クボタの海外売り上げ比率は7割に迫る。その一方で耕作放棄地の再生、コメの販売ルートの開拓など日本の農業支援にも積極的だ。TPPで競争力の向上が求められる日本の農業をどう見ているのか、クボタの木股昌俊社長に聞いた。聞き手=本誌/古賀寛明 写真=山内信也
木股昌俊氏は語る 稲作から畑作へ事業領域を拡大
―― 業績が順調に推移していますが、その要因は。
木股 農業界で大変革が起こったとか事業環境が好転しているわけではないんです。むしろ、農業に関して言えば、世界的に農産物価格の低迷でお客さまは苦戦をしています。当然、農業機械の業界も苦しいわけです。
しかし、欧米など大規模農家が使う150馬力以上の大型機は苦戦していますが、われわれはその下のカテゴリーに強みを持っていますから、農業以外の用途にまで広げられて売り上げを伸ばせています。
また、現地化がうまくいっていることも理由のひとつですね。現地で研究開発をして、現地のサプライヤーと組んで、現地で生産する。それがお客さまのニーズに合致する一番の近道ということでしょう。そういった体制を米国、欧州、アジアでも確立できたことが一番の要因かもしれませんね。
―― 海外売り上げが68%と高い数字ですが、好調な地域はありますか。
木股 東南アジアの伸びもありますが、中国を含むアジア全域で好調です。
中国の産業そのものは伸びしろがないと言われ始めていますが、こと農業に関しては別です。当然、先の食糧事情を見越してのことでしょうが、農業政策も旺盛で機械化も補助金を出して積極的にすすめています。中国でも開発、生産、販売と、現地化がうまくいっているからシェアも上がっている。良い循環ができていますね。
同じく、インドもトラクター市場が世界で一番大きい国なんですが、クボタはまだ1%程度のシェアしかありません。とはいっても年間60万台売れる国ですから、日本の年間5万〜6万台の販売台数を考えれば10倍以上ある巨大市場。今後に期待が持てる市場なのです。
今までも米作用機械を出していましたが、その機能だけではだめで牽引の力も重視されます。収穫物を運べ、人も運べる。ようやく現地のニーズを把握して製品開発が追い付きました。ライバルは水牛(笑)なので、要求される売価も厳しいですが、タイで生産してインドに持っていくスキームもできあがりましたので本格的な販売が始まったところです。
―― フランスで大型トラクターの生産に乗り出しましたが。
木股 われわれの得意分野は米作用機械です。5年ほど前にその分野で世界のトップメーカーとなり、次のステップを4倍ほどの市場規模のある大型のトラクターとかコンバインの畑作用機械に求めました。
開発をフランスで4、5年前から始め、販売も昨年から始めたわけですが、現在、ありがたいことに受注に生産が全然追い付いていない、そういった状況です。先ほども申しましたが、全体の需要は減っていますが、トラクター本体と作業用途ごとに変えるインプルメントのバランスがいいなど、当社の強みを発揮できています。今後は、欧州の生産能力も限界に近づくでしょうし、北米の需要も高いですから米国にも拠点をつくらねば、そういったことを考えています。稲作を基盤に畑作にも事業領域を広げたことで、商機も広がったということです。
―― ただ、生産拠点はまだ海外が30%程度です。円高の影響を受けるのでは。
木股 為替の感応度については、1ドル18億円ほど。今期は115円で計画していますから、約200億円の減少をなんとか、生産性の向上や販売増などで前年比プラスにまでするつもりです。確かに厳しいですが、部品調達も海外から行っていますから、ひところに比べれば影響は軽微になっています。海外生産に関しても、いつになるかは分かりませんが、いずれ5割は必要かなと思います。でも、それは現地でしか売れないものは現地でという意味で、コアの技術になるエンジンやトランスミッション、電子制御といったものは日本で開発、生産と考えています。
田植えが消える!?稲作の近未来を語る木股昌俊氏
―― 2年前にICTを使った農業経営のサポートを始めましたが、反応はどうですか。
木股 クボタスマートアグリシステム(KSAS)というんですが、現在1千組くらいで導入していただいています。
