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膨大な口コミデータで企業のリアルがまるわかり 大澤陽樹 オープンワーク

大澤陽樹 オープンワーク

検索すればあらゆる情報が手に入る時代になったが、逆に何を信じればいいのか分からない。そんな時に参考になるのは、SNSや食べログなどの口コミサイトに投稿されているユーザーの声だ。企業情報についても口コミの存在感が増している。中でも急速にユーザーを増やしているのがオープンワークだ。文=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』巻頭特集「会社の選び方」2024年6月号より)

大澤陽樹 オープンワーク社長のプロフィール

大澤陽樹 オープンワーク
大澤陽樹 オープンワーク社長
おおさわ・はるき 東京大学大学院卒業後、リンクアンドモチベーション入社。中小ベンチャー企業向けの組織人事コンサルティング事業のマネジャーを経て、企画室室長、新規事業の立ち上げや経営管理、人事を担当。2019年11月にオープンワーク副社長に就任。20年4月、社長に就任。22年12月 東証グロース市場に上場。

ジョブマーケットから情報の非対称性をなくす

待遇面の満足度、社員の士気、風通しの良さ、社員の相互尊重、20代成長環境、 人材の長期育成、法令順守意識、人事評価の適性感の8項目で数値評価する
待遇面の満足度、社員の士気、風通しの良さ、社員の相互尊重、20代成長環境、 人材の長期育成、法令順守意識、人事評価の適性感の8項目で数値評価する

 求人を吟味して転職先を選んだのに実際に入社したら全然違った――。これはもはや転職あるあるで、そんなものだと薄々納得している人も多い。しかし本音は、もっと企業の内部を詳しく知りたいもの。

 そんな心理に応えて、転職・就職のための情報プラットフォーム「オープンワーク」は、ユーザー・口コミともに増やしてきた。2024年1月末の時点で、ユーザー数は610万人、社員口コミ数と評価スコアは1640万件に達した。どちらも日本最大級だ。オープンワークでは口コミをもとに8つの項目でスコアが算定され、直感的に企業の実情を知ることができる。口コミが1件でも掲載されている企業は約7万社あり、東証上場企業のカバー率で見ると90%を超える。

 「オープンワークはジョブマーケットから情報の非対称性をなくすことに貢献しました。リアルな業務内容や待遇、組織文化は入社してみないと分からないのが一般的でしたが、オープンワークには生の声が蓄積されています。それらの情報を基に個人が企業を選ぶことができるようになったことで、企業と個人が対等な関係になったと感じます」。2020年から社長を務める大澤陽樹氏はそう振り返る。

 ちなみにオープンワークがよく使われる時間帯は夕方6時前後だという。大澤社長の見立てでは、その日会社で何か不満を抱いた人が、退勤時間に「営業、年収」「企業名、昇格」などのキーワードを検索してオープンワークにたどり着いているのではないかということだ。オープンワーク社では、こうした明確に転職する気はなくとも、このままでいいのか悶々として情報収集している状態を「悶々期」と表現している。

 悶々期ユーザーの中には、自社の口コミを記入しながら自分自身が何に不満を持ち、何に悩んでいるのか言語化することで、キャリアの棚卸しに役立てる意外な使い方をする人もいるという。当然、そこから何となく他社の口コミをのぞき、徐々に転職期に移行していく人もいる。

 また、口コミの閲覧に限らず、オープンワーク内で自身の経歴やスキルをレジュメとして登録しておけば、それを見た企業やエージェントからスカウトを受け取ることもできる。他のダイレクトリクルーティングと異なる特徴は、企業側はオープンワーク内の評価スコアが高いほど、多くのスカウトを送ることができるということだ。これにより、オープンワーク上で受け取るスカウトは必然的に口コミで高評価の〝優良企業〟ということになる。

 そうは言っても、結局口コミが集まっているだけならネットの掲示板やSNSと一緒で玉石混交なのではないか。

 オープンワークはこうした疑問を解消するため、公開する口コミに厳格なルールを設けている。たとえば、当該企業に1年以上在籍している/いた人で、雇用形態は正社員か契約社員のみ。口コミは500文字以上書く必要があるなどだ。また、口コミ公開前には、弁護士などの専門的な知見に基づいて作成した基準で審査をしている。個人名を挙げて誹謗中傷する内容や、守秘義務に違反していそうな口コミは掲載されない。加えて、意図的に特定企業を持ち上げるような口コミを見破るノウハウも社内に蓄積しているという。こうした徹底したレギュレーションの効果もあってか、オープンワークの口コミと企業の業績や株価に強い相関があることが、査読付きの論文で明らかになっている。

 膨大な口コミを掲載しているオープンワークだからこそ、会社の選び方における全体的な傾向も把握できる。たとえば早期離職した人が書いた口コミを分析すると、年収などよりも、配属、成長環境、組織風土を重視している傾向が浮かび上がった。入社後に多くの人が直面するのは、組織の風通しの良さや、ここで自分は成長できるのかという問題のようだ。

ホワイト企業は一段落「ここで私は成長できる?」

 大澤社長は今後の会社選びのトレンドとして「残業時間や有給消化率が適正に保たれる、いわゆる〝ホワイトである〟ことは当たり前で、それよりもむしろこの会社にいたら自分の生涯年収を高くする可能性はあるのかという、〝キャリアウェルビーング志向〟が高まる」と予想する。

 世間的には、仕事は忙しくないけれど成長する機会も望めない「ゆるブラック」という言葉も使われるようになっており、ホワイト企業すぎることが逆にリスクになると考える人が増えている。

 オープンワークでも、16年頃までは残業時間や有給消化率が高ければ総合満足度が上がりやすい傾向があったが、数年前から残業が少なく有休がとりやすくても全体の満足度が上がらなくなってきている。

 これからオープンワークは、「働く」に関わるあらゆるデータを集め、企業や個人に還元することを目指す、ワーキングデータプラットフォーム構想を進めていく。オープンワークの大きな強みは、定量的なデータではなく、口コミという定性的なデータを莫大に蓄積していることだ。企業における男女の賃金格差のようなデータは、政府が主導して公開している。しかし、生身の人間がその会社をどう感じたのかは、定量的なデータからは読み取れない。

 オープンワークは、口コミという定性的な情報を分析し企業にフィードバックすることで、労働市場全体をより良いものにしていく。また、ユーザーのキャリアステップを可視化し、個人の主体的なキャリア形成をサポートする新サービスも開発中だ。サービスを磨きこむことで、企業も個人もユーザーが増え、さらにデータが増える。オープンワークが実現するのは、限りなく透明性の高いジョブマーケットだ。