経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

EVシフトに乗り遅れるな! 日の丸ベンチャーの挑戦

脱炭素社会の実現に向け、急速に、そして世界的にEVシフトが巻き起こっている。ガソリンエンジンでは世界をリードしてきた日本勢だが、EVに関しては劣勢に立たされている。しかしその一方で元気なEVベンチャーも勃興しつつある。その最前線を追った。文=ジャーナリスト/永井 隆(『経済界』2022年1月号より加筆・転載) 

予想より早く進むEVシフト

 自動車ではEV(電気自動車)シフトが、予想よりも早く、世界規模で進行していく気配だ。欧州、米国、そして中国は、〝脱炭素社会〟の実現に向けEV化へと大きく舵を切っている。

 EU(欧州連合)の欧州委員会は7月、2035年にHV(ハイブリッド車)を含む内燃機関搭載車の販売を、禁止する方針を打ち出した。米バイデン大統領も8月、30年のEV比率を最大50%とする目標を盛った大統領令に署名した。

 「トヨタの欧州でのロビー活動が失敗した、と伝えられている。日本メーカーはHVへのこだわりが強かったため、気がつけば、日本のEVシフトは欧米中と比べ周回遅れの状況」(日系自動車会社幹部)という指摘がある。
 車両であるEVばかりでなく、主要部品のリチウムイオン電池までも生産量世界トップの座から落ちて久しい。

インドでEリキシャを売るテラモーターズ

 「本当にこのままだと、日本はヤバいことになります。電機製品の主要部品は大半が海外製。〝最後の砦〟である自動車にしても、EV化は遅れ、何より開発国なのにリチウムイオン電池で中韓に逆転されてしまっている。しかし、この国には安定ではなく、変化を求め主導できる人が一定数います。まだ、小さなベンチャーにすぎない僕たちもその一員であり、リスクをとって挑戦を続けています」

 こう話すのはテラモーターズ(東京都千代田区)の上田晃裕社長だ。

 同社は、インドで「Eリキシャ」というEV三輪車を14年から展開。約40社が参入している中でシェアはトップである。

 インド東部の西ベンガル州コルカタに工場をもち、日本人数人を含め約100人が働いている。

 米EV大手のテスラは富裕層を対象にした高級車からEVを普及させたのとは逆に、同社は貧困層から入っている。一部の富める人たちの〝愛車〟ではなく、大多数の貧しき人々にとっての〝必要とされる車〟として展開している。

 もっとも、同社はつくって売るだけの会社ではない。今年7月からローン事業を本格的に始めた。これにより、低所得者でもEリキシャを購入できて、タクシーや運送など事業を始められるようになった。また、車両の後ろに広告を載せる取り組みも始めた。

 前年度の販売は約1万5千台。今年度は2万台を目指すが、コロナ禍で先行きは不透明。そこで、台数増よりもユーザーが購入しやすく、さらに稼げる仕組みを提供していく形だ。現在、鉛電池を搭載しているが、来年にはリチウムイオン電池搭載車を発売する。

 そう遠くない将来、東証で上場し、インドで生産したEVのライトモビリティをアジアで展開する計画。さらに、日本市場にはセダンやSUVの大型EVを投入していく。

 上田氏は08年に大学を卒業し、シャープに入社。中近東やアフリカ市場の開拓に従事した。しかし、大企業では自分のやりたいことが思うようにできなかったため、15年に同社に転職。アジア4カ国統轄本部長を経て、19年10月に2代目社長に就任した。

 ちなみにホンダは、インドで走るEリキシャのタクシー向けに、来年前半からリチウムイオン電池のシェアリングサービスを開始する。街中に交換ステーションを設け、残量の少ない電池を、満充電の電池と交換するサービスだが、ホンダのような大手もインドのEV三輪車に事業の可能性を見いだしている。

 上田社長は「僕は、何としても日本を再興させたい。日本の潜在力は、まだまだすごいのだから」と語る。

東大発ベンチャーが観光地でEVトゥクトゥク

 「コロナ禍から大学はオンライン授業に移行。このため、実は起業はやりやすくなりました。本郷に行かなくとも、ビジネスの現場でも授業を受けられるから。このため、起業する学生は増えているように思う」

 EVベンチャーeMoBi(エモビ・東京都中央区)の石川達基社長は語る。石川氏は東京大学法学部の学生でもある。

 同社は石川氏と東大農学部に在籍する日高将景取締役、慶應義塾大学商学部在籍の後藤詩門取締役の3人が、昨年末に設立。千葉県南房総市と長崎県壱岐市で観光客を対象に三輪のEVトゥクトゥクの貸し出しサービスを始めている。

eMoBiのEVトゥクトゥク
eMoBiのEVトゥクトゥク

 南房総は地元観光協会と組み、今春から実証実験を開始。協会に複数の車両をリースし、協会が観光客に無料で車両を貸し出している。壱岐では「離島」と「レンタル」を掛け合わせた造語「りとれん」の名称で、直接レンタルサービスを行っている。

 車両は中国の二輪メーカーにオーダーメイド。「僕らが学生ということを、先方は知らない」(後藤氏)そうだが、電池は火災リスクが少ない日本製を搭載している。

 来年の観光シーズンをターゲットに、本格展開していくが、観光シーズン以外は農作物や魚を運ぶ〝住民の足〟としての活用を考えている。

 筆者も南房総市の公道を運転してみたが、二輪と違い安定した走行ができ、その気になればスピードはかなり出せる。両手だけで運転操作でき足を使わないのも便利で、高齢者や身障者にも使いやすいはず、と感じた。

