マネジメント

 リーダーは、フォロワーの支持を得て初めてリーダーになる。つまり実力も必要だが、それ以上に優しさや気配りも求められる。では、そのバランスを兼ね備え、参考にすべき存在はないか。そのひとつの答えがゴリラだ。圧倒的な力を持つゴリラだが、その力を行使することはほとんどない。その上、群れには序列がなく、オスのリーダーは子育ても担う。ゴリラ研究の第一人者で、京都大学総長を務める山極壽一先生に、理想のリーダーともいえるゴリラと、京大での自らのリーダーシップについて聞いた。文=古賀寛明 Photo=北田正明

リーダー型のゴリラの社会から学ぶ人間社会の実態

201710KYOTO_P02

やまぎわ・じゅいち 1952年東京都生まれ。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。カリソケ研究センター客員研究員。(財)日本モンキーセンターリサーチフェロー。京都大学霊長類研究所助手、同大学大学院理学研究科教授を経て、2014年同大学総長に就任。78年よりアフリカ各地でゴリラの野外研究に従事。類人猿の行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。

 私はゴリラ研究をする前に、ニホンザルの研究をしていたのですが、ニホンザルの世界はパワーシステムで順位の高いオスが力を示していないと、自分の地位は保てない序列型の世界なのです。だから自分の権威をおかしそうなサルが現れれば罰を与えます。

 一方、ゴリラの群れには序列がありません。体の大きさに応じた優劣が生じず、子どもやメスでも、オスが自分の期待に応えてくれなければ敢然と抗議します。だから、パワーだけではなく優しさ、つまり群れのメンバーへの期待に応えるように振る舞わなければならない。

 これは、リーダーとボスの違いで、リーダーというのは、自分で力を示すのではなくて、下から支えられた存在なんですね。ゴリラはまさにリーダー型で、ボス型のニホンザルとは全く違うのです。

 さて、力で群れを押さえつけないゴリラですが、力があることは一目瞭然ですね。でも、力を行使することはほとんどありません。それが素晴らしい。能あるタカは爪を隠すと言う言葉そのままに、力はあるけれども行使しないのが優しさです。それが分かるからこそ、群れのみんなが慕ってついて来るのです。

 私は人間を知るために、ゴリラやサルの研究を始めたのですが、今危惧しているのは、人間社会がサル化していることです。

 人間だけが持つ能力ですが、人間はいろんな動物に学ぶことができます。例えば、あの人はオオカミのように残忍だ、キツネのように狡い、なんて言葉があるでしょう。言葉がそうした能力を助長したのです。

 言葉は違うものを一緒に、比喩することを可能にしました。ゴリラはゴリラにしかなれませんが、人間はサルにでもゴリラにもなれちゃう。でも、人間はサルのように生まれてきたわけではありません。ゴリラのように対等や平等を愛するように生まれたはずなのに、今の社会は、共感能力や同情する能力を失いかけているのです。

 人間は一人では生きていけません。社会的な動物なのですから、ほかの人の期待に応えながら、人に喜ばれながら、自分というものをつくっていくことが本当は幸せなはずです。だから、サルの社会よりもゴリラの社会が豊かに見えるのです。

ゴリラは態度で語るリーダー ~松下幸之助の考えるリーダーの素質との一致~

 私は、リーダーの素質というのは、「えこひいきをしない」ことだと考えています。松下幸之助さんが、若い社員を面接する時に、将来的にリーダーに育つなと思える人間には、3つの条件があると言っていたそうです。   一つは、「愛嬌がある」こと。次に、「運が良さそうに見える」こと。それは、運が良かったという過去ではありません、運が良さそうに見える雰囲気です。そして、最後に、「後ろ姿で語れる」こと。これは、全部ゴリラに当てはまります。特に、ゴリラのオスのリーダーに当てはまる。

 ゴリラのオスは力があります。だけど、小さな子どもに優しく接することができる、愛嬌があるんですね。優しさを兼ね備えていないと、子どもたちはついてきてくれません。

 それから、運が良さそうに見えるというのも、おいしい食べ物を知っている、安全な場所を知っている、危険がせまっても自分たちを助けてくれる。そんなことは、オスと出会ったばかりのメスには分かりません、過去は確かめようがないですからね。だから運が良さそうな雰囲気が大事になる。

 後は、後ろ姿で語れる。それは、ゴリラの場合、振り向いてしまうのは、自信のなさの現れだからです。だから後ろを振り向かない。オレは後ろを振り向かなくてもお前たちがついて来ることは分かっている、というのがリーダーの態度なのです。もちろん、障害がある子どものゴリラがいた場合は、後ろを振り向いて来るのを待ってあげます。でも、普通は後ろを振り向かず、じっと背中を見せて佇んでいる。そして、ついてきている気配がしたら、また歩き出す。背中で語るんですよ。それがゴリラのリーダーなのです。

