普通」にビジネスをすればまだまだ収益は伸びる

―― 2021年12月、ミクシィが東京フットボールクラブ(以下、FC東京)を子会社化し、22年2月に川岸さんが社長に就任しました。まずはどこから取り掛かりましたか。

川岸 クラブの状況としては、コロナの影響で入場料収入が激減し、20年、21年は約3億円の赤字でした。私が就任して以降は、徐々にお客さんは戻りつつありましたが、その後の推移が読み切れない部分があったので、入場料以外の事業領域の伸び代を探りました。例えば、広告・協賛金の収入に関して、新たなパートナー企業に参画いただいたり、サッカースクールの新規出店に取り掛かったりです。ただ、総じて言えることは、もっと普通にビジネスをすれば、まだまだ成長する可能性が大きいクラブだと感じたということです。

―― どんなところに「普通じゃない」印象を持ちましたか。

川岸 これは一例ですが、チケット価格やスポンサー向け商品の設計、サッカースクールの月謝など、どのような考え方で値付けをしているか聞いてみると、単純な前例踏襲だったりする。事業の継続性を考えれば、適正な価格設定がなされていない施策が数多くありましたので、一つ一つ地道にフェアバリューを考えてきた1年間でした。

―― そこは親会社であるミクシィのノウハウも生きたのでしょうか。

川岸 DXなどの面で影響もありましたが、カルチャー面の変化も大きいです。私自身、IT分野の事業領域を歩んできましたので身をもって知っていますが、ネット系のビジネスは本当に変化が速い。四半期に1回PDCAを回しているわけですが、サッカーはどうしてもシーズン単位で考えますので1年に1回のサイクルになります。単純に4倍速で経営は進んでいると感じます。

 また、ミクシィグループで見れば、スポーツ関連のビジネスやコンテンツ系の部門もあって、スポーツ観戦可能な飲食店を探せるサービス「ファンスタ」やスポーツ分野に特化したNFT市場を運営していますし、Bリーグの千葉ジェッツふなばしもグループ会社です。FC東京のクラブ経営を単体でやっているというよりも、ミクシィグループとしてトータルで相乗効果を発揮していきたいと考えています。

―― 千葉ジェッツふなばしはBリーグの中で圧倒的な実力を誇り、収益面でもトップクラスです。ノウハウや人材の行き来もありますか。

川岸 今後やっていこうと考えています。人の移動、ノウハウの共有はもちろんですが、間接部門を統合したり、試合の演出やイベントを行う機能を集約したりする可能性もあります。

―― 社長就任時の会見で「経営規模はJ1クラブの上位に伍していく」との発言がありました。Jリーグのクラブ事業規模は、上位で70億円ほどです。FC東京は19年度の56億円強が過去最高でした。ここからどう伸ばしますか。

川岸 広告料や協賛金の部分はすでにJ1上位クラスの金額ですからここから大きく増額するとは考えにくい。やはり注力していくべきは、チケット収入やマーチャンダイジングなど、一般のサポーター向け収入です。例えば、浦和レッズさんはtoC向けで30億円以上稼いでいます。われわれの倍くらいの水準ですから、ここはまだ伸ばせると考えています。 もちろん興行が中心のビジネスですから、フットボールの質を高めるのは大事ですが、それ以外の部分で言えば、サッカースクール事業には期待しています。東京はまだまだ子供たちが多くいますので、サッカー以外にも展開していきたいですし、収益を押し上げる可能性を感じます。

ショービジネスの完成は勝つことにある

―― 競技の勝利と経営の成功を両立させるところがスポーツビジネスは難しそうです。

川岸 両立できるバランスが必ず見つかると思い、模索しているところです。教科書的な話では、まず選手や監督など直接的にフットボールに関わる部門に投資をしてクラブの実力や人気を高め、そこにtoB、toCの収益がついてくるという話がありますが、どのくらいの投資をすれば勝てるのかという絶対値は不確定です。

 基本的には、チームの人件費をかければかけるほど、勝ち点の期待値、勝率の期待値は上がっていくので、どれだけチームの人件費、選手の人件費に経営として割けるかは大きいファクターだとは思っています。一方で、チームの人件費に投資しすぎると、ビジネスサイドへの投資が遅れ売り上げがついてこない可能性が大きくなる。仮に赤字になれば、持続的なクラブ経営が難しくなります。ですから、このバランスをどこに置くかは常に考えないといけないですし、経営のアジェンダとしてはほぼそれに尽きるような気がします。

―― 鹿島アントラーズの小泉社長は勝ちこそが全てだと言っていました。川岸社長としては日々の勝敗をどう見ていますか。

川岸 勝つことが欠かせないのは事実です。FC東京に何が足りないかと言えば、まずJリーグで優勝していないことです。少し話を膨らめれば、クラブのブランドや格に関わる話だと思いますので、そういうところでFC東京はまだ名門とかビッグクラブというイメージは持たれてないわけですよね。首都東京の名を冠するクラブですから、優勝というプロセスは経験しなくちゃいけない。これはマクロな視点の話ですが、ミクロな視点で考えても、サッカーはショービジネスなので、ショーの完成は勝っていくことにあります。やっぱり勝たないといけないですね。

 これから早期に優勝を実現し、小金井、三鷹、府中、調布、小平、西東京のホームタウン6市に加え、ミクシィの拠点となっている渋谷区をはじめとした都心エリアでもFC東京の認知を高めることで、30年までに事業規模も80億円程度にまで押し上げることを目指していきます。