政治・経済

間もなく平成も幕を閉じるが、平成の経済史を語る上で欠かせないのが日産自動車の完全復活だ。日産、仏ルノー、そして三菱自動車の3社連合は、今や世界第2の自動車メーカーとなった。しかしこのアライアンスの前途が危うくなり始めた。カルロス・ゴーン会長の舵取りやいかに。文=ジャーナリスト/立町次男

 

カルロス・ゴーンは日産、ルノー、三菱自を束ねる扇の要

 大手自動車による企業連合(アライアンス)の成功例に挙げられる日産自動車とフランスのルノーとの間に、“難題”が浮上している。

 アライアンスの持続が、両社の会長を兼務するカルロス・ゴーン氏個人に依存しているという問題点があり、これを解消するために「資本関係の見直し」を検討する中で、経営統合に踏み切る可能性が否定できないのだ。ルノーに15%を出資する筆頭株主のフランス政府が統合を求めているとされ、独立性を維持したい日産側には警戒感が漂っている。決着は予断を許さない状況だ。

 今回、問題が表面化したきっかけは今年1月、パリでフランスの国民議会(下院)が開いた公聴会に招致されたゴーン氏の言葉だった。

 「(アライアンスが)持続できるとは思えない。この体制にしているのは、それがやむを得ないからだ」

 三菱自動車を含め、3社の会長を兼務するゴーン氏。“扇の要”のように権限が集中する体制を見直さなければ将来、ゴーン氏が退任した後、アライアンスが瓦解してしまうという危機感の表れだったとみられる。ゴーン氏は、既に日産自動車のCEO(最高経営責任者)を現社長の西川廣人氏に譲っており、メディアは、ルノーについてもCEOを退任し、アライアンスの運営に専念する可能性を報じた。

 しかし翌2月、ゴーン氏はルノーCEOに再任された。生産分野の責任者を務めるティエリー・ボロレ氏をCOO(最高執行責任者)にあてたが、やはりトップについては、まだ任せられる人材がいないと判断したとみられる。

 この過程でフランス政府は、ゴーン氏にアライアンスを持続可能にすることを求めたとされ、両社の経営統合も選択肢の一つとみられる。規模が上回る日産自動車と統合し、主導権を握ればルノーの企業価値も押し上げられ、“国益”にかなうからだ。

 3月下旬には、海外で「日産、ルノー合併交渉」という報道が流れる。統合後の新会社を上場させる可能性を検討しているという内容だった。これを受けてルノーの株価は急騰したが、両社の広報担当者は報道を否定した。

 その後、ゴーン氏が国内外のメディアのインタビューに応じる。日産・ルノーの資本関係の見直しを検討していることを認め、自身のルノー取締役の任期である2022年までに結論を出したい考えを示した。

 しかし、これは難題だ。現在はルノーが日産株の43%を、日産がルノー株の15%を保有している。アライアンスが確実に永続するためにはルノーが日産への出資比率を50%以上に引き上げることが考えられるが、これでは独立性が失われるとして日産側の反発は必至だからだ。

 資本関係上、ルノーが優位にあるだけでなく、アライアンスの主要拠点が欧州(オランダ)に置かれていることも、日産側の疑念を増幅させている。

 

ルノーに救われた日産の負い目とゴーンの存在感

 

 3~4年前にも同様の問題が起きていた。フランス政府は、株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与える「フロランジュ法」を制定。ルノーを通して日産の経営に関与しようとした。しかし、これに対し、日産側が強く抵抗したため、交渉の末、フランス政府は経営に関与しないことで合意せざるを得なかった。当時、この問題を担当していた経済産業デジタル大臣こそが、現在のマクロン大統領。マクロン氏が当時の失地を回復しようとしているとすれば、強硬策に訴えてくる可能性もある。

 日産の西川社長は5月の18年3月期決算発表の会見で「各社が自立性を持ったまま効率化のシナジーを追求することが成長の源泉だ」と強調。「自立性などを犠牲に、次の形にすることは考えられない」と経営統合に否定的な見解を示した。合併交渉に関しても「その事実はない」と完全に否定した。

 “世紀の合併”と言われたドイツのダイムラーと米国のクライスラーの経営統合失敗を引き合いに出すまでもなく、国境を超えた自動車大手同士の連携は難しい。

 しかし、資本提携している日産自動車とルノーのアライアンスは、ゴーン氏のリーダーシップにより、成功を収めてきた。14年に「研究開発」「生産技術・物流」「購買」「人事」の4部門を統合するなど、関係を深めてきた。今年には統合分野をさらに拡大。品質管理やアフターサービスのほか、次世代技術の研究開発まで一体化するという。

 16年には、燃費不正を契機に三菱自動車が日産自動車の傘下に入る。東南アジアに強く、プラグインハイブリッド車などの技術がある三菱自は日産・ルノーと補完関係にあり、3社になった企業連合はさらに勢いを増す。 

