マネジメント

20170124KANDA_P03社内改革を進めるとともに、視聴者の心をつかむために必要だったのは、確固たるポリシーと時代の半歩先を行く感性だった。対談終盤では、テレビマンとして歩んできた和崎信哉氏の活字に対する考えも聞いた。構成=本誌/吉田 浩 写真=森モーリー鷹博

ポリシーを決めたら絶対に曲げない

20170124KANDA_P02

(わざき・のぶや)1944年京都府生まれ。68年京都大学教育学部卒業後、日本放送協会(NHK)入局。番組制作の現場で手腕を発揮したのち、2005年社団法人地上デジタル放送推進協会専務理事に就任。06年WOWOW会長、07年社長に就任し、15年より現職。

神田 番組作りは、人を巻き込んで、そこで意思の疎通がきちんとできていないとクオリティーが保てません。同じように、社内の意思疎通がなされていないと、会社の改革もうまくいかない。それを短期間で実現されたチームマネジメントのポイントはあるのでしょうか。

和崎 一番大切なことは、ポリシーを決めて、絶対に曲げないことです。今、WOWOWで成功しているコンテンツの1つにテニス中継があります。グランドスラムの4大大会だけではなく、主要な国際大会はほとんど中継しています。お陰さまでテニスと言えばWOWOWというくらいに認知されてきている。ところが私が来た頃、営業はテニス中継に反対していました。実はテニスの試合は編制泣かせなんです。1試合にかかる時間が2時間もかからないこともあれば、5時間かかっても終わらないこともある。これでは番組編成が組めません。だから地上波は撤退していったんです。

 当時、WOWOWでは、全米、全豪、全仏の3大会は中継していたのですが、全英選手権、つまりウィンブルドンは中継していませんでした。そこで、「やるなら徹底してやる」として、全英も中継することにしました。すると営業は「せめて録画中継にしてほしい」と言いました。地上波のゴルフ中継のようにディレイでカットしながら放送時間を決めて終わるようにしてほしいというわけです。映画を見たくて加入した方からのクレームもあったでしょう。でも、テニスを中継するなら、4大大会は必ず、すべて放送する。放送するなら生中継する。“上質なテニスの中継は、WOWOWがカバーする”というポリシーを決めたなら、それは絶対に曲げない。その上で、「ならば、そこで出てくる問題をどう解決するか」をチームで考えていく。これがチームマネジメントの最大のポイントだと思っています。

感受性を磨いて時代の半歩先を行く

神田 会社の改革を成功させた経営者に話をうかがうと、一人一人の社員と納得するまで話したという逸話が多いのですが、その点で和崎会長はいかがでしょうか。

和崎 一人一人と話したわけではありませんが、チームマネジメントの中で、軋轢が起こったチームのスタッフとは、膝をつき合わせて話し合いました。会社の改革でも番組作りでも、意識の共有、想いを同じにすることが大事だと思います。

 10月から始まった「WHO I AM」という番組があるのですが、これはパラアスリートを題材としたドキュメンタリーです。このシリーズを企画したきっかけは、東日本大震災でした。震災後に「日本人の意識が変わった」と感じることが増えて、ロンドンオリンピック・パラリンピックを経て、それを確信しました。日本人は戦後の荒廃から高度経済成長、バブル崩壊からの再生、リーマンショックからの立ち直りなど、その生き方、価値観の背景には「モノ」がありました。ところが東日本大震災以降はそれが変わってきている。それをパラアスリートのドキュメントで表現できるのではないかと考えたんです。

神田 今でこそパラリンピックにも注目が集まっていますが、以前はそれほどでもありませんでした。世間の注目が集まる前に、和崎会長はそこに目を付けられました。前回伺った性同一性障害を扱ったドラマの話もそうですが、世の中の10年ほど先を行った企画をされているんですね。

