経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「演奏者たちの信頼を得てこそ指揮者は責務を果たせる」―大友直人(指揮者)

大友直人氏イラスト

ゲストは、20代の頃から国内外のオーケストラやオペラの指揮者として、また音楽監督としても活躍する大友直人さん。今回はプロの音楽家の目線から、指揮者の仕事と責務、感性の磨き方など、奥深い音楽の世界に触れる楽しいお話を伺いました。

大友直人氏プロフィール

大友直人氏

(おおとも・なおと)1958年東京都生まれ。桐朋学園大学4年時にN響デビュー。小澤征爾氏をはじめ、著名な指揮者に師事。卒業後はN響副指揮者に就任。現在は群馬、東京、京都市、琉球交響楽団などで指揮者、音楽監督を務める。

年齢も性別もバラバラの演奏者をまとめるのが指揮者の責務

佐藤 本日はよろしくお願いします。早速ですが、世界で活躍される大友さんが指揮者になられた動機から伺えますか?

大友 こちらこそよろしくお願いします。私は小学生の頃ピアノを習っていて、当時からオーケストラのシンフォニーが好きでした。それでいつか自分で作曲したいなと夢見ていたんです。そこからオーケストラの指揮者への興味が湧きました。

佐藤 ピアノをされていたんですね。ご両親の影響でしょうか?

大友 私の両親は音楽家でもなく、音楽に造詣が深いわけでもありませんでした。でもピアノの先生を探してくれたりして、音楽に触れられる恵まれた環境はありましたね。

佐藤 オーケストラの場合、何十人、何百人もの演奏者がいて、1人でも演奏を失敗したら成り立ちませんよね。指揮者が大人数の演奏者をマネジメントするところは私たち経営者と似ているなと感じます。

大友 オーケストラはプロの音楽家の集団で、佐藤さんが仰るようにその特殊性は大勢の演奏者が集まって一つの演奏をするところにあります。

例えばバイオリンセクションに30人の演奏者がいれば、音楽学校を卒業したての若い人も、経験豊かな60代の人も同じ仕事をします。独奏も室内楽(少人数の演奏)もありますが、オーケストラのような大人数のリハーサルをどう進めるか、信頼を得てどうまとめるかは、指揮者の役割であり責務です。

たとえ20代の若い指揮者であっても、リーダーシップを発揮できなければ務まらない難しい仕事ですが、若くても誠実な人には演奏者も協力的ですよ。

佐藤 相互の信頼関係があって成り立つ場なんですね。リハーサルは長時間かけて行うのですか?

大友 ケースバイケースですが、一般的なオーケストラの場合、1~3日と短めです。本番の会場で練習できるケースはまれで、別の会場でのリハーサルも多いです。音楽は優劣や順位を付けることが難しいのですが、一方でごまかしは利きません。名前や肩書ではなく、実際の演奏のクオリティーが問われます。日々、切磋琢磨していないと生き残れない厳しい世界でもあります。

多くの音楽カテゴリーで活躍する大友直人氏

佐藤 大友さんはクラシックだけでなく、加山雄三さん、玉置浩二さん、JUJUさんなど著名なアーティストと共演したり、オペラの指揮などもされていますが、音楽のカテゴリーによって気持ちを切り替えるのですか?

大友 特にそうした気持ちの切り替えはしていません。音楽は大まかに日本の伝統音楽の「邦楽」と、五線譜を元に楽器で演奏できる「洋楽」とに分けられます。

ポップスや演歌のアーティストも、音や法則の基礎は五線譜の教育で学びます。音楽のカテゴリー分けは料理のようなもので、肉・魚・野菜という素材が和食、フレンチ、中華のどれになるかはシェフ次第。つまり、表現の仕方・手段が違うだけです。

佐藤 分かりやすい例えですね。大友さんは長年音楽の世界の一線にいるわけですが、最近の音楽家はどのように映りますか?

大友 ポップス系の歌手では、実力のある人が減っているのを感じます。今はカラオケ全盛期で、アーティストも自分専用のカラオケ伴奏でないと歌えない人が増えました。

NHK「紅白歌合戦」もかつては生バンドが入っていましたが、今ではそれも減り、カラオケ大会のようです。実力のある人はどんな形態の生演奏でも歌えますよ。

楽曲もそう。音楽は時代を経ても変わらない基本・基礎を土台に、時代ごとに新しいバリエーションをつくります。良い曲は時代を経て聴いても、どんな演奏で聴いても良いものです。

人本来の能力を磨くには感性を大切にすること

佐藤 音楽家が本業を忘れてタレント化しているのでしょうか。経営者でもたまにそういう人を見掛けますが。

大友 それもあるでしょうね。もっとも時代の寵児やスターは業界活性化のためには必要な存在です。

佐藤 音楽の感性を磨くには何をしたらいいのでしょうか?

大友 これは音楽に限りませんが、人が生物として元来持つ能力は昔も今もそう変わらないはずです。ただ能力の開発のされ方は昔と今では違います。自然から学ぶことは多いので、現代に生きる人も、自然の中で素朴な感性を磨くことが大切ではないでしょうか?

佐藤 なるほど。東京はモノや情報が溢れていますが、私も出張がてら時々ふらっと自然豊かな地方へ出掛けたりします。

大友 いいですね。音楽の世界では、東京は恵まれていて、世界最大のクラシックのマーケットです。これだけ多くのオーケストラやコンサートホールがある都市は類を見ません。

ただし地方との文化やインフラの差があるので、私はこの不均衡を正したい。佐藤さんにもぜひ、経済界のネットワークで支援していただけたらうれしいですね。

大友直人氏と佐藤有美

「東京と地方の音楽インフラの格差をなくしてほしい」と語る大友直人氏と佐藤有美(左)

似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹

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