マネジメント

住友商事に入社当時、できたばかりの紙・パルプ部門への配属を自ら希望し、段ボールを中心とする包装資材の事業に長年にわたり取り組んできた大坪清氏。ともすれば軽く見られがちな「包装」の存在価値を大きく向上させた功労者である。創業者の時代からレンゴーに息づく哲学と大坪氏の信念に、神田昌典氏が迫る。 構成=吉田 浩 Photo=森モーリー鷹博

段ボールという名前を生み出したレンゴー

201708KANDA_P02

おおつぼ・きよし 1939年生まれ、大阪府出身。62年神戸大学卒業後、住友商事入社。紙パルプ部門を中心に歩み、99年欧州住友商事会長兼社長。2000年レンゴー社長に就任。14年会長兼社長就任。全国段ボール工業組合連合会理事長、関西生産性本部会長など、多くの役職を務める。

神田 レンゴーは段ボール、紙を中心とした包装資材では業界を代表する企業です。ただ、ある意味当たり前に存在するものでもあり、ビジネスとして意識したことがありませんでした。

大坪 そこが悩みの種の1つです。段ボールをはじめとする紙による包装は、物流、ひいては経済活動を支える大切な資材です。しかし、やはり包装する中身の商品の方に注目が集まり、包装材は副資材などと呼ばれてしまう。それではいけないと、長い時間をかけて取引先の皆様にもご理解いただけるように努力してきました。業界内部でも自虐的に考える向きが多いのですが、業界そのものの価値を高めなければいけないと考えています。

神田 大坪社長は、石器時代、土器の時代、青銅器、鉄器があって、今は「紙器」の時代だとおっしゃっていますね。

大坪 「木器」も間に入ります。特に包装では、木枠でのパッキングが中心だった時代がある。それが今は、紙で包装する時代となりました。段ボールのポイントは、軽くて丈夫というだけではなく、リサイクルが可能だということ。これはあまり知られていません。

神田 段ボールという名前も、レンゴーが生み出したものですよね。

大坪 創業者である井上貞治郎が名づけたものです。私が住友商事に入社したのが1962年で、井上が亡くなったのは63年。たった2回ですが、井上と会うことができました。

神田 大坪社長は大学を出て、まず住友商事に入社されているんですね。

大坪 当時の住友商事は、鉄鋼に強いと評判の商社でした。そこに入社してすぐに、「会社の中で一番弱い部門に配属してくれ」と言ったんです。それができたばかりの紙・パルプ部門でした。当時の上司たちには、「なんて生意気なヤツだ」と思ったと後で言われましたね。でも、できあがったところには既に実績を挙げている人もいるし、外部からの横槍も多そうだと感じたものですから。

レンゴー大坪社長がすすめる全経営者の必読書

神田 学生時代はバレーボールに夢中だったとか。

大坪 高校時代は大阪で弱小だった大手前高校バレーボール部を、3年で大阪2位まで強くしました。神戸大学進学後も、大学の4部リーグだったバレーボール部を、卒業時には1部に引き上げました。10分間の休憩時間でもボールを打っていましたし、それだけの努力をしましたね。

神田 後の仕事に通じるのかもしれませんが、その頃から努力で組織の力を向上させるということをされていたんですね。

大坪 努力すれば成果が出るということを体感していたんでしょうね。今では当たり前のフローターサーブ、つまりボールを回転させずに不規則に落ちるサーブですが、これを開発したのはわれわれだという自負があります。当時、サーブはファーストサーブは強く打つけれど、セカンドサーブはミスしないようにアンダーハンドで打っていた。それだと、やはり体格に恵まれたチームが圧倒的に有利になります。セカンドサーブでもミスが少なく、かつ攻撃的なサーブが必要でした。そこで編みだしたのが、フローターサーブでした。

神田 常識を変えていったということですね。

大坪 授業の合間のわずかな時間でも、バレーのことだけ考えていたからこそ、できたのだと思います。

神田 バレーのことしか考えていなかったという話ですが、大学時代にアダム・スミスの『国富論』を原書で読まれたと聞いています。

大坪 それはゼミの先生に読まされたんです。体育会の部活をする学生は、ゼミに入ってもなかなか勉強しない。そこで、教授が「これだけは読め」と原書で国富論を渡してきました。辞書を片手に読みすすめたのですが、読破するのに1年半かかりました。

神田 それでも読み切ったのですね。

大坪 国富論の原題は『An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』、日本語に訳すと「諸国民の富の性質と原因の研究」といいます。タイトルの意味が分かると、「この本はどうやら国の富を作る性質と原因を調べてあるんだな」と理解できました。内容は、分業論なども含まれている。生産性を上げるためには、1人の人間でやるには限界がある。だから分業するんだと。さらに読み進めていくと「ナチュラルプライス」「マーケットプライス」なんていう言葉が出てくる。自然価格と市場価格ですね。さらに有名な「インビジブルハンド」、つまり神の見えざる手の話が出て来る。すごい本だなと圧倒されていくのです。

