経営の極意① 他と違う特色をどう出せばいいか
手かせ、足かせという自由の利かない状態に、ほかならぬ自分自らが作り出すということがある。こういう間抜けなことを、しかもそれと自分が意識しないでしている。これが人間の愚かさだが、ふとした機会にそれに気づくと、全く違う日常生活が現れてくるものだ。
年収1億円の流儀で言えば、より多く稼ぐ流儀が分かってくるものなのである。
それを会得したのが、私の知り合いの税理士Sさんだ。彼の場合、行動を縛りつけたのは携帯電話だったが、それに気づいて携帯電話を捨てたのだ。すると煮詰まった考え、袋小路から脱出でき、より活力ある毎日を取り戻すことができたのである。
もし稼ぐ手立てに行き詰まり、手をこまねいている友人がいたら、この話を伝えていただきたいと思う。
Sさんは現在は30代半ばだが、28歳で独立した。独立したのはいいが、士業はひところのように悠々と稼げる商売ではなくなっている。
2015年3月に日本税理士会連合会が10年ぶりに調査した税理士の実態調査では、実に回答者の31・4%が年収300万円以下だ。厳しい時代なのである。
Sさんが独立した当時も、同じ状況で、不安で仕方なかった彼は、他と違う特色を出さなくては、と考えた。
経営の極意② 時間に関係なく訪問します……
たまたま顧問先の1つから、「税理士の先生に相談したいときも、なかなか連絡がつかないし、来てもらえない」という不満を聞いた。これだ、とSさんは思った。
自分はいつでも連絡のつく税理士になり、呼ばれたらすぐに会いに行き、相談に乗る税理士になろう、それを自分の独自色にしよう、と決めたのだ。
それで、時間に関係なく訪問します、夜でもいつでも連絡がつくようにします、とアピールして顧問先を開拓した。努力が実って、顧問先は確かに増えた。
ところが、である。いつでも携帯電話に出る態勢だから、食事も入浴も、片時も携帯電話が離せない生活になってしまった。
電話機が鳴ると、さっと取って、受け応えする。顧問先にとっては重要な相談かもしれないが、プロの彼にすればくだらない質問も来る。ちょっと調べなくてはならない、込み入った相談も来るが、そういう相談に限って相手はすぐに答えを欲しがる。
ご飯もおいしくないし、睡眠時間も3、4時間という日が続くようになった。
経営の極意③ ケニアに逃げ出して2週間を過ごす
それでもがんばって年収は1千万円を超えた。時間とお金の奴隷になれば年収1千万円は超せる典型である。
だが何年かそういう生活を続けるうちに、当然ながら疲れてしまった。「楽しくない。俺は何のためにこの仕事をしているのか」という疑念が生まれた。税理士なんてやめたくなった。
話を聞いた私も、それは無理もないなと思った。いくら税理士はサービス業と割り切っても、そこまでやらなくてはいけないのか。これは辛い。
で、彼はどうしたか。ケニアに逃げ出したのである。手かせ足かせの象徴である【携帯電話】を自宅に放り出したままだ。
ケニアには2週間滞在したという。電気もない、電話もない、携帯電話をもし持っていてもつながらない、そういう場所だった。のんびりと、そういう場所で時間を過ごしたのである。
そうして2週間後に、日本に帰った。帰宅して、机に置いたままの携帯電話を手に取った。Sさんはこの後、大いなる気づきと、それによる人生の転換を経験するのだが、それについては次回……。
[今号の流儀]
心を縛っている「思い込み」がある。それに気づくことが重要だ。
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