 売り上げ増やコスト削減によるシナジー(相乗効果)の額も徐々に拡大し、17年度の3社のシナジーは57億ユーロ(約7300億円)と過去最大となった。また、3社の17年の世界販売台数を合算すると約1060万台とトヨタ自動車を抜き、ドイツのフォルクスワーゲンに次ぐ2位に浮上。乗用車や小型商用車に限れば世界首位だ。

 世界販売台数は日産が581万台、ルノーが376万台。売上高や利益も日産がルノーを上回る。日産株から得られる持ち分法投資利益が、ルノーの業績を押し上げており、ここ数年は連結純利益の5割超が日産自動車の貢献によるものだ。それでも資本関係ではルノーのほうが優位に立っているのは、日産が最も苦しい時期にルノーにより窮地から救われた経緯があるからだ。

 バブル経済の崩壊後も利益軽視の拡大路線を続けた日産自動車は経営が行き詰まり、1999年にルノーの出資を仰いだ。ルノーからCOOとして送り込まれたのがゴーン氏だ。

 10月には「日産リバイバルプラン」を発表し、02年度までの1兆円のコスト削減や売上高営業利益率4.5%の達成などをコミットメント(必達目標)として掲げた。その実現のためにゴーン氏は、2万人超の人員削減や村山工場など5工場の閉鎖、取引先の半減など大ナタを振るった。人間関係などでリストラに踏み切れない日本人経営者と異なり、しがらみのないゴーン氏は豪腕を発揮し、日産の業績をV字回復に導いたのだ。

 ルノーに助けられた日産自動車だが、具体的な救世主はほかならぬゴーン氏であり、退任すれば日産が実績の大きさを背景に主導権を握ろうとするだろうという懸念が、ルノー側にあるとみられる。

 

ゴーンが変心したら、経営統合を日産は阻止できるか?

 

 ゴーン氏にとっても、今回の難題は、簡単に対処できる問題ではないだろう。フランス政府が求めているとされるルノー優位の経営統合には、日産自動車だけでなく、日本政府も認めないはずだ。すべての利害関係者が納得する“解”を探すのは至難の業と言える。6月にゴーン氏は、3社それぞれの株主総会の壇上に議長として立ったが、その言葉からも、対応に苦慮している様子がうかがわれた。

 最初に開かれたルノーの株主総会では、「3社のアライアンスのポジションを一体化されたグループとして統合する」と強調。連携強化への意思をにじませたため、統合に前向きともとらえかねない発言だった。

 次に開かれた三菱自動車の株主総会では、株主からアライアンスに関する質問が出た。世界的に評価されている経営者だけあって、株主の質問に対しては基本的に丁寧に答えるゴーン氏。「(日産自動車を含めた)3社の対等なパートナーシップが競争力につながる。日産、三菱がルノーの完全子会社になる可能性はゼロだ」と断言した。

 そして6月26日、横浜市。日産自動車の株主総会には、過去最多の4千人超が詰め掛けた。議長を務めたゴーン氏は、アライアンスの成果について自賛し、中期経営計画の最終年に当たる22年のシナジーを、16年の2倍に相当する年100億ユーロ(1兆3千億円)以上に引き上げる方針をあらためて説明した。

 ルノーとの関係に関しては、西川社長があらためて「3社の独立性を堅持、尊重する」と述べた一方、ゴーン氏は、「アライアンスの持続可能性を担保することが課題だ。手段は複数考えられるが、日産自動車の会長として今後も必ず業績向上と株主利益を守っていくことを約束する」と強調した。日産側に立ち、ルノーによる経営統合を否定する発言にもみえるが、ここでいう「株主利益」が何を意味するかは判然としない。結論を出す期限が、ゴーン氏の言うとおり22年までとなるなら、検討する時間は十分にある。

 好調が続いていた日産自動車の業績についても、陰りが見えている。18年3月期は、日本での検査不正問題や米国事業の不振などで営業利益が減益となった。トランプ政権が検討している輸入車に対する関税引き上げが実現すれば、さらに業績が悪化し、ルノーやフランス政府に対する発言力も小さくなる懸念がある。株価も低水準で推移しており、「解散価値」と言われる株価純資産倍率(PBR)は1倍割れが続く。株式市場の成長期待が小さい証左だ。

 フランス政府が15年に日産自動車への経営関与をいったん諦めた際、「日産が経営に不当な干渉を受けた場合、ルノーへの出資比率を引き上げる権利を持つ」という確認書を交わした。日本の会社法の規定では、日産がルノーへの出資を25%以上に引き上げれば、ルノー側の議決権を停止できるため有効な“防衛手段”となり得る。

 しかし、CEOではないとは言え、日産の最高の意思決定を行うのは今もゴーン氏だとの見方が強い。仮にゴーン氏が“変心”し、フランス政府と共にルノー・日産の経営統合を進めた場合、日産がそれを阻止することができるかは不透明だ。

 当面は世界の自動車業界で成功例とされるアライアンスは、“時限爆弾”を抱えたまま、続いていくことになりそうだ。

 

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