和崎 WOWOWは小さな会社で、メディアでありながら、報道、ニュースのコンテンツがありません。でも、時代のムーブメントを感じとる感受性がないとエンターテインメントは扱えない。番組の企画というソフト面に限らず、ハードも時代の先取りをしないといけない。そもそもアナログハイビジョン放送を民放で先駆けたのはWOWOWです。常に先進的な技術を取り入れてきて、ソフト面でも半歩先を行く感覚のコンテンツを作ってきました。時代の半歩先を行くということも、WOWOWがどんな形になっても変えてはいけないポリシーです。

神田 和崎会長が考える半歩先というのは、どれくらい先なんでしょうか。

和崎 半歩ですから、1~2年くらいです。ただし、企画するときには5年とか10年かもしれない。形になるときには、1年くらい先になっています。パラアスリートのドキュメンタリーにしても、東京オリンピック・パラリンピックが決まってから企画しても遅いんです。企画の最初の8本の番組で日本人を採り上げたのは、車いすテニスの国枝慎吾選手だけです。既に国内市場ではなく、海外へのコンテンツ提供を意識しています。世界のトップを扱う、まだ日本では知名度が低くてもそれを紹介していくというコンセプトは変えません。

ITとも向き合い変化を歓迎する

20170124KANDA_P01神田 「尖った企画」と「上質な企画」の2つが相反することもあるかもしれません。そこで、視聴者に離れられない工夫はあるのでしょうか。

和崎 地上波の放送局は日本国民すべて、1億人をターゲットにしています。ところが、プレミアムペイチャンネルであるWOWOWは違います。上質なエンターテインメントをお金を払ってでも見たいという視聴者層です。1度、マーケットリサーチを行ったのですが、そういった層は約1千万人います。国民の約1割ですね。その1千万人の中の何百万人をWOWOWに惹き付けられるかという考え方でコンテンツを作り、プロモーションも実施します。

神田 最近はアマゾンやHuluなど異業種が映像コンテンツの配信を始めて、ネットフリックスなども参入しています。そういう背景をとらえて、WOWOWではどんなことを意識されているのでしょうか。

和崎 確かにライバルは増えたかもしれませんが、今後は、放送も通信やITを無視することはできません。5年後、10年後を考えると、ITとどう向き合っていくかが重要です。これまでは放送という枠の中での変化でしたが、これからはコンテンツのデリバリーの形が変わっていきます。この1~2年で大きく変わってくるかもしれません。WOWOWとしてもどこかとアライアンスを組むということがあるかもしれません。今WOWOWは、会員向けの付加サービスとしてオンデマンド配信などを行っていますが、これも変わっていく可能性があります。

『坂の上の雲』を読み力不足を実感

神田 最後に、このシリーズの核である「本」の話も伺わせてください。和崎会長はどんな本がお好きなのでしょうか。

和崎 実は活字は苦手分野なんです。正確には活字にコンプレックスがあります。学生時代から映像に興味があって、テレビ番組を仕事としてきたのですが、一方で、「活字の方が格上だ」という意識が今でもあります。だからこそ、活字に勝ちたいと思って番組を作り続けてきて、今に至っています。残念なのは、純粋な読書の時間があまり取れていないことです。オリジナルドラマの台本も必ず読みますが、純粋に自分の趣味として本を読む機会は減っています。

 そんな中でも、思い出深い本は司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』です。NHKの新人時代、4年ほど松山にいたのですが、その時はとにかく早く東京に戻りたかった。松山で番組のネタを考えても、すぐにネタ切れになって、考えても「それはもうやったよ」と言われる。そんな頃に、『坂の上の雲』が産経新聞に連載されていたんです。連載時は読んでいなかったのですが、後から読んで、松山を舞台にして魅力的な物語が紡がれている。秋山兄弟や正岡子規は知っていたのに、こんな切り口があるとはと驚かされた。同じ松山にいて、そんな視点が持てなかった自分が情けなかった。ネタがないなんて泣き言を言って、自分の力不足に気付かされました。