農業におけるデータの蓄積や分析で農業経営を「見える化」するのが目的ですが、試してもらわなければ良さは分かりませんし、1年、2年と使ってもらわねば価値も分かりませんから、社内には、まずは儲けよりも、試してもらうことが大事と伝えています。
また、農業機械の自動運転、省力化ということに対しても研究開発を進めています。つい先日も、農家の方と話していたら、GPSを使って直進時に自動運転できる田植え機で田植えを行ったら、肩凝りもなくなったと喜んでおられました。
田植え機を使って作業すれば分かると思いますが、まっすぐ運転するだけでも大変なんです。でも、ICTを活用することで、こうした省力化、効率化にもつなげられるのですから、積極的に導入してもらうためにわれわれも実践しています。
―― クボタファームですね。
木股 そう、新潟県に2カ所、農業特区である兵庫県の養父市、熊本県にそれぞれ1カ所の計4カ所あるんですが、それを15カ所まで広げようと考えています。そこで、実際の農業経営として成り立つようなモデルをクボタと農家の方が一緒になって取り組んでいます。いかに競争力を高められるか、これが日本の農業のやり方だというものを見つけていくのが目的です。
例えば、お米でしたら1俵で1万円を切る価格が実現できれば売れることは分かっていますから農業機械の省力化のみならず、鉄でコーティングした種子を直播きして田植えが必要なくなるといった農作業そのものを変える取り組みを始めてコストダウンに取り組んでいます。
―― 海外に精米所をつくり、コメの輸出も行っていますね。
木股 日本の米農家さんにとっての出口を増やす必要があると思い始めました。
2012年に香港でスタートし、14年にはシンガポールでも始めました。どんなにおいしいお米でも精米して輸出すると、味はどうしても落ちてしまいますから、精米所をつくったことで精米したてのお米のおいしさを味わってもらうことができました。現地のレストランなどに供給しているんですが、こういう料理には、この産地のこういった品種のお米が合うんじゃないですかといった、品種と産地を考えて提案する営業を行っています。お寿司屋さんなんかは粒の大きさとかにこだわりますからね。喜ばれていますよ。
もちろん、赤字じゃ困りますが、まずは農家さんの出口をつくることを最優先として採算をあまり考えずにやっています。
今後も増やしていきたいと思っていますが、それにはやはり生産コストをもっと考えないといけないでしょうね。生産のコストダウンがうまくいけば、もっといろんな国にお米を輸出する、そんなことも夢じゃないと思っていますよ。
―― 農産物の出口を増やしていくことを重視していると。
木股 そうですね、例えば、群馬県の前橋市には「おれん家ふぁーむ」といって地元の200軒くらいの農家さんから農産物や加工品をクボタが集荷して販売する直売所とレストランを設けています。こういった場所を増やしていきたいと思っています。
海外もそうなんですが、国内でも考えているのは生産者と消費者の橋渡しをクボタが担うことです。それと、米の消費量も減ってきているのですが、それも無理にお米を食べなさいというのではなく需要のあるパンに活用しようとしています。パンに使用する小麦はほぼ輸入品です。しかし米は余っているんですから玄米からペーストをつくってそれをパンやパスタにする取り組みを熊本で始めました。
既に、クボタ本社の社食でも販売しているのですが玄米ペーストでつくったパンから先に売り切れになるほどです。それで、先日工場を拡張したほど。これも米の出口拡大ですね。
―― 最後に、日本農業の未来をどう考えますか。
木股 明るくなるように一生懸命お手伝いするのがクボタの務めです。われわれのような農業に携わる産業が農家の方々と一緒になって日本の農業の競争力を上げていくことをしないと厳しくなる一方です。
ですが、営農そのものの生産性向上やコストダウンのみならず、つくった農産物を世界に出していく、そういったことを一体となってやっていければ明るいですよ。
実際にそういった機運も高まってきましたしね。いい流れをつくっていきたい。そう考えています。そういう意味では、今が踏ん張りどころでしょうね。
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