政治・経済

日本の銀行界は、三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクを中心に動いている。このメガバンク時代の幕を切ったのは20年前の第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行3行による統合発表だった。しかしここにきて、真っ先に誕生したみずほの業績がさえない。みずほに何が起きているのか。文=関 慎夫 (『経済界』2019年8月号より転載

 

メガバンク時代の幕を切った20年前の会見

 

 1999年8月20日、残暑の日の夕方のことだった。東京・内幸町の帝国ホテルで記者会見が開かれた。

 登場したのは、杉田力之・第一勧業銀行頭取と山本恵朗・富士銀行頭取、そして西村正雄・日本興業銀行頭取の3人。この会見で3人は、1年後に3行が経営統合することを発表した。これが今日のみずほ銀行および、みずほフィナンシャルグループの原点だ。

 この会見をきっかけに都市銀行は大再編の時代を迎える。

 2カ月後には住友銀行とさくら銀行が合併を決め(現三井住友フィナンシャルグループ=SMFG)、翌2000年3月には三和銀行と東海銀行、あさひ銀行3行が経営統合を発表(のちにあさひ銀行は離脱、2行でUFJ銀行を結成)する。

 そして05年、三菱東京フィナンシャル・グループがUFJを救済したことで三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が誕生。あっという間に3メガバンク体制が確立した。

みずほ銀行PHOTO

3行の経営統合発表から間もなく20年が経つ。(写真は2000年のみずほフィナンシャルグループ設立に立ち会う、左から山本恵朗・元富士銀行頭取、杉田力之・元第一勧業銀行頭取、西村正雄・元日本興業銀行頭取)

 

メガバンクで最も低収益なみずほ

 その引き金を引いたみずほフィナンシャルが苦しんでいる。

 20年前、経営統合を決めたのは、バブル崩壊後の不良債権処理で日本の金融機関の体力が弱っていたことが背景にある。

 バブル期には世界の銀行の時価総額ランキングで、日本の都市銀行が上位10行のうち9行を占めた。ところが後ろ向きの処理をしているうちに、欧米の金融機関に追い越され、世界における存在感は小さくなる一方だった。

 そこで3行の頭取は、統合することで経営効率を高め、グローバルに通用する銀行を目指そうと考えた。事実、00年9月29日に誕生したみずほフィナンシャルは、総資産140兆円を超える世界最大の金融機関となった。

 ところが、3行が一体化したことで身の丈だけは大きくなったが、それ以上に重要な経営効率化は一向に進まない。その結果、気が付けばメガバンクの中で最も低収益の座が定位置になり、年を経るにつれ上位との差は大きくなる一方だ。

 特に前3月期決算は衝撃的だった。一般の売上高にあたる経常収益は3兆9256億円と前々期比10.2%増の増収だったが、最終利益は同83.2%減の965億円と大きく落ち込んだのだ。

 他のメガバンクはというと、MUFGが経常収益6兆6974億円(10.4%増)、最終利益8726億円(11.8%減)、SMFGは経常収益5兆7353億円(0.5%減)、最終利益7266億円(1.0%減)だった。

 長引くマイナス金利政策は、金融機関の収益を直撃する。経営体力や運用力のあるメガバンクも例外ではなく、そのため3メガともに減益決算となった。

 しかしMUFG、SMFGが減益幅を最小限にとどめたのに対し、みずほは8割以上。965億円という最終利益は、メガバンクに次ぐりそなホールディングスの1751億円をも大きく下回る。つまりみずほフィナンシャルは、利益面だけを見れば、既に3メガバンクの一角に入っていない。

 

大幅減益の理由は新システム稼働と大規模リストラ

 

 なぜこのような事態になったのか。前期の決算に関しては容易に説明がつく。

 8割を超える減益決算となったのは、昨年ようやく完成したシステム統合の影響だ。みずほの基幹システムは、経営統合後も3行のシステムが併存していた。

 そのため過去に2回もシステム障害が発生するなど、利用者に多大の迷惑をかけている。新システムは12年に開発をスタートした。その後、9回にわたってATMを週末に使用停止にするなど、慎重に作業を進めた結果、昨年にようやく完成、本格稼働が始まっている。

 この開発に投じた資金は4500億円。本業の儲けを示す業務純益4083億円(前3月期)を上回る巨額なものだった。

 従来これは、今期から償却する予定だったが、将来的に投資に見合う収益を上げられないと判断して、前期にほぼ全額を損金処理した。さらにみずほフィナンシャルは、130拠点を統廃合し、26年度までに国内外で1万9千人を削減することを決めている。その処理費用や、海外債券の処理などがかさみ、総額で6975億円もの損失を計上した。それが大幅な減益につながった。

