政治・経済

人手不足が深刻化し、企業業績にも影響を及ぼしつつある。人口減少が加速しているため、女性や高齢者の活用だけでは限界がある。そこで浮上してきたのが、これまで慎重だった外国人労働者の受け入れだ。これによって日本社会はどう変わるのか。文=ジャーナリスト/松崎隆司

 

外国人労働者受け入れに舵を切った日本の事情

 

 人口減少の中で働き手が不足する日本。そうした中で今注目されているのが外国人労働者の雇用の拡大だ。

 今年6月に発表された「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の中でも外国人労働者の受け入れ拡大が明記され、今後は本格的に雇用されることが確認されている。

 日本はこれまで外国人労働者の受け入れに対しては非常に慎重な姿勢を示してきた。それがなぜ、受け入れ拡大に大きく舵をきったのか。

 2012年、デフレ脱却を掲げ誕生した第二次安倍内閣は、金融政策、財政政策、成長戦略の3本の矢で2%のインフレ目標を立てたがいまだ達成されていない。その大きな要因が人口減少、中でも労働力人口の減少だ。日本の労働力人口はピーク時の1998年には6793万人いたが、2017年には6720万人と73万人減少している。

 今後はさらに労働力人口が減少する中でどうすれば生産性を延ばしていくことができるのか。そこで注目したのが非労働力人口とされる高齢者や家庭の主婦、さらにはバブル崩壊で企業のコスト削減の犠牲者となった非正規雇用者の積極活用だった。

 

「働き方改革実現会議で」議論された外国人労働者受け入れ

 

 15年10月29日、安倍首相を議長とする「一億総活躍国民会議」が開催され、8回にわたる議論を重ね、16年6月2日に「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定した。

 「このプランでは『戦後最大の名目GDP600兆円』『希望出生率1.8』『介護離職ゼロ』という新3本の矢が掲げられました」(厚生労働省労働政策担当参事官室)

 そして17年3月28日の「働き方改革実現会議」では長時間労働の解消や非正規、正規労働者の雇用是正、高度プロフェッショナル制度、裁量労働制などの改革案が提示されたが、その後裁量労働制は連合などの猛烈な反対で法案から削除された。

 そしてこの「働き方改革実現会議」で、外国人労働者の受け入れについても議論された。

 「働き方改革実行計画」の概要では次のように記されている。

①グローバル競争においては、高度IT人材のように、高度な技術、知識等を持った外国人材のより積極的な受け入れを図り、イノベーションの創出等を通じてわが国経済全体の生産性を向上させることが重要である。

②他方、専門的・技術的分野とは評価されない分野の外国人材の受け入れについては、ニーズの把握や経済効果の検証だけでなく、日本人の雇用への影響、産業構造への影響、教育、社会保障等の社会的コスト、治安などの幅広い観点から、国民的コンセンサスを踏まえつつ検討すべき問題である。

③経済・社会基盤の持続可能性を確保していくため、真に必要な分野に着目しつつ、外国人材受け入れの在り方について、総合的かつ具体的な検討を進める。このため、移民政策と誤解されないような仕組みや国民のコンセンサス形成の在り方などを含めた必要な事項の調査・検討を政府横断的に進めていく。

 簡単に言えば、高度な技能を持っている外国人は積極的に受け入れるが、そうでない外国人の受け入れには慎重に対応する、つまり基本的にはそうした外国人は受け入れないということを示していると考えられる。

 高度技能者の受け入れは大手企業による外国人労働者へのニーズの高まりがある。楽天や、ユニクロを運営するファーストリテイリングは12年ごろから社内の英語公用化に向けて動き出し、ローソンは留学生の採用に力を入れてきた。大手商社も海外に行くことに抵抗を感じる日本人の新卒学生をしり目に、こぞって大卒外国人の採用に奔走している。

 「グローバルに事業展開する企業にとって能力のある社員を採るためには国籍にこだわってはいられない。英語をはじめ多くの外国語を話せる人材を確保するのは急務。こうした取り組みが豊かさの中でたくましさを失った日本人の新入社員などの活性化につながっているという話もある。韓国では就職難で優秀な人材があふれているから、韓国にまで行ってリクルートする日本企業も増えている」(ウイリス・タワーズワトソンの髙岡明日香・アセスメント・アジアリーダー)

 

外国人労働者と移民の境目はどこか?

