文化・ライフ

スーツにはシングルとダブルがあることぐらいは知っていても、その成り立ちやどんなシーンに合うのかまでは知らない人も多いのではないだろうか。スーツの種類と選ぶ際のポイントを、プロスタイリストの吉川浩太郎氏が解説する。

 

吉川浩太郎氏プロフィール

(よしかわ・こうたろう)1981年5月19日生まれ。東京都日野市出身。紳士服専門上場企業で人事採用や接客業務を経た後、イメージコンサルタントとしてのキャリアを基に依頼者独自の良さを引き出すコーディネート事業を展開。プライベートカジュアルからスーツスタイルまで幅広い知識・提案に定評がある。化粧品会社、大手建機会社、生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会(公益社団法人JAIFA)等で30~100名規模のファッション研修に携わっている。

 

シングルスーツとダブルスーツの違い

 

フォーマル度が高いのはシングルかダブルか

 皆さんはシングルとダブルのスーツ、どちらがお好みですか?

 一般的には、シングルのほうがダブルよりフォーマル度が高いとされています。ダブルのスーツの起源は諸説ありますが、とある英国人が雨の日に結婚式に出席した際、泥はねでズボンが汚れるのを避けるためにパンツの裾をめくり、それを見た人たちが真似をして広まったという話がもっとも有名です。

 裾をめくるという行為は屋外で着ることを前提としているので、それもシングルのほうがフォーマル度が高いとされる理由の1つでしょう。そのため、礼服などにはダブルは向かないとも言われています。

 ダブルの場合、裾を二重三重に折り返すので、パンツの下側に少し重みが出ます。裾がひらひらせずに生地がピンと伸びるというのが良い点です。ピンとさせるために、折り返しの部分に重しを入れるといったこだわりの強い人もいるようです。

バブル期のイメージが根強いダブルスーツ

 ダブルのスーツやタック入りのパンツなどは、バブル期のファッションを想起させるため、世代によってはどうしてもオジサンっぽいイメージを抱く方もいらっしゃいます。

 ただ、最近は雑誌などを見ても、ダブルのスーツが増えてきている印象です。座り仕事をされていたり、脚が太くてパンツがきついといった方には、楽に履けるタック入りが好まれるケースもあります。

 ダブルスーツに対する抵抗感は、むしろバブルを知らない若者のほうがないかもしれません。

 ダブルスーツが流行って廃れていったのを間近で見た40代以上の人のほうが、昔のファッションというイメージを刷り込まれているように思えます。ただ、40代以上でもファッション雑誌などをよく見て関心の高い人は、カッコよく着こなす術を身に着けているようです。

 着る人や着方によって印象は変わりますので、シングルとダブルのどちらが良い悪いというわけではありません。私の場合、2パンツスーツをつくるお客様には、それぞれ1本ずつ作って使い分けることをお勧めしています。

ダブルスーツは4つボタンより6つボタンを勧める理由

 ダブルスーツの場合、4つボタンと6つボタンを比較すると、6つボタンの方がスタイリッシュに見せやすくなります。4つボタンだと相手の目線が下がるので、腰のあたりがどうしてもズドンとした印象になりがちで、お腹当たりが目立ちやすくなるのです。

 6つボタンのほうは胸元にボタンがあるため、目線を上に持ってくることができます。40代以上でお腹周りが気になる方の場合、特に6つボタンがおすすめです。デザイナーによっては、8つボタンのダブルスーツもあります。

 昔はボックスシルエットと言って、ジャケットのシルエットが箱形で包み込むようものが多かったのですが、今はウエストが絞られたデザインが多くなっています。ジャケパンスタイルにしても大丈夫です。4つボタンもうまく着こなせれば問題ないのですが、お洒落の上級者でないと難しいかもしれません。

ダブルスーツではシングルスーツ以上にサイズ感が重要

 ダブルスーツはシングルスーツと同等かそれ以上にサイズ感が重要になります。特に身長が低い方は、丈が長すぎるとシングル以上に目立ちますし、幅とのバランスも意識したほうがよいでしょう。

 また、柄が強すぎるといかつい感じになってしまったりするのでその点も注意が必要です。たとえば極端に太いストライプの柄などを着ると、威厳が出すぎてしまって「社長か!」と思わずツッコミたくなるような雰囲気を醸し出してしまうこともあるので気を付けてください(笑)。

