マネジメント

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日本初の独立系投資信託会社を設立し、成熟社会における長期投資の重要性を主張してきた澤上篤人氏。卓越した先見性と時代の流れを読む力は、欧州の金融機関で務めた経験から養われた。投資に対する澤上氏の思想の軸、信念について神田昌典氏が迫る。構成=本誌/吉田 浩 写真=森モーリー鷹博

経済の成熟段階では長期投資が必要になる

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(さわかみ・あつと)1947年生まれ、愛知県出身。69年愛知県立大学卒業後、松下電器貿易(現パナソニック)入社。同社を退職後、スイス・ピクテ銀行日本法人代表などを経て、96年さわかみ投資顧問を設立。99年日本初の独立系投資信託会社であるさわかみ投信を設立。2013年同会長に就任。

神田 澤上さんは長年、長期投資の世界に身を置かれ、1996年にさわかみ投資顧問株式会社を設立。さらに99年には日本初の独立系投資信託会社であるさわかみ投信株式会社を設立されています。設立当時は、個人を対象とした直販の投資信託というものは、日本ではほとんど知られていなかったと思いますが、あえて個人向け投資信託の会社を起業した理由はどんなところにあったのでしょうか。

澤上 私は長年、長期投資の世界で働いてきて、その良さについて熟知していました。それが日本では全くといっていいほど知られていませんでした。良いものを世に届けたい、それだけでした。

神田 良いものなのに、なぜ知られていなかったのでしょうか。

澤上 経済の成長段階では、長期投資は必要とされません。日本ではバブル崩壊まで、経済が成長し、真面目に働けば給料が増えて、欲しいものが買えました。余ったお金は預貯金に回せば、いい金利が付いた。将来は明るく、そこに投資の必要はなかった。これはどの国の経済でも一緒で、発展拡大段階では黙っていても経済は成長します。

それは、「もっと良い暮らしがしたい」という欲求が社会全体にあるからです。経済はお金が使われることで成長します。ところが成熟段階になると、みんな、欲しいものが一通り行き渡っている。そうなると、買い換え需要しか出てこなくなり、自然と需要の総量が減ります。生産量は少なくていいから国内から工場がなくなって中国などに流出し、雇用も減る。土地の需要も落ちるので、地価も下がる。これが成熟段階の経済です。私は、若い頃にヨーロッパに渡って、日本に先だって成熟経済の段階に入ってボロボロになっていく様子を目の当たりにしてきました。

神田 そこで長期投資が必要になるというわけですか。

澤上 成熟段階の経済ではお金をあえて使わないといけないのですが、使い道がありません。そこで企業に投資するという選択肢が出てきます。預貯金から資金を長期投資にシフトしていかないといけない。そうすることで成熟段階でも経済は成長し、個人の資産形成にもなります。

欧州の成熟経済を見て日本のバブル崩壊を予見

神田 それは、さわかみ投資顧問を設立される前から考えていたのですか。

澤上 87年のバブルまっ盛りの時からセミナーで訴えていました。当時は、「もう土地は上がらなくなるから手放したほうがいい」と言っても誰も聞きませんでした。バブル崩壊後も大変だと騒ぐばかりで、「成熟経済の段階に入ったのだから、長期投資にシフトすべきだ」と言っても、誰も耳を貸さなかった。だから、自分で会社を作ったんです。

89年末がバブルの絶頂でその直後に株価は暴落します。しかし、私は88年8月から日経新聞紙上で「もう売りだ」と言い続けていました。当時、ピクテ銀行日本法人の代表を務めていて、特金勘定中心に多額の預かり資産がありました。そのうち、小口は全額、大口のものも半分くらいは売り払って現金化しました。お客さまからは「早売りし過ぎだ」と言われました。でも、長年長期投資をやってきた経験上、どんな相場も上がり続けることはあり得ない、下がった時に買い直すのが運用と考えていたんです。実際、株価が暴落した時には、それまで文句を言っていた方々が「さすがだ」と手の平を返しました。でも、そこで解約されてしまった。ほかに預けた特金勘定が含み損を抱えていて現金たっぷりのピクテ勘定を処分せざるを得なかったんです。そういう流れで、機関投資家はもうゴメンだ、これからは一般生活者に長期投資の重要性を広めなければならないと実感しました。

自分を売り込むために新聞広告を出した

神田 そもそも澤上さんが金融、投資の世界に興味を持たれたきっかけとは。

澤上 実は、金融には興味がなかったんです。父親が事業をやっていた影響で、実業に興味がありました。

神田 ご経歴では、大学卒業後に松下電器に入社されて貿易を担当された後、退職してジュネーブに渡られていますよね。

澤上 父は製材工場をやっていて、かなり羽振りは良かったのですが、働き過ぎで若くして亡くなってしまいました。すると、債権の回収ができず、借金だけが残ってしまいました。一気に貧乏に陥ったのですが、私は長男だったので、借金を返さなければならない。それで働きながら大学に行くことにしたんです。その後、松下電器に入社したのですが、そんな立派な会社の給料でも借金返済には足りない。これはまずいなと感じて調べると、当時は日本と欧米では給料が10倍も差がありました。だったら欧米で働こうと思い、ジュネーブに渡りました。