 「側車(サイドカー)付軽二輪」の区分で、車庫証明は必要なく、乗用車が1台入る駐車スペースに2台から3台は入る。後席に2人乗れて、維持費は格安、運転には普通自動車免許が必要だ。

 「バンコクなど大気汚染が深刻な大都市では、内燃機関のトゥクトゥクがたくさん走行してます。EVトゥクトゥクを日本で実用化し、世界のモデルにしたい」と石川氏。

高速道路走行も可能な4輪乗りスモールカー

 FOMM(神奈川県川崎市)は、4人乗りEV「FOMM ONE」を生産するタイに続き、日本でも発売している。弦巻日出夫社長は、スズキ、トヨタ車体でエンジニアを務め、13年に同社を創業した。

 FOMM ONEは4人乗りながら全長2・5メートルと世界最小クラス。ステアリングは、ジェット機の操縦桿を彷彿させるバタフライ型(一部テスラ車もこれを採用)。アクセルは、ステアリング回りに設置したパドル。片方を手前に引くと省エネモード、左右を同時に引くと強力モード。足下はブレーキだけとシンプル。タイヤに直接組み込む「インホイールモーター」を採用し、走行ロスは少ない。620キログラムという軽量なので、約12kWhの電池容量ながら航続距離は166キロ。水陸両用で、日本では軽規格なので高速道路も走行可能だ。価格は250万円(税別)。

 「省エネ性能をみると、1キロワット時当たりの走行距離が14・02キロメートルなのは、世界トップクラスの性能と自負しています」と弦巻社長は語る。

 FOMM ONEでは、「バッテリークラウド」という形を提案している。EVバッテリーをカセット式にして、簡単に交換することで、充電時間を〝ゼロ〟としていくコンセプトだ。

 今後、例えば直営のバッテリースタンドや提携するガソリンスタンドなどに交換用バッテリーを常備し、その状況をドライバーがスマートフォンのアプリで確認できるようにしておけば、EVの欠点である長時間の充電を回避していけるだろう。

 さて、筆者は川崎市の大型駐車場でFOMM ONEを運転してみた。サイドブレーキを外して、パドルを引くと至って静かに走り出す。直線で左右のパドルを同時に引くと、一気に加速する。しかも、静かにだ。最高速度は80キロだが、100キロ以上は容易に出る。インホイルモータによる前輪駆動だが、安定した高速走行を実現できそうだ。パドルを手放すと、回生充電が強く利く。出力や回生の状況は、モニターに表示される。クルマというよりも、別次元のムーバーを操縦した感覚だった。

 いずれにせよ、容積や重量当たりのエネルギー密度は小さいが、エネルギーの伝達効率の高い電池を使うEVは、やはり小さなクルマにより適している。

九州で工場建設する国産EVバスメーカー

 バスのような大型車両でもEV化の波は押し寄せている。埼玉県久喜市や茨城県境町など、全国の自治体で、EVバスの導入が相次いでいる。温暖化防止はもちろん、EVバスならば走行中に排ガスや二酸化炭素を一切排出しないため、高齢者や子どもたちをはじめ歩行者の健康にも優しい。

 「本当はトヨタから買いたかったのに、こちらがほしい日本製EVバスがない」と話す首長もいる。中国BYD社製などEVバスはみな輸入車である。

 こうしたなか、EVベンチャーの「EVモーターズ・ジャパン」(北九州市)は、東芝製の新型リチウムイオン電池を採用したEVマイクロバスを年内に商品化する。電池の長寿命化と、5分の充電で50キロ走行できる超急速充電が可能になる。

EVモーターズ・ジャパンのEVバス
29人乗れるEVモーターズ・ジャパンのEVバス

 同社はいわゆるファブレス(工場をもたない製造業)で、バスやトラック、EV充電設備などを展開している。今年商品化したEVマイクロバスは29人乗り。価格は約2千万円で、同じクラスの中国BYD社製「J6」の1950万円とほぼ同じにしている。

 リチウムイオン電池は、正極にリン酸鉄を使う安全性の高いタイプで、電池の世界最大手である中国CATL(寧徳時代新能源科技)から調達する。車両は欧州車の製造も手掛ける中国メーカーが、最終組立を行っている。

 さらに、年内に商品化を予定するマイクロバスには、東芝が開発を進めていたニオブチタン系酸化物(NTO)を負極に採用した新型リチウムイオン電池が搭載される。

 新型電池は①事故など外部からの圧力でも発火する可能性が低く、②5分の充電で50キロの走行が可能、③2万回の充放電を繰り返しても劣化が少ない高い耐久性を持つ、などが特徴だ。

 車体は現行のバスよりもややコンパクトにする計画だが、電池のコストは上がるため車両価格も上がる。

 佐藤裕之社長は「バスは通常、15年から20年は使う。EVバスの場合、その間に何度か電池を交換する必要が生じる。これに対し、NTOなら交換の必要がない。なので、トータルとしては割安となる。また、5分の急速充電で50キロの走行が可能になる」と話す。急速充電性能を利用すれば、電池の搭載量を減らして車両価格を抑えることも見えてくる。

 同社は価格の安い現行バスと、価格は高いが高性能な新型バスと、EVバスの商品ラインを広げていく。

 また、23年中頃には北九州市に最終組立工場を約20億円を投じて建設する。これにより、日本製として25年の大阪万博の会場で走行させていく考えだ。