 ダブルスーツの前ボタンを外す着こなしも雑誌などでは紹介されています。ただ、どうしても前がヒラヒラとだらしない感じが強調されることがあるので、これも上級者向けの着方と言えるでしょう。

 

スーツジャケットの切れ目でもフォーマル度が変わる

 

 フォーマル度の話で言うと、ジャケットの背中や両サイドに入っている切れ目(ベント)も関係があります。

 昔、パーティ会場などのラウンジ(休憩室)には、くつろぐ際に椅子に座っても邪魔にならないよう、丈を短くしたラウンジスーツという服が用意されていました。それが、今われわれが来ているスーツの原型だと言われています。

 やがて馬に乗る人が増えると、またがった時に邪魔にならないよう、背中に切れ目を入れるようになりました。さらに軍人が腰にサーベルを差しやすいように、両サイドに切れ目が入るようになったということです。

 こうした変化を経てきたため、今でも切れ目なしのほうがフォーマル度が高いとされているのです。ただし、あまりそこを気に留める人もいませんから、ビジネススーツに関しては完全にお好みで選んで問題ないでしょう。

 ジャケットの切れ目がどこに入っていても、外から見える印象にも大きな違いはありません。横や後ろから見た時の形や、実際に着てみてどれが一番しっくりくるかといった感覚で決めれば良いと思います。

 

スーツの生地素材の種類と選び方のポイント

 

秋冬に着たい紡毛素材

 スーツの素材には細くて毛羽の少ない梳毛と、表面がフワフワして毛羽だっている紡毛というものがあります。オーダーメードでスーツを作る際、梳毛を選ぶとあまり季節感を問わないスーツに仕上がり易くなりますが、秋冬にはあえて紡毛を選ぶと、実際の機能的に暖かくなるだけでなく、見た目にも暖かそうな印象を与えることができます。

 仮に、明るいグレーや青っぽい紺など寒そうな色を選んだとしても、紡毛だと冷たさを感じさせないという特徴があります。梳毛と紡毛の違いは、誰にでも分かり易いものなので、実際に触って比べてみると良いでしょう。

 ただ、紡毛のスーツを持っている方は意外と少ないのが実情です。経済的な理由などから「1着のスーツを1年中着たい」という方が多いからではないかと思いますが、基本的にスーツは「春夏」「秋冬」に分かれています。ですから、絶対にダメというわけではないのですが、個人的には1着のスーツを1年中着るというのはあり得ないと考えています。

 特に「紺の無地スーツしか着ない」という人でも、素材に変化を加えるだけで随分と雰囲気が変わってくるものです。

季節感の出る素材はなぜ良いのか

 紡毛のスーツは着ている人が少ないからこそ、周囲と差をつけやすくなる、ということも言えます。

 夏場のクールビズの季節が終われば、少なくとも翌年の3月くらいまでは寒い季節が続くので、半年近くもの間、同じようなスーツを着るのはもったいないとも言えます。素材を変えることによって「あの人はいつも同じスーツを着ている」と思われなくて済むようにもなります。

 また、季節感を意識して服を選ぶと、ご自身のマインド面でも「季節が変わったな」というスイッチが入るので、変化を楽しめるようになります。そこから、ファッションに対する意識に広がりが出るということもあるでしょう。

 たとえ、1年中着られるスーツを持っていたとしても、そのほかに秋冬メインで着るスーツを1着持つだけで、周囲の人たちの印象も変わってきます。価格的には梳毛でも紡毛でも大きく変わらないので、ぜひトライしてみてください。

 紡毛のスーツに合わせて、ウール素材の入ったネクタイなどを合わせることで、さらに季節感を出す効果が大きくなるでしょう。まずはネクタイだけでも印象が変わってくるので、ぜひ試してみてください。

 

既製品のスーツを選ぶ際のポイント

 

サイズのフィット感には限界がある

 次に、既製品を購入する際に気を付けていただきたいポイントをいくつか紹介します。

 まず、サイズ感が重要であることは当然ですが、最も基本となるのは着丈と袖の長さです。特に着るスーツの丈はサイズを詰めすぎると、腰ポケットの位置に掛かってしまうので調整には限界があります。ですから、できるだけ丈がフィットしたものを選び、必要であれば袖の直しを行いましょう。

