大崎電気の岩本真典総監督が、優勝会見の冒頭で報道陣に問い掛けたこと
「勝って、逆に皆さんに質問したいことがあります」
5年ぶりに日本ハンドボールリーグ男子を制した大崎電気の岩本真典総監督が、優勝会見の冒頭で報道陣に問い掛けた。
「ここ数年、こういうプレーオフを続けていく中で、レギュラーシーズン4位のチームが勝ったり、3位のチームが勝ったりしてきました。レギュラーシーズン1位という結果に対する評価が、果たしてあるのかどうか」
総監督が協会の決めたやり方に疑問を呈するなど異例中の異例である。
岩本が率いる大崎電気はここ5年間、リーグ戦で4度も1位になりながら、1度しかプレーオフを制していない。敗れた4度のうちの2度はリーグ戦全勝だった。
1992年度に日本リーグはプレーオフを採用している。2004年度からレギュラーシーズン1位から4位までがプレーオフに進出し、そこから一発勝負のトーナメント戦を行う。1位と4位、2位と3位が準決勝で対戦し、その勝者がファイナルを戦う。そこにアドバンテージはない。
岩本は続けた。
「この方式に毎年、疑問を持っていました。ただレギュラーシーズン1位で通過して、プレーオフで負けてしまえば何も言えません。勝った時にこのことだけは言いたいと思っていました」
大崎電気のリーグ優勝は5年ぶりだが、11年は東日本大震災でプレーオフが中止となった。プレーオフを制してのリーグ制覇は05年以来のことだった。
日本リーグ最多得点(1079点)記録を持ち、日本代表の指揮も執った岩本の気持ちは、優勝しても晴れない。
「何も変わらない体制のまま続けて、果たして2020年東京オリンピックが開かれて、ハンドボールが盛り上がるのか……」
では他の競技はどうだろう。国内スポーツのトップリーグでは、ほとんどの競技がプレーオフ制度を採用している。しかし、すべてがすんなり決まったわけではない。
近年、プロ野球のクライマックスシリーズ、サッカーのJ1リーグでのチャンピオンシップは、導入時に「リーグ戦の軽視」を理由に反発の声が上がった。
まずプロ野球の場合。NPBは04年からパ・リーグがプレーオフ制を導入し、3年後にセ・パ両リーグが行うクライマックスシリーズというかたちで再スタートした。リーグ戦を制した球団を優勝チームとし、クライマックスシリーズでは日本シリーズ進出チームを決めている。08年から優勝チームにアドバンテージ1勝を加える現行ルールへと移行した。
一方のサッカーは、J1リーグを前後期制にし、チャンピオンシップを15年から11年ぶりに復活させた。
岩本真典総監督が一石を投じたプレーオフ制度の必要性とはなにか
そもそも、なぜプレーオフは必要なのか。最大の理由が興行面だ。プレーオフという最後のヤマ場を設けることによって、リーグ戦終盤の消化試合を減らす。プレーオフ出場枠をかけた椅子取りゲームはファンの関心を呼びやすい。
レギュラーシーズンが日常ならプレーオフは非日常。協会(連盟)側がこれを興行上の両輪と考えるのは決して間違いではない。
それは昨シーズンのJリーグのチャンピオンシップ決勝を11年ぶりに民放がゴールデンタイムで生中継したことからも明らかだ。それまで減少傾向にあったJ1の観客動員数は前年から3・3%増えた。
海外を見てみよう。米4大スポーツと呼ばれるMLB、NBA、NFL、NHLはいずれもプレーオフ制度を導入している。
NFLの頂点を決めるスーパーボウル、MLBのワイルドカードゲーム(地区優勝を逃したチームの中で勝率1位と2位が対戦)以外は、一発勝負ではなく、3戦先勝制か4戦先勝制だ。
そのほとんどにおいて、勝率上位や順位で上回るチームにホームアドバンテージが与えられる方式となっている。
一方でイタリア・セリエA、イングランドのプレミアリーグ、スペインのリーガエスパニョーラなどサッカーの欧州主要リーグでは、トップディビジョンの優勝チームを決めるプレーオフはない。言うならばリーグ戦が日常。各国リーグ上位チームで争われるUEFAチャンピオンズリーグが、非日常の役割を果たしているとも言える。
ハンドボールが盛んなヨーロッパではプレーオフの有無は国によって異なるというが、世界最高峰のリーグと呼ばれるドイツ・ブンデスリーガではプレーオフは採用されていない。
いずれにしても、岩本が投じた一石がプレーオフ制度をめぐる議論のきっかけになればいい。(文中敬称略)
(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。
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