マネジメント

紙メディアを取り巻く状況は広告業界からどう見えているのか。クリエーティブディレクターとして活動しながら、カルチャー誌『ケトル』を発刊し、書店『B&B』を経営する博報堂ケトル社長・共同CEOの嶋浩一郎氏に紙メディアの現状と今後を語ってもらった。

一次取材のコストはウェブで捻出できない

20170418HAKUHODO_P01

(しま・こういちろう)1968年生まれ、東京都出身。上智大学法学部卒業後、93年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。2004年に「本屋大賞」の立ち上げに参画、NPO本屋大賞実行委員会理事。06年博報堂ケトルを設立、カルチャー誌『ケトル』の編集長。12年には本屋B&Bを開業。

 私は、新聞社や出版社など紙メディアが自慢すべきことは、紙に情報を整理して出版していることではなく、きちんと一次取材をしていることだと思っています。今までの4マスの広告モデルは本当によくできていて、戦後の長い間、新聞社や出版社など従来のトラディショナルメディアが一次取材に要するコストを捻出するだけの広告料金を企業から回収していました。

 今、その紙メディアが、情報発信の場をネットに移す時代になったときに、一番良いのは課金ができることです。しかし今のところ課金にきちんと成功しているモデルは日本経済新聞ぐらいしかないと思います。ヤフーニュースが日本に来てから今年で21年目になりますが、この20年間に日本人は、新聞や雑誌の記事がフリーで読める感覚がかなり身に付いてしまったと思います。日経新聞はヤフーに記事を配信しないできたため課金に成功しているのかもしれませんが、今までフリーで読めていたものに、今日から課金することは難しい側面があります。

 課金以外にメディアがネット上で収入を得ようとすると、大きく言うと2つの方法しかありません。ひとつはバナーなどを貼ってPVを換金するモデルです。ただしPV換金モデルは1PVが0.1円台ぐらいで取引されている状況です。

 しかもPVを得ようとするためにいろんな弊害も起きています。記事を分割したり、写真を拡大するボタンをつけたり、「ノーバン始球式」みたいな空目タイトルを付けることが行われています。PVがとれる記事が良い記事ではないケースもあるわけです。

 もうひとつはいわゆるネイティブアドです。アド広告表記をしたネイティブアドで収入を得ることになりますが、ネイティブアドも1記事が数十万円程度です。

 今、日本のテレビ局、新聞社、出版社が一次取材にかけているコストは、ネットに移行したときに、PV換金や、ネイティブアドによる収入だけでは、基本的には賄いきれないのが実態です。ですから新たなマネタイズ手法が必要になってきます。

世界観をつくれることが有限の雑誌の強み

 雑誌は、ネットに比べて世界観をつくりやすいメディアだと思います。例えば『BRUTUS』編集長の西田善太氏がよく言うことですが、グーグルで「コーヒー」と検索したら、コーヒーに関する情報がウェブにすべて表示されますが、『BRUTUS』には始めと終わりがあり、ページが限られた中でコーヒーというものを表現しなければいけない。おのずとセレクトする情報は限られ、何のコーヒーをセレクトするかにBRUTUSのセンスが現れ、それが世界観となります。そして、その世界観が好きなファンを集めることができます。だから雑誌は、ある世界観を形成して、それを好きな人のコミュニティーをつくる力があるわけです。

 しかし一般的にウェブではそういう世界観はつくりづらい。なぜかというと、ヤフーニュースやグノシー、スマートニュースのようなプラットフォームで言えば、時事通信の記事の下の読売新聞やNEWSポストセブン、アメーバニュースの記事が並んだりします。そして一つひとつの記事がスライスされた状況で、人はその部分だけをみていく。もともと配信元のニュースサイトにはある一定の世界観があったかもしれないですが、それが集積された場所では、世界観が感じづらい。

 広告を出す側からすると、雑誌にはある世界観があって、それが好きなファンがいるところに、企業の広告を出すと、その世界観の中で広告も読者に受け入れられやすいものになります。例えば、『CanCam』が「エビちゃんOL」を流行らせたら、エビちゃんOLに売れる商品の広告がどんどん入るわけです。