 だから、われわれ人間が見ても疑いなくリーダーに見えるわけです。言葉で語るリーダーでなくて、態度で語るリーダーなんですね。

 それを人間に当てはめると、誰に対しても同じ態度でいないといけない。誰かを特別かわいがることは他の人の嫉妬をかうからです。だから、リーダーは他の人と距離を置かねばならないのです。そういう修業をしなくちゃいけません。人間というのは、何にでもなれるのですから、そういうリーダーを見て、学ばなくちゃいけませんね。

 私もフィールドワークでそれを学びました。私の研究室では「捨て子教育」というのですが20代前半の学生や若い研究者をフィールドに連れて行って1年間現地に放り出すのです。はじめは言葉も通じません。でも、一人じゃ研究はできませんから、周囲の人に自分のやりたいことを伝え、便宜を図ってもらい調査をやり遂げなきゃならない。そのために、村の行事に参加し、村の人たちの悩みを聞き、村の様子を把握しなくちゃいけない。その際に、「敵をつくらず、味方をつくるな」ということを伝えています。味方をつくると味方の敵は自分の敵になってしまうからです。要は、えこひいきをするな、そのためには、みんなと距離を置きなさい、ということです。

 距離を置くというのは、孤独になることを意味します。その孤独に耐えないと、いろんな事情が分からないわけです。いろんな人たちが、いろんな目的で自分に近づいてくる。だから、距離が必要になるわけです。ある人たちを味方にして、親密な関係を結んでしまうと、かえってそれが仇となる場合もありますからね。

「おもろい」と支持されることはリーダーになりうる一歩

201710KYOTO_P01 大学経営も同じです。以前は、総長室という特別な部署があったのですが、私はそれを廃止しました。そして、執行部の7人の理事や部局長と対等に付き合い、割と距離を置いた体制をつくっています。

 大学のリーダーというのは、自分の理念を持ちながら、6千人以上の教職員の実力を発揮させなければなりません。私は、自分のことを「猛獣使い」と言っているのですが、猛獣である教職員に実力を発揮してもらうために、手綱をつくるのでもなく、餌を与えるのでもなく、みんながやりたいようにやれる環境をつくらねばならないのです。

 その時に、ある特定の部局なり、人を支援していたら、あいつはえこひいきすると思われてしまう。だから、そういう意味では、私は孤独なんです。でも、それをゴリラから学んだのです。背中で語らなきゃならないのです。

 私は、よく大学はジャングルだ、というんですけど、ジャングルというのは象もいればオカピもいる、いろんな動物がいます。普段は会わないから、互いに何をしているか知りません。でも、共存しているのです。

 その生態系は大学も一緒です。文学者もいれば、科学者もいるし、医者もいる。多様な人たちが自分のやりたいことを互いに出会わずに暮らしている。そして、たまにゴリラとチンパンジーが接触して新しいものが生まれるように、ジャングルというのは植物も動物もどんどん新たな種が生まれてくる場所なのです。それだけの包容力があるし、違った者同士が出会える場所だからです。

 言い換えれば、もっともイノベーションが起きやすい場所なんですね。大学も、自分の学問だけではなく、違った分野の世界に出合うことができる。これこそが大学の意義なのです。

 総合大学というのは多様性と先端性が重要で、京都大学は、どの先生も自分は世界最先端とつながっている自負がある。ちょっと教室を変えれば、違う世界がある。大学は「窓」ですから、窓を常に開けましょう、と先生方には言っているんですよ。

 私も提言だけではなく、自ら「京大おもろトーク」というイベントや捨て子教育に似た海外渡航支援制度「おもろチャレンジ」といったものを始めています。「おもろい」とは、自分が言う言葉ではなく、他人が言う言葉です。「おもろいやんけ」と、言ってもらえることは、相手から認められ支持されることです。

 だから、これらの取り組みに参加した学生が将来リーダーになるかは分かりませんが、その資質は学んでくれると思います。自分とは違う社会と接し、自分をプレゼンし、人との付き合い方を学ぶ。みな一皮むけて帰ってきます。

 リーダーというのは、画一的なステータスでも、画一的なパーソナリティでもありません。いろんな場所に、いろんなリーダーがいる。ある時先頭に立っても、次はしんがりという場合もある。そういうことを肌で学ばなければ真のリーダーシップは取れないと思いますね。(談)

 

【リーダー】関連記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩) 草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール   測量とアートが結び付…

草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る