 

 しかし一方で、高度な技能を持った外国人以外の外国人の受け入れについては極めて消極的だ。

 「働き方改革実行計画」でも政府は「専門的・技術的分野とは評価されない分野の外国人材の受け入れ」を極力拒否したいという思いが見て取れる。③でも指摘しているとおり、移民政策と取られたくないからだ。 政府は単一民族の日本に異民族が入ることへの国民感情への配慮や欧米のように積極的に移民を受け入れることで国民の仕事を奪うことにもなりかねないという危機意識から移民受け入れには消極的だった。

 1980年代のバブルのころにも人手不足が発生して大量のイラン人が労働者として来日したが、バブルが崩壊すると、そのイラン人が職を失い、上野の山などに大量に集まり、偽造テレホンカード販売などの犯罪にも手を染めたことが大きな社会問題となった。そうした問題が再び起こることにも政府が危機感を持っていることは間違いない。

 しかし事態は政府の思惑をも大きく覆すほど切迫していた。働き方改革の議論がスタートした2015年の失業率は3.34%だったが、18年6月には2.4%まで減少。6月の完全失業者数は168万人で97カ月連続減少を続けている。

 失業者というのは、退職から転職までのタイムラグがあるからおおむね3%程度が完全雇用だといわれており、日本の働き手不足は明らかだ。

 この間、就業者(雇用者、個人事業、従業員など)は6687万人、雇用者数は5940万人で、いずれも66カ月の増加を続けているというが、いまだに人手不足は解消されていない。この中には政府が期待していた主婦、定年退職した高齢者なども相当数入っていたはずだ。

 「店員を確保するのに非常に苦労している。働き手を確保できなくて出店できないコンビニもあるようだ」(大手コンビニ幹部)

 「作業員が不足して工事が思うように進まない状況が続いている。人件費も暴騰している」(建設業界幹部)

 こうした人手不足は介護業界や製造業などにも広がり、日本全体の生産性にとり大きな問題となった。

 ここで産業界が頼ったのが外国人労働者だった。研修目的や留学生によるアルバイトという形で外国人労働者を雇用、人手不足の解消に努めた。外国人労働者の数は昨年末時点で128万人まで増加。ほとんどの業界では外国人労働者の力なしには仕事を続けていくことができないところまできている。

 

5業種限定で外国人労働者を受け入れ

 

 そこで政府も重い腰を上げ、6月の骨太の方針では、人手不足が深刻とされる介護・農業・建設・造船・宿泊の5業種を対象に19年4月から新たな在留資格を設けた。

 「5業種というのは新聞報道での話で、具体的にはまだ決まっていない。流通や物流業界なども対象になる可能性はある」(法務省入国管理局広報室)

 この改革案ではこれまで忌避されてきた外国人による「単純労働」を容認するものとして注目されている。 政府試算では、介護は毎年1万人程度、農業は13年までに最大10.3万人、建設は25年までに30万人以上、造船は25年までに2.1万人、宿泊は30年までに8.5万人の外国人労働者を受け入れると試算している。

 しかし問題は外国人労働者の雇用環境の問題だろう。日本人の手が回らない単純作業などを一時的に外国人に押し付けてしまおうという側面は否めない。そのため外国人労働者への十分な労働環境、生活環境、社会保障の整備などがなされていない。就労のための在留期間は最大5年が限度で家族の帯同も認められていない。

 「現在、在留資格を持つ者に一定の試験をして、これに合格すれば上限を付さずに家族の帯同を認める案なども検討されている」(同)というが、日本人の労働条件とはあまりにもかけ離れている。

 「AIやロボテックスの普及などで無人化が普及するまでのつなぎという側面も見え隠れする。もし外国人労働者の大量解雇ということになれば、1980年代以上に大きなリスクにつながりかねない可能性もある」(前出・髙岡氏)

 外国人労働者と日本人労働者との協業をいかにして進めていくのか、そのための仕組みづくりを早急に政府は進めていかなければ大きなつけが回ってくることになる。

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