 肩幅や胴回りなど、スーツ全体の形に影響する部分の直しに関しては、量販店では対応できないことも多々あります。そんな場合はお直し屋さんなどを活用すると良いでしょう。いずれにせよ、サイズを変えられない部分がしっかりフィットしているかどうか、最初にチェックしておくことが大事です。

 既製服は基本的に標準体型の方を基準につくられているため、極端に肩幅が狭かったりお腹が出たりしていない場合でも、たとえば逆三角形の体型の方などにはフィットしにくい傾向があります。

 体を鍛えていて胸板が厚い方などは、胸や肩回りにサイズを合わせると、どうしても他の部分がブカブカになってしまいがちです。このあたりはやはり既製服の限界があることも知っておいてください。

サイズ感のチェックは横からも行う

 そして、サイズと見た目を鏡で確認する際、1つ気を付けていただきたいのは、正面だけではなく横からもチェックするということです。

 意外と多いのが、正面からはぴったりフィットしているように見えても、横から見ると背中でシャツが余って浮いていたり、パンツが太かったり、お尻がきつく見えたりするといったケースです。

 既製品のワイシャツなどは試着できないお店もありますが、できれば試着できるか店員さんに尋ねてから選ぶと良いでしょう。自分にフィットするシャツが見つかったら、袋をすぐに捨てずにそこに掛かれている丈、袖などのサイズをメモしておきましょう。こうすれば、仮に試着できない場合でも困ることがありません。

 

オーダーメイドスーツの種類と作る際の注意点

 

オーダーメイドスーツの種類

 オーダーメイドスーツと一言で言っても幅が広く、1人の職人が最初から最後まで手縫いで仕上げるフルオーダー、分業によって縫い上げていくイージーオーダー、いくつかのパターンに当てはめるパターンオーダーがあります。これらを全部ひっくるめて「オーダーメイド」と呼ばれることが多いので、その違いはよく知られていません。

 オーダーメイドのスーツを着ているという人を見て、既製品でももう少し良いものがあるのではないかと思わせるようなケースも時々あります。

 フルオーダーの場合、人気のある職人に頼むと何カ月も待たされることがあり、価格的にも高くなります。着る人に合わせてパーツごとの図面を引き、型紙を作成するところから職人が手掛けていくやり方です。

 イージーオーダーの場合は、何種類かある型紙のパターンから調整していきますが、かなり融通が利き、分業体制なのでフルオーダーよりコストが抑えられて納期も短くできます。

 パターンオーダーはコストも納期も最も手軽なのですが、サイズ調整などでかなり制約が多くなります。

 オーダースーツも価格破壊によってかなり手軽に買えるようにはなりましたが、品質や作り手側の負担を考えると、必ずしも良いことばかりとは限りません。ただし、たとえパターンオーダーでも、それまで既製服ばかり着ていた人が着ると、かなり良い物に感じられることもあるようです。

オーダーメイドスーツは「誰に作ってもらうか」が重要

 フルオーダーはもちろんですが、イージーオーダーの場合でも、「誰に作ってもらうか」に大きく左右されます。採寸する人によって感覚が微妙に違ってきますし、買い手としては運任せになってしまう部分は否めません。

 とはいえ、まずは「オーダーだから良い」という感覚を捨てて、作り手を選ぶことを可能な限り心がけてください。最初は作り手に全て委ねるのも良いですが、コミュニケーションを取りながら、「この人に頼んでも大丈夫か」と考えることも大事です。

 あまりにも自分の意見を押し付けてきたり、逆に顧客任せにしたりする作り手だと、仮に失敗した時の後悔が大きくなるでしょう。雰囲気や会話の波長が合うかどうかといった感覚で構わないので、作り手として納得できる相手を選んでください。

 顧客サイドとしては、「オーダーだから絶対にピッタリのものが仕上がってくる」と考えがちですが、「作り手と一緒に育てていく」という意識を持ってほしいと思います。たとえ完ぺきに近い仕上がりでも、着ているうちに「ここを調整したい」という部分が出てくれば、次回はさらに良いものができる可能性が出てきます。

 不思議なもので、コミュニケーションで違和感のある相手にスーツをつくってもらうと、失敗する可能性が高くなります。「この人に作ってもらう」と納得して、失敗しても責任の半分は自分という意識を持っていたほうが、上手くいくことが多いのです。

 

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