経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

新規公開株の銘柄選定のポイント――松下健哉(大和証券公開引受部長)

松下健哉

人気を集める新規公開株。一時は新規公開企業が年間20社を下回ることもあったが、最近では100社近くに回復した。この傾向は今後も続くのか。もし続くなら、どのような投資スタンスで臨めばいいのか。大和証券の松下健哉・公開引受部長に語ってもらった。

成長率が魅力のIPO企業

今年の新規IPOは、11月1日までで64社を数えています。例年、11月、12月には数が増えるため、年間トータルでは90社前後になるとみています。昨年は92社。リーマンショック直後の2009年に19社にまで落ち込みましたが、ようやくここまで回復してきました。

今年のIPO市場の特徴といえば、LINEやコメダホールディングス、富山第一銀行、そして10月のJR九州など、東証一部へ直接上場する大型株も一方ではあったものの、多くが、マザーズなど新興市場へ上場する調達額10億円前後のベンチャー企業だったことです。

そして新興市場に上場した多くの株の初値パフォーマンスが非常に良かった。初値が公開価格の2~3倍を超えたケースも珍しくありません。今年、当社が主幹事証券を務めたところは現在まで14社ありますが、その中でもグローバルウェイが373%、アトラエが136%、初値が公開価格を上回るなど、高いパフォーマンスを示しています。日経平均株価は年初から2千円近く下げているなど既存市場は低調なだけに、IPOのパフォーマンスの良さが目立ちます。

その要因は、第一に受給の逼迫です。新興市場でのIPOは中小型株が中心のため、そもそも売り出し株数が少ない。そこで人気が集中し、それが高い初値に結び付く。数年前には、初値が公開価格を下回ったり、上場後すぐに株価が大幅下落するケースもありましたが、今は当時に比べれば株式市場も良好で審査も厳しく、また主幹事会社も初値後のパフォーマンスを気にするようになっています。そのため最近IPOをした企業の成長性は押しなべて高い。インターネットを活用したビジネスを手掛ける会社が多いこともあり、経常利益の年率30%成長など当たり前です。この成長率が、IPO人気をさらに高いものにしています。

これは、外国人投資家が新規上場株に入ってきていることからも裏付けられます。その意味で、IPO企業の株価は、適正な水準となってきていると言えるでしょう。

IPO市場が活気づくと、市場全体が活気づきます。前述のように既存市場に勢いはありませんが、IPO企業のパフォーマンスが良ければ、それをもとに資金が次の新規上場株に向かうだけでなく、既存市場に流れる可能性もある。今の状況は歓迎すべきだと考えています。

活況は今後も続く

企業数、人気ともに活況を呈しているIPOですが、この傾向は今後も続くと思います。IPO企業数も、来年は100社を超えると見ています。根拠として、われわれが主幹事証券会社となるために、IPOを考えている企業を訪問する件数が増えていることが挙げられます。さらには、実は昨年の今頃も、16年のIPO企業数は100社を超えるのではと言っていましたが、実際には90社前後。その差の10社が来年の予備軍となるため、100社を超える可能性はかなり高い。

その先を見ても、IPOを目指す企業は増えることはあっても減ることはないような気がしています。SNSを見ると、ベンチャー企業を立ち上げたという若い人の投稿をよく目にします。大手企業を辞めて、自ら起業するケースも非常に多い。もはやベンチャーを起業することは、一過性のブームなどではなく、ひとつの選択肢として完全に日本に定着したと言っていいでしょう。ベンチャー企業の裾野が広がれば、それだけIPOできる企業も増えていきます。

ではIPO株に投資する場合、どこに着目したらいいか。そして手に入れた株をいつ手放したらいいのか。公開価格で入手できれば言うことはありませんが、ベンチャー株は公開株数も少ないため、間違いなく抽選になります。その幸運を手にした場合、初値で売るべきか、それとも保有し続けるべきか。

ネット証券の投資家の場合は、初値で売るケースが多いようですが、窓口で買われた投資家の中には持ち続ける人も珍しくないようです。企業が成長し株価も上がるという夢を買う投資家たちです。先ほど言ったように、最近は初値形成後も株価推移が堅調なIPO企業も増えていますし、配当や優待も期待できる。すぐに売るかどうかは投資家の判断次第です。

銘柄選定にあたっては、過去の成長力と今後の成長力を見極めることが必要ですが、トレンドの業界かどうかも大きなファクターになります。今ならAI関係や、フィンテックなど〇〇テックと呼ばれるもので、今後の成長も期待できます。同時に営業利益率の高い企業も魅力的です。IT系のベンチャー企業の中には、利益率が30%を超えるところもありますが、そういう会社は独自のテクノロジーを持っているところが多いように思います。

経営者を見て判断すべき、と言いますが、個人投資家が経営者に面談するのは簡単ではありません。しかし最近では、個人投資家を対象にIR説明会を開く企業も増えてきています。そうした機会を利用すれば、経営者の考えを直接聞くことができますから、投資判断の参考にしたらいかがでしょうか。(談)

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る