 この決断は本来、評価されていい。損失を先送りするのではなく、膿を一気に出し切ることで、その後は反転攻勢に出ることができる。

 この損失処理を表明したのは3月のことだったが、それでも株価にはほとんど影響を与えなかったのは、株主もこの処理に納得したからだ。

 

成長戦略が見えないみずほに株主も落胆

 

 ところがみずほフィナンシャルの株価は令和を迎え、10連休が終わって市場が再開されてからどんどん下がっていく。

 連休前の4月26日の終値173.5円が、次営業日の5月7日の終値は172.5円。以降、決算発表日の15日を挟んで27日まで、13営業日連続で株価が下がり続けた。その後も下落は続き、6月7日の終値は152.4円。つまり令和になってからの1カ月で、みずほフィナンシャルの株価は20円強、1割以上も下落した。

 この下落は成長戦略が見えないことへの株主の落胆を意味している。

 5月15日の決算発表の際、みずほフィナンシャルは今年度を初年度とする新しい経営計画を発表している。以前の経営計画は3年間だったが、これを5年間に延長し、より長期的な視点で成長戦略を描こうというわけだ。しかし実際には、3年では成長軌道に乗せることができないため、5年にしたというのが本音だろう。それは中身を見れば明白だ。

 その基本方針は「ビジネス、財務、経営基盤の構造改革を三位一体で推進し、次世代金融への転換を図る」(坂井辰史・みずほフィナンシャルグループ社長)。

 つまり、みずほフィナンシャルの構造改革は道半ばであり、反転攻勢はその後ということだ。

 最初の3年間の「フェーズ1」が「構造改革への本格的取り組みと次世代金融への確かな布石づくり」で、残り2年の「フェーズ2」に「成果の刈り取りとさらなる成長の加速の実現」。つまり前期の大幅減益決算からのV字回復など、とうてい望めないということだ。

 

みずほの不振の根幹は20年前の3行統合に行き着く

 

 フィンテックの進化もあり、金融業界を巡る環境は、過去のどの時代よりも大きく速く変化している。それに合わせていくには連続的な構造改革が必要なのだが、みずほフィナンシャルが今後3年間で「構造改革の本格的取り組み」を行わなければならないのは、これまで、構造改革を思ったように進めることができなかったことの裏返しだ。

 その原因を掘り下げていくと、結局20年前に戻ってしまう。

 銀行に限らず、企業の合従連衡の基本は1対1だ。ところが冒頭に記したように、みずほは3行による経営統合の道を選んだ。

 その理由は過去のトラウマだ。3行のひとつ、第一勧銀は1971年、第一銀行と日本勧業銀行が合併して誕生した。ところが、発足から20年以上たってもトップ人事はたすき掛け、人事部も2つに分かれるなど融和は全く進まなかった。それが結局は90年代に自殺者や逮捕者の出た総会屋事件につながった。

 そこで「1対1だからそうなった。3行による統合なら、必ず2対1になるから意思決定ができる」という理由で3行統合へと進んでいく。

 しかしいざ統合してみると想定どおりにはいかず、時には3すくみとなり、時には行員数の少ない興銀が一勧を巻き込み、興銀+一勧対富士という構図が生まれてしまった。これでは思い描いていた経営効率の向上など不可能だ。

 その最たる例が思うにまかせなかったシステム統合で、3行それぞれの顔を立てた結果が、大規模システムトラブルを生んだ。またみずほ銀行では今後店舗を大量閉鎖するが、それはこれまで先送りしてきたツケによるものだ。

 その間、MUFGとSMBCは、社内体制を整え、構造改革を進め、利益を生む体質をつくりあげていく。それぞれ合従連衡により生まれたメガバンクだが、MUFGは旧三菱銀行、SMFGは旧住友銀行と、主導権を握る銀行がはっきりしていたため、みずほフィナンシャルのような混乱は起きなかった。

 こうして、みずほフィナンシャルにとって前を行くMUFGとSMBCの背中は遠くなり、気が付けばりそなにも最終利益で後塵を拝するなど、メガバンクとして崖っぷちに追い込まれている。

 だからこそ、今度の経営計画は絶対に失敗できない。「成長戦略が見えない」と株主から批判されても、それでもやりきるしか道はない。

 メガバンクとして生き残るための最後の戦いが始まった。

 

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