4月に熊本県を突如襲った大地震は、製造、物流、小売りなどあらゆる分野の企業活動を麻痺させた。今や日本中どこにいても大災害のリスクから逃れることはできないが、企業にとって真に有効なBCP(非常時における事業継続計画)とは、果たしてどのようなものだろうか。文=本誌編集長/吉田浩
企業の危機管理のもろさが露呈
4月14日と16日の2度にわたって最大震度7を記録した熊本県の大地震で、大手企業の生産が止まり、サプライチェーンの寸断によって全国規模で生産がストップするケースも出た。
2007年の新潟県中越沖地震、11年の東日本大震災と、その都度危機管理が課題に挙がり、企業もそれなりの取り組みを続けてきたにもかかわらず、自然災害に対して相変わらずの脆さを露呈した。
災害に対してなかなか有効な準備ができないのは、事前に何を決めればよいか分からないという理由が大半。多くの企業がせいぜい防災グッズの社内配布や十年一日の避難訓練の繰り返し(当然、それも重要だが)、災害に備えて対策本部の組織図を形式的に作っていても、イザというときの行動が、ハッキリ見えているところは少ない。
要注意なのが、すべての情報に経営トップが関与したがること。「応接室の花瓶が割れた」から「工場で爆発が起きた」まで、次々と入ってくる緊急性も重要性もバラバラの情報に対し、すべてトップが関与して混乱を引き起こすようなケースだ。
BCPに関するコンサルティングを手掛けるレックスマネジメント社長の秋月雅史氏は「情報は何でも集めればいいわけではありません。非常時に必要な情報の9割は事前に決めることができます」と語る。
秋月氏は「経営者が行うべきことは『何が起こっているか(状況把握)』を知り、『今後どうなるのか(情勢判断)』を俯瞰し、『何を決めればよいのか(意思決定)』を考えること。
そして、どのレベルの意思決定に経営者が関与するかを事前に決めておくことが非常に重要」とも言う。
危機管理にCOPの概念がなぜ有効なのか
秋月氏によれば、初動対応時に経営者が心配することは「社員と家族は無事か」「顧客にどのような影響が出るか」「急ぎで対応することは何か」の3つ。現場レベルでは、これらに関する情報を分かりやすくトップに報告することが求められるという。
その際に有効とされるのがCOP(Common Operational Picture)という概念。これは米国海軍の戦略立案手法で、関係者が一目見て情勢判断ができる「一枚絵」のことだ。
例えば、「社員への被害」「資産への被害」「インフラ・交通機関への被害」などの項目に分け、それぞれの中で細かい指標を立て(例えば「資産への被害」であれば、建物被害、エレベーター閉じ込め、危険物漏洩等、自社の資産から発生し得る被害をあらかじめ設定しておく)、被害レベルに応じて深刻な順から「R(レッド)」「O(オレンジ)」「Y(イエロー)」「G(グリーン)」に色分けする。また、製造、物流、ITといった、業務の稼働レベルについても同様に色分けして状況が一目で分かるようにする。
そして、これらを元に作成されたものが、経営トップが見る画面となる。これによって、トップは深刻度が高い赤色表示の項目から優先的に対応を判断、指示を行っていくことが可能になる。
レックスマネジメントでは、COPの考えに基づいたモバイル対応のBCPクラウドシステム「Klotho(クロト)」を15年10月にリリース。経営者はタブレットPC等の画面を見ながら、上がってくる情報の中から優先順位の高い事象に絞って指示を出せるため、無駄な動きをしなくてもすむ。
経営者の判断までは必要がないとされる事象については、あらかじめ対応をマニュアル化しておけば現場が自律的に対応できる。「経営者にとって重要なのは、いかに自社にとって重大・深刻・緊急なことに焦点を絞るかです」と語る秋月氏。この考えに、多くの企業トップが反応することに期待を寄せている。
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