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「知見と、挑戦をつなぐ」スポットコンサルの可能性 端羽英子 ビザスク

端羽英子 ビザスク

1時間単位のインタビューやオンラインアンケート、中長期間の伴走支援を通じて、気軽に自身のビジネス経験や知見を提供できる。そんなスポットコンサルの概念を日本に浸透させたのがビザスクだ。社外の知見を活用する企業も増えている。ビザスクが広がれば、社会全体で知見を最大限に活用できる未来がくる。文=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』巻頭特集「会社の選び方」2024年6月号より)

端羽英子 ビザスクCEOのプロフィール

端羽英子 ビザスク
端羽英子 ビザスクCEO
はしば・えいこ 東京大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券にて投資銀行業務 、日本ロレアルにて予算立案・管理を経験。マサチューセッツ工科大学にてMBAを取得。ユニゾン・キャピタルにて企業投資に携わった後、2012年3月に現ビザスクを創業し23年10月に「ビザスク」を正式リリース。ビザスクは、「知見と、挑戦をつなぐ」をミッションに、世界中のイノベーション創出を支えるナレッジプラットフォームを運営している。

インタビュー1時間。報酬の目安は5万円

 組織、世代、地域を超えて、さまざまなミッションと世界中の知見をつなぐグローバルプラットフォームを運営する「ビザスク」。現役ビジネスパーソン、企業OB、専門家など、500カテゴリ以上の業界・職域にわたって、国内外60万人以上が実名で登録している。そうした生の情報を持つエキスパートに、新規事業や経営企画、マーケティング調査・仮説検証など、ニーズに応じて1時間単位のインタビューでビジネス相談が実施できることが評判になり、ビザスクは2013年のサービス正式リリース以来、活用する企業を増やしてきた。逆に知見の提供側として、自身のビジネス経験を手軽に役立てられるのも魅力で、エキスパートとして登録する個人も増えている。

 プランや案件の内容によって幅はあるものの、インタビュー1時間当たりの最低報酬は1万5千円、目安としては5万円前後となっており副業と考えれば高単価な印象を受ける。

 もともとビザスクは、ライフイベントでキャリアの中断を経験したCEO端羽英子氏の経験からスタートした。自身の経験から、働き方に関する起業アイデアを検討していた際、ツテをたどってやっと出会った起業経験者に相談したところ、1時間厳しくダメ出しをされた。その最中「この1時間にこそお金を払う価値がある」と感じ「ビザスク」のビジネスをひらめいた。

 「豊富な知見を持っていても定年などで活躍の場が限られている人もいます。そうした方々が、ビザスクを通じて自分の知見に価値があるのだと自信を取り戻すことに貢献できたらうれしく思います。また、自身の知見を提供する活動により、改めてキャリアの棚卸しができ、自己研鑽の意識が高まったというエキスパートからの声も多くあります」(端羽氏)

 ビザスクでは毎年、1年間にマッチングしたインタビュー案件から知見のニーズを分析している。IT、営業、マーケティングに関する知見は毎年ニーズが大きいが、22年から23年にかけて需要が増加した知見に着目すると、生成AI(42倍)、モビリティ(1・93倍)、観光・旅行(1・91倍)がトップ3だった。必要とされる知見はハイレベルなものばかりかと思いきや、端羽氏いわく必ずしもそんなことはない。研究開発や新規事業だけでなく、たとえば採用やオフィス移転のような案件でも、社内に経験者がいなければビザスクを頼る企業はいる。何かの専門家であるとか、大手企業で高い役職に就いていることが必須条件ではなく、現場での豊富な経験があったりニッチな知見を持っていることでニーズが高くなるケースもある。

 また、ビザスクで知見を提供した経験から、キャリアに幅を持たせる人も増えた。複数の企業から収入を得ることも珍しくない時代だからこそ、転職による会社選びよりも、仕事選び、身に付けるスキル選びが重要になっている。

 ちなみに端羽氏の趣味は茶道だそうで「いつか茶人になって茶室外交をしたい」と笑う。ビザスクが実現するのは、人材に限らず知見の流動性が高まった世界だ。