マネジメント

通訳イメージ

グローバルなビジネス交渉や会議の場では、通訳者の技量が結果に大きく影響することがある。会話を瞬時に外国語に変換し、適切な言葉で表現する通訳の技術は、単なるバイリンガルでは務まらない特殊技能だ。その中には、外国語には縁のないビジネスパーソンでも活用できる要素が数多く詰まっている。文=吉田浩 

 素早く正確で読み直しやすいメモ術とは

  日本最大級の通訳・翻訳エージェントであるテンナイン・コミュニケーションの工藤浩美社長は、ある時、通訳者のトレーニングを担当する社員のメモの取り方が明らかに違うことに気付いたという。

 「考えてみれば、会社の新人研修などでメモの取り方を教えるところはほとんどありません。メモ術をトレーニングするのは通訳だけなんです」

 音声記録ができないビジネスの打ち合わせなどの際、後から自分のメモを見直して、内容が思い出せないという苦い経験をしたことがある人もいるだろう。素早く、正確に、読み直しやすいメモを取る技術は案外重要なのだ。

 工藤社長の著書『同時通訳者の英語ノート術&学習法』(中経出版)から、ビジネスパーソンに役立ちそうな通訳者のメモ術をピックアップすると次のようになる。

・大きめのノートに縦線を1~数本引いて、ページを縦に分けて使う 

縦に使うことで目線や手の移動が少なくて済み、スピードアップできる。

・センテンスや文章など意味の終わる箇所を横線で区切る

通訳の場合、訳し終わった個所を整理するために行うが、ビジネスの打ち合わせでも話題を整理するのに有効

・よく使う用語を記号化する

例えば「増加」は「↑」、減少は「↓」、理由や因果関係は「>」「<」「=」などで表現。

・数字や固有名詞を優先する

「相手が怒っている」「喜んでいる」などの感情を表す情報は記憶に残りやすいのでスルー。反対に数字や地名、固有名詞などは印象に残りにくいので必ずメモする。

・文字は大きめに書く

たとえノートに余白があっても、書きづらければどんどんページをめくって大きな文字で書き込む。メモは後から読み直して見やすいことが重要なので、ケチらずに大胆に使

う。

 これらをすべてを真似る必要がないが、自分流に取り入れれば大いに役立つことだろう。早速、ビジネスの現場で実践してみてはどうだろうか。

「トイレでどの個室に入るか」も時間管理の対象に

 もう1つ、ビジネスパーソンが通訳者から参考にしたいのが時間管理術だ。

 あらゆる分野の単語、表現を覚えなければならない通訳者の毎日は多忙だ。とはいえ、寝る間も惜しんで仕事する、というわけではない。工藤社長によると、通訳者のほとんどが1日7時間睡眠をキープしているという。

 では、どこで勉強しているのか。一番の違いは、通訳者は学習目的の場合を除いて、テレビを一切見ない。その一方で、細切れ時間を非常に有効に使っている。

 一口に細切れ時間の活用と言っても、その徹底ぶりは凄い。

 例えば、信号待ちの時間に単語を3つ覚える、単語帳をクリアファイルに入れてシャワーを浴びながら暗記する、トイレに入る際は時間節約のために入口に一番近い個室にしか入らない、毎日ハンカチを取り換える時間が勿体ないから1週間分まとめて持参する。さらには、出産のときに陣痛の合間に単語帳を見ていた通訳者もいるという。

 通訳者の場合、時間に対するそもそもの発想が違うと工藤社長は言う。本を読む場合でも、「この本を読むのに○時間掛かる」ではなく「この本を○時間で読む」というところから考える。複数の仕事が入って準備期間が限られるケースが多々ある通訳者は、自ずとそうした発想になるのだ。

 最後に、やはり通訳者に最も聞きたい英語上達のコツだが、「継続」以外にないという。一週間に3時間勉強するより、毎日30分ずつやったほうが効果は上がる。そして大事なことは、継続していると必ず訪れる「停滞期」にいかに頑張れるか。一流の通訳でも、必ず成長が止まる停滞期を経験し、そこを乗り越えることで段階的に能力を伸ばしている。

 また、工藤社長によれば

 「覚えた単語や表現を忘れることに罪悪感を持たずに、忘れたらまた覚えると割り切ったほうがいいですね。通訳者もあまり使わないような単語は忘れる前提で覚えますから」

 という。

 一般のビジネスパーソンが、通訳者ほどストイックになるのは難しいかもしれないが、参考にできる部分は多そうだ。

 ただし、重要なのはそれらの行為を「楽しむ」ということ。一流の通訳者が、傍目には厳しそうな時間管理や勉強を継続できるのは、新たな知識の獲得や自らの能力向上を心底楽しめるからに他ならない。

腰掛けOLを起業家として成功に導いた「顧客視点よりも大事なこと」

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