 しかし、ウェブでは一つひとつの記事のPVが高いか低いかが評価され、広告の売り方も、これだけPVがあるページで告知できますという文脈になります。クライアントからすると、広告が出現する場所が持っている世界観は関係なくなる。そういう意味で、紙メディアがウェブに移行すると広告が入りづらくなる可能性もあります。

 本来、雑誌は、企業のマーケティングに対して、新しいライフスタイルや価値観を提示できるすごいメディアなのに、それがウェブに行くと新しい価値提案がしづらくなるという問題を抱えています。また、そもそもウェブに移行すると収益が悪化するという構造があります。

 一方で、雑誌的な世界観をつくれる人が今、ウェブ業界に移行しつつあります。例えば、『東洋経済オンライン』編集長だった佐々木紀彦氏が『NewsPicks』に、『TOKYO Walker』編集長だった秋吉健太氏が『Yahoo!ライフマガジン』に、『暮らしの手帖』編集長だった松浦弥太郎氏が『食べログ』に行ったりしています。そうなると状況は少しずつ変わってくると思っていて、ウェブでの新しい広告出稿のスタイルができていくのではないかという期待はあります。

リソースを最大限活用しマネタイズ事業を展開

20170418HAKUHODO_P02 今後の雑誌については、より趣味性の高い、高額な商品に移行していくと思います。雑誌はやはり限られた範囲の中にある世界観が表現されていて、そのセンスが好きとか、その世界観が好きという人はいるわけで、その人たちは、パッケージメディアである雑誌を買い続けるとは思います。しかし記事一つひとつを読むだけでいいという人たちは、それをネットで読めばいいので、その分、雑誌の購読者数は基本的に減っていくと思います。そうなると出版社は雑誌のビジネスを成り立たせるために、ある段階で価格を上げる。そして雑誌は高級化路線や、その趣味の人たちだけにしっかりお金を払って読んでもらうメディアに変わっていくと思います。

 ただし、雑誌づくりでも、いろいろやり方はあると思います。これからの編集者は、雑誌をつくるというより、コンテンツをつくるという感覚が重要になります。例えば、将棋に関する漫画がヒットしたら、編集者は漫画をつくるだけではなく、棋士のトークイベントをやったり、子ども向けの将棋セミナーを開催する。要はコンテンツをつくって、それがあるときは紙の情報になって、それに関連するマネタイズ事業も同時に多角的にやっていかなければといけないと思います。

 クライアントに対しても、これまで雑誌は、広告を1ページいくらで売ることが成長モデルだったわけですが、企業が欲しいものはページだけでなくほかにもあります。例えば、『Mart』などはアイデアフルな主婦の読者を抱えていて、食品業界にとっては、その主婦の意見を聞きたいわけです。その読者のコミュニティーを活用した商品開発やコンサルティングもやっていけると思います。

 このように今後の出版社は自らのリソースを活用し、クリエーティブエージェンシー的な動きも必要になってくると思います。(談)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

コエンザイムQ10のCMで知名度向上、売上高1兆円を目指すカネカ--カネカ社長 角倉 護

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
65歳からのハローワーク

  • ・総論 働く上で「年齢」は意味を持たなくなる
  • ・50歳からの15年間の準備が豊かなセカンドライフを保証する
  • ・エグゼクティブのセカンドキャリア最前線
  • ・企業のシニア活用(富士通、ネスレ日本、鹿島)
  • ・副業のすすめ 現役時代の副業は定年以降のパスポート
  • ・島耕作に見るシニアの今後の生き方 弘兼憲史

[Special Interview]

 赤坂祐二(日本航空社長)

 「中長距離LCC事業には挑戦する価値がある」

[NEWS REPORT]

◆社員の3分の1を異動したWOWOWの危機感

◆迷走か、それとも覚醒か B2Cの奇策に出るJDI

◆外国人労働者受け入れ解禁で どうなる日本の労働市場

[特集2]

 開幕まで1年!

 ラグビーワールドカップ2019

ページ上部へ戻る