「仕事ではファッションが大事」と言えば、大事なのは中身だと反論されるかもしれない。だが、「仕事では印象(インプレッション)が大事」と言い換えれば、おそらく異論は少ないだろう。「ファッションとは、その人の内面、在り方を表すもの」と考えれば、そのプライオリティは高まるはずだ。本シリーズでは、20年間で2万人以上のファッションをコーディネートしてきた、ファッションスタイリストジャパン(FSJ)の西岡慎也氏が、ファッションとの向き合い方、具体的なテクニックなどを、ビジネスパーソンに向けて伝授する。
無地のスーツを持つ大切さ
大事な仕事の場面で着る勝負服は必要なのか。必要だとすれば、一体何着あればよいのか。
この問いに対する私の答えは「YES」です。どこに出て行っても恥ずかしくない服を着ることは自信につながりますし、セルフイメージの違いが仕事に影響を与えることは、これまで述べてきたとおりです。
では、何着ぐらい用意すれば良いのか。最も簡単な方法として私がお勧めするのは、ネイビー無地とストライプのスーツを1着ずつ、グレー無地とストライプのスーツを1着ずつの、合計4着を持つことです。これだけ持っていれば、組み合わせによって1週間バランスの良い着こなしが可能になると思います。
ネイビーとグレーのパンツは合わせられるので、費用対効果を高くできます。たとえば、ネイビー無地のジャケットとグレー無地のパンツを組み合わせればジャケパンスタイルになりますし、クールビズなど少しラフな格好をしたいときにも対応できます。
さまざまな組み合わせで着ることで、1週間のうちに着ないスーツを休ませてあげることもできます。シャツも薄いピンク、グレー、白、クレリック(柄物)など全部合うので、迷わなくて済みます。
黒のスーツを必ず持たなければいけないようにも思えますが、冠婚葬祭以外であれば、仕事用にはしっかり濃い目のネイビーを持っていれば、どこに行っても大丈夫です。
気を付けていただきたいのは、ストライプの服が痛んだときに、変わったものを試したくなって、シャドーストライプのスーツなどを買ってしまうと、ジャケパンスタイルができなくなってしまうことです。パンツは傷みが早いですが、ジャケットは残りますから、ストライプのジャケットだけが残るとパンツが合わせにくくなって、結局着なくなってしまうのです。
だから大事なのは無地を持つこと。無地のスーツはリクルートスーツのように思われがちですが、色の濃いネイビーでしっかりとした形と素材感であれば大丈夫です。
機能性はどこまで重視すべきか
勝負服を持つにあたって、もしファッションのプロから太鼓判を押されたら、どんなスーツでも安心できることでしょう。
勝負ですから、自信が持てればそれでOKです。しかし、これまで本連載で話してきた通り、「印象」はあなたの内側から外側へと押し出されるものなので、どのお店でいくらくらいの値段で買ったかということも確実に押し出されてきます。いざというとき、どこで服を買ったかと尋ねられて、正直に伝えられないようでは勝負服とは言えません。
ちなみに、サイズ感や色使いなどは自分に合っていても、機能性がイマイチといった場合はどうすればいいでしょうか。その場合も、「相手軸」と「自分軸」のバランスで考えることが大事です。
機能性というのは、着心地が良いとか長持ちしそうといった「自分軸」です。自分軸を作り過ぎてしまうと、相手に不快な思いをさせないという「相手軸」がおざなりになる恐れがありますので、この程度だったら「自分軸」を入れても許せるというバランス感覚を持っておくことが大切です。
「これぐらいなら多少動きづらくても、相手に良い印象を与えるなら仕方がない」という基準を、自分の中に作ってみてください。
西岡慎也のワンポイントアドバイス
ジャケットの内ポケットには、形が崩れるのを防ぐために何も入れないのが基本です。例えば、ボールペンを何本もさすとジャケットが膨らんでしまい、見る人によっては「面倒くさがり」と思われてしまいます。内ポケットに入れるのは多くても2本。1本は高級ボールペン、もう1本は色分けできる3色ボールペンを持っていれば、ほとんどのビジネスシーンに対応できます。内ポケットに携帯電話や財布を入れる方もいますが、両方一緒に入れることは避けてください。ジャケットには着る人の内面が表れるからこそ、内ポケットにも注意を向けてほしいと思います。
(にしおか・しんや)1979年生まれ。茨城県土浦市出身。21歳で米輸入会社ワイルドウエストジャパンに就職し、約4千人のファンを獲得。2001年、セレクトショップ「WITH PREASURE」を独立開業。従来のアパレルの販売方法ではなく、コンサルティングを中心としたコーディネートの手法を確立する。10年にファッションスタイリストジャパンを設立し、多くの著名人、エグゼクティブの顧客を獲得し、現在に至る。
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