神田 その発想がすごいですね。いきなりジュネーブに行かれても、言葉の壁があったのではないですか。

澤上 大学時代に必死で勉強していたので英語とフランス語は何とかなりました。大学時代に働いたお金で4年生の時、海外旅行をして、欧米の格差社会も目にしていました。下積みからのしあがるチャンスは滅多にない。高給取りは入社の時からランクが違うんです。だから、私も入社する時にいかに高ランクで入社するかを考えました。そこで、ジュネーブに行ってからドクターコースに入って箔を付けて、自分を雇ってもらうために新聞広告を出したんです。

神田 求人広告ではなく、自分を売りこむ広告ですか。

澤上 そうです。すると21社から問い合わせがあり、最初にインタビューを受けた3社に全部合格しました。そのうちの1社が世界的な長期投資の会社でした。それが、私が長期投資の世界に入ったきっかけです。

運用成績がすべてだから資金集めの営業はしない

20170207KANDA_P02神田 さわかみファンドは、対象を個人向けに絞られています。設立当時も現在も投資信託といえば、個人を相手に手数料稼ぎをするもので、しっかり運用成績を残していくなんて誰も考えていないので、かなり大変だったのではないですか。

澤上 事業というのは、基本的に大変なものです。大事なことは大変かどうかではなく、やるかやらないか、やらなければならないと強く感じるかどうかです。私は、個人向けの長期投資の事業をやるべきだと感じていた。価値がある仕事だと思った。それで十分です。

神田 至言ですね。

澤上 なによりも、ほかの誰かがやらないなら、自分でやるしかない。自分だけが儲かるのではなく、多くの人とより良い世の中をつくっていくことが大事です。自分1人で飲む高級なシャンパンよりも、みんなで楽しく飲むカップ酒のほうに価値を感じます。みんなが少しずつ幸せになることを望む。そのための最高の武器が投資信託です。

神田 しかし、日本ではそういう認識になっていないですね。

澤上 それは、日本の投信が酷いビジネスをしているからです。日本で資産額が大きい投資信託46本について、1万円の資産がどれだけの価値になっているかを見ると、うちが2万円を超えていて、ほかに1万数千円のものとなんとか1万円を保っているものを合わせ10本くらいしかない。残りの多くは数千円の価値にしかなっていません。ほとんどが大損しています。だから、うちがちゃんとした形でやろうということなんです。

神田 そもそも個人向け投資信託の知名度がない中で、どうやって営業していったのですか。

澤上 営業はしていません。どうせ知られていないし、説明してもなかなか理解されません。そもそも、運用は営業で資金を集めるものではなく、運用成績がすべてです。きちんと運用して利益を出せば、自然とお金は集まってきます。だから、運用益を上げることに全力を注ぐ。ただ、財産形成に投資信託が有用だという啓蒙は必要ですから、セミナー活動は地道にやります。

神田 運用成績がすべてという話ですが、どんな基準で投資先を選ぶのかが非常に重要になりますね。

澤上 今どきのアナリストは会社訪問をして業績動向などの数字をご用聞きしますが、私はそれでは浅いと思っています。これと思った会社については、まず過去20年くらいの業績を徹底的に分析し、5年、10年の予測を数パターン作成します。それくらいやって初めて分析と言えます。話を聞いて、「5年後に○%増収の計画だそうです」なんていうのは分析ではありません。自分で考えて調べ尽くして、その確認のためにインタビューに行くんです。会社の分析に割くエネルギーは全体の20%周辺の業界や競合の調査が30%、残りの50%は世の中の流れ、顧客の購買行動の変化、心理動向などの調査などです。そこまでやって、投資先を決めます。

神田 長期投資の世界はみんなそうなのでしょうか。

澤上 私がスイスで働き始めた頃は、本物の長期投資家がたくさんいました。当時、日本では投資は博奕のようなものでしたが全く違う。ものすごいアナリストがゴロゴロいて、彼らは1日12時間くらい働いていました。あちらではだれも教えてくれないので自分で盗み取るしかない。私はそこで長期投資のなんたるかを自分に叩き込みました。(後編に続く)

(かんだ・まさのり)経営コンサルタント、作家。1964年生まれ。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て、98年、経営コンサルタントとして独立、作家デビュー。現在、ALMACREATIONS代表取締役、日本最大級の読書会「リード・フォー・アクション」の主宰など幅広く活動。

投資する企業は成長するかどうかでは選ばない 澤上篤人(後編)

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