神田 同じものを見ていても、そこから何を受け取り、表現するか、その違いを感じとれるかという点が、WOWOWの改革でも生かされたのではないでしょうか。最後に、子どもたちに読ませたい本というのは何か思い付かれますか。

和崎 自分の子どもたち、今は孫たちもいますが、クリスマスには本を送っています。そこで子どもにも孫にも与えた本が『エルマーの冒険』です。ファンタジーで冒険ものなのですが、幼稚園の頃は親に読みきかせてもらう、小学校に入ると自分で読める、また、高学年になっても読みごたえがあるという本です。何度も、違う形で同じ作品に触れることができるのは素晴らしいことだと思います。

(かんだ・まさのり)経営コンサルタント、作家。1964年生まれ。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て、98年、経営コンサルタントとして独立、作家デビュー。現在、ALMACREATIONS 代表取締役、日本最大級の読書会「リード・フォー・アクション」の主宰など幅広く活動。

「尖った企画」で成し遂げたWOWOW再生—神田昌典×和崎信哉(前編)

関連記事

好評連載

年収1億円の流儀

一覧へ

すべて自分を責めれば最適の解決策が浮かぶ

[連載] 年収1億円の流儀(第57回)

富裕層専門のカリスマFP 江上治

[連載] 年収1億円の流儀(第56回)

問題や課題から逃げても、それは形を変えてついてくる。

[連載] 年収1億円の流儀(第54回)

仕事の目的と志を語れば、共感者、賛同者が集まる。

[連載] 年収1億円の流儀(第52回)

プロフィールを戦力に加えよ。

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

金利固定化の方法を知る

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

人を育てる「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手に育成するコツ

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

シェアハウス業界のトップを走るオークハウス(山中武志社長)。“ソーシャルレジデンス”として高い付加価値が評価され、外国人を中心に人気を集めて成長している。ライバルの追随を許さないのは、ハードとソフトが融合された顧客目線のサービス力にある。[PR]入居者目線でソフトとハードを革新 シェアハウスは外国人向けの特別…

20161004OKAHOUSE_CATCH

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新たな価値観への シフトを目指すソフトウエアテストのプロ集団――SHIFT社長 丹下 大

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

アニメーションから実写、3DCGまで、目的に合った動画の企画・制作を行うCrevo(クレボ)。マーケティング目線の動画をていねいな進行管理で制作し、リーズナブルな価格でありながら完成度が高いことで好評を得ている。── 起業のきっかけは。柴田 起業前、ソフトバンクの子会社で働いており、孫社長が主催す…

企業eye

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

部材選び、設計、施工まで100%オリジナルの住宅を提供。木製サッシ生産にも注力――東京組

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界3月7日号
[特集]
15兆円を目指すスホーツビジネスの潜在力

  • ・総論 スポーツ市場を拡大させる7つのエンジン
  • ・村井 満(Jリーグチェアマン)
  • ・大河正明(Bリーグチェアマン)
  • ・中村武彦(ブルー・ユナイテッド社長)
  • ・大西 賢(日本航空会長)
  • ・黄川田賢司(水戸ホーリーホック国際事業企画マネージャー)
  • ・中西大介(スポーツヒューマンキャピタル代表理事)

[NEWS REPORT]

◆取りあえずは一安心 日米自動車戦争の行方

◆発売3年目を迎えるPepper 民生用拡大を狙いアプリ強化

◆財界の人材難を露呈した経団連の新副会長人事

◆減反廃止を前に過熱する東北「ブランド米」戦争

◆追い詰められた城南信金 業界再編の台風の目に

◆混迷続く大塚家具 考えられる3つのシナリオ

◆英語ができなくても大丈夫 新時代を迎えた翻訳マシン

[神田昌典対談企画]「知」の伝道者

 ゲスト 宗次德二(カレーハウスCoCo壱番屋創業者)

ページ上部へ戻る