Jリーグが誕生して20年以上たち、世界で活躍する選手を生み出すリーグにまで成長した。だが、クラブの経営人材についてはまだ足りないのが現状だ。今後、スポーツ産業が拡大することを考えれば、サッカー界だけでなくスポーツ界全体に足りなくなってくる。そうしたクラブ経営者の育成をJリーグは先んじて始めている。そのプログラム「Jリーグヒューマンキャピタル(JHC)」について、塾頭を務める中村聡氏に話を聞いた。
スポーツ界に足りないマネジメント人材
Jリーグは1993年にスタートしプロリーグへと舵を切りました。選手は25年前にプロ化して、その後、レフリーもプロ化してきました。一方、クラブの社長や職員たちは、発足時の10クラブの責任企業からの出向といった形で完全なプロではなかったわけです。ですから、プロクラブのマネジメント人材の必要性は、初代の川淵三郎チェアマンの時代からありました。
そこで、98年に内部でGM(ゼネラルマネジャー)講座を開始して、内部のマネジメント人材の育成に取り組んできました。それが、2008年に当時の鬼武健二チェアマンにより企業内大学のようなものにまで発展、進化しクラブの経営者を育成するような取り組みを始め、11年まで行っていました。
現在のクラブの社長もその修了生が数人就任しており、ある程度の役目も終わったということで、ひとまず終了していたのです。そして、14年に、リクルート出身の村井満チェアマンが就任、日本をスポーツでもっと幸せな国にという「百年構想」のもと、今度はスポーツ界全体に開かれた設計で、この「JHC」が昨年より始まりました。
カリキュラムは、「JHC教育・研修コース〈基礎〉」と「Jリーグ研修〈実践〉」で構成され、1年目の基礎では提携関係にある立命館大学がビジネスに必要な理論や知識である「ファイナンス」や「アカウント」、「マーケティング」、「リーダーシップ」といったものを担当し、Jリーグがクラブ経営に関する現場の1次情報を提供しています。
リーグやクラブは、ホームタウンで2週間に1回ホームゲームを行い、お客さんと向き合うことでさまざまな知見や改善策を20年間蓄積しているわけです。そうした1次情報を講座に活用し、陣頭指揮をとるクラブの社長やクラブスタッフをゲストに彼らから学ぼうというのです。これはJHCの大きな特徴となっています。
もう1つの特徴としては、人材の活用というところまで踏み込んでいるところです。全員ではないのですが要件のマッチする方については、Jリーグやクラブで有期雇用してJHCのカリキュラムで次に進んでいます。昨年度の基礎コースは参加生が42人でしたが、現在までにその内3人が2年目に進んでいます。元経営者の参加者は大分トリニータで経営改革本部長として、水戸ホーリーホックには元Jリーグの選手が国際事業企画マネジャーとして行かれています。また、この秋から鹿島アントラーズに行かれる方もいらっしゃいます。
弁護士、金融マン、音楽プロデューサーまで参加
Jリーグのクラブ側にも人材を欲している現状があります。知名度こそ高いですが、日本最大のクラブである浦和でさえ60億円、小さなクラブだと2、3億円の事業規模という中小零細企業の集まりです。ですから人の採用についても、いい人をどうとるかという悩みをいつも抱えているわけです。求められる人材についてもビジネスをいかにうまく回すかというより、中長期的なプロジェクトを社長と一緒に担っていく、そういった人材が求められています。
そのためJHCが、1年間を4学期に分けてグループワークを行い、実際のクラブの経営課題に取り組みながら、それを村井チェアマンや、Jリーグの理事、クラブの経営者だった方にプレゼンテーションをします。
そこで、だいたい辛辣なコメントを受けるわけですが、その裏には知識だけでなく、経営者として視点、判断といったものを無理やりにでも感じさせる意図があるわけです。学びには、痛みが伴うものだと考えており、厳しい意見や仕事帰りの平日の夜に学ぶハードな経験が生きてくるのです。ほかにも、アンラーニングといった学び直しやそれに付随した内省、振り返り、そういったことを意識してカリキュラムは設計されています。
参加者の内訳は多様です。2期生33人も3分の2が外部のビジネスパーソン、3分の1がスポーツ界からの参加です。
コンサルティングファームや金融、弁護士から音楽プロデューサー。スポーツ界もクラブスタッフや元日本代表選手まで、そうしたバックグラウンドが違う人たちが、年齢や性別も超えてグループワークで経営課題に取り組んでいくことは、究極のダイバーシティであり刺激的な学びの場になっています。
スポーツ産業は、将来的に15兆円にまで拡大する産業といわれています。その成長の裏付けは人材にありますから、スポーツ系人材の育成プラットフォームが必要です。JHCがそうなっていくことができればと考えています。(談)
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