神田 それを、辞書片手に読み進めていったこともすごいと思います。

大坪 そこで、1700年代のあの時代に、アダム・スミスが国富論を書いた理由について考えました。当時は重商主義の時代で、世界中の農業国で生産が行われ、そこに軍事力を持った国が現れて、「取引」という名目で産物を根こそぎさらっていく。これを批判する本だったんだと分かってくるんですね。工夫して生み出された価値を力によって覆すべきではない、需要と供給の原則に従うべきだと。これが、さらにケインズの有効需要の法則につながり、後にフリードマンの自由主義が台頭しますが、現在はまたケインズに立ち帰っていると感じます。そのケインズの基本思想は、アダム・スミスです。これは経営者、ビジネスマンであれば必読の書だと思います。

神田 今、活躍するビジネスマンこそ、読むべき本かもしれませんね。

大坪 需要と供給の曲線が交わるところがマーケットプライス、ですが、これは「価格を決めるのは、需要=市場でもなく、供給=サプライヤーでもない。そのつながりだ」と言っています。インビジブルハンドとは、この需要と供給の関係を指すことが多いのですが、実は、このつながりのことだと思います。

包装とは繋ぐ、絆そのもの

201708KANDA_P03神田 つながり、絆という言葉からは、御社の哲学である「きんとま」にも通じるものを感じますね。

大坪 「きんとま」とはgold and timing、つまりお金と金鉄の意志の「金」、真心の「真」と「間」の4つを握ったら死んでも離すなという商売の鉄則です。もっと簡単にいうとお金と間を大事にする考えです。特にこの「間」が大切で、「間」は上に時がつくと時間、空がつくと空間、人が付くと人間になります。当社の包装は商品と商品の間を埋めるものですし、運ぶ間の時間を埋めるものです。包装とは繋ぐ、絆そのものなんです。

神田 その包装の事業ですが、御社では今、6つのコア事業を展開していると聞いています。

大坪 製紙、段ボール、紙器、軟包装、重包装、海外の6つのコア事業を中心に展開しています。創業者である井上は段ボール一筋でしたが、段ボールによる包装は、一番外側の包装です。しかし、お客さまの多くはもっと多様な包装を求めています。ならば当社でできることは、どんどんやっていこうということです。

神田 マネジメントではどのような点を意識していますか。

大坪 一般的に、生産要素は土地と労働と資本ですが、これをいかに活用するかに尽きると思います。生産性の向上や効率の追求を目指す場合、資本の増強、労働力の増強、土地の拡大とやっていっても簡単には成功しません。すべての要素を複合的に変えていかないとうまくいかないのです。例えば、段ボールの生産で15%の廃棄があるとして、これを10%にできれば大きなインパクトがあります。しかし、実現するには、全要素生産性、トータルファクタープロダクティビティで考えていかないと実現できません。そうしていくと、生産性が上がる、ロスも減る、結果として労働時間も減っていくということが起きる。今話題の働き方改革も、全要素生産性で考えないとうまくいかないでしょうね。

神田 大坪社長は工場にもよく足を運ばれるそうですが、実際に工場ではどんなところに気を配っているのでしょうか。

大坪 実は工場の外を見ています。社長、会長が工場に来ると言えば、みんな工場内は奇麗にしますが、いくら工場内を奇麗にしても、外にある段ボールの断裁くずを処理する機械に不備があれば、工場は止まってしまいます。受電設備がちゃんと整備されていないと工場が動かなくなるし、排水だってきちんとしていないといけない。こういったところに工場の価値があります。

レンゴー大坪社長が考える、人と紙が密接に関わっている理由

201708KANDA_P01神田 私自身、何冊も本を出してきただけに、紙にはある種の思い入れがあります。なぜ、人間はこれほど紙と密接にかかわっていると思われますか。

大坪 紙の原材料は木です。その木は、光と水、二酸化炭素からエネルギーを生み出す光合成で育ちます。この地球上にある資源のなかで、光合成で産まれている資源は木材だけです。だから、木材から生まれる紙は、ある意味、地球上で最大の資源とも思っているんです。デジタル化が進んで紙が要らなくなると言う人もいますが、例えば、紙に字を書くということは1つの文化であって、簡単にはなくならないと思います。

神田 最後に、この対談でみなさんにお聞きしているのですが、子ども時代の自分に、あるいは今の子どもたちにプレゼントするなら、どんな本を選ばれますか?

大坪 内田百閒の『阿房列車』です。これは内田百閒が鉄道で旅行した際のエピソードを書き綴った紀行ですが、さまざまな示唆に富んでいます。

例えば、内田たちは3人で旅していて、ある旅館に泊まったとき、女中に宿の支払いを頼んだ。3人はそれぞれ、女中に1千円ずつ渡した。旅館が500円おまけしてくれたのですが、女中はそのうち200円を懐に入れて、内田たちに100円ずつお釣りを返しました。900円が3人分で2700円、そこに女中がごまかした200円を足しても2900円にしかならず、最初に女中に渡した3千円にならない。おかしいじゃないかという話がある。実は、これは経営と同じで、財務諸表と貸借対照表に関係してくる話なんですね。

神田 よく聞くパラドックスの問題ですが、財務諸表と貸借対照表の話に解釈できるのですね。

大坪 これを会計の話として語ると面白くもなんともないのですが、エピソードとして頭に入ると血が通った知恵になるということですね。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩)草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール 測量とアートが結び付く「測量美術」とは何…

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る