ファンドラップ(ラップ口座)と呼ばれる個人向けの資産運用管理サービスの売り込みが目につくようになった。大手証券をはじめ、大手信託銀行にメガバンクも参入して顧客の取り込みに懸命だ。メリットや背景を探るうちにとんでもないトラップ(落とし穴)が見えてきた。文=ジャーナリスト/梨元勇俊
アベノミクスで急成長
ファンドラップは、個人投資家が証券会社や信託銀行などと投資一任契約を結んで、自分の資産運用や管理、投資アドバイスを専門家に任せる金融商品だ。ラップとは「包む」という意味の英語で、資産を大切に包み総合的に運用することから名付けられた。
金融機関はまず、顧客から資金量や運用目的、どのくらいのリスクを許容できるかなど運用方針をヒアリングして、国内債券を中心にリスクを抑えた投資をするのか、新興国の株式を中心にハイリターンを狙うのかなど、顧客の要望に添った資産配分を決める。
国内外の投資信託や株、債券などに投資するが、基本スタンスは中長期の国際分散投資で、短期的な利益を見ながら年に数回、資産配分の見直しを行う。市況の変化で価格に変動が生じたとき、当初の見込みとのズレを調整するためだ。
同時に詳しい運用報告書を定期的に作成して投資の現状報告と先行きの展望などの情報を顧客に送付する。ラップ口座の付帯サービスとして系列銀行の定期預金の金利を優遇したり、介護保険やがん保険がもれなく付いてきたりという金融機関独自の「おまけ」もある。
顧客は運用額やリスクに応じた手数料や口座の維持管理手数料を取られるが、個別の投信や株の売買などにともなう手数料は取られない。
約40年前に米国で富裕層向けのサービスとして生まれ、日本でも2004年に証券取引法等が改正されて解禁になった。本家の米国では、投資信託だけで構成するラップ口座など多彩な商品があり、残高は100兆円を超えているといわれている。
日本国内の口座残高は12年末までバブル崩壊後、長引く経済の停滞で個人投資家の投資意欲が減退していたため約5千億円に留まっていた。
ところが12年末に第2次安倍晋三政権がアベノミクスを掲げ、13年に日銀が異次元の金融緩和に着手すると、円安株高が進展。その結果ラップ口座をはじめとする金融商品の運用機運も高まった。
ラップ口座の資産残高は、13年末に1兆円超え、14年末には3兆円超え、15年末には5兆円を突破して5兆6711億円に達した。急成長の背景は裾野の広がりだ。当初は富裕層向けのサービスで申し込みの最低投資額が1千万円~3千万円からだったが、300万円~500万円程度の残高で口座を開くことができるようになり、退職金を運用したい定年退職者や投資初心者の利用が増えてきた。
利用者にしてみれば、ある程度、金融機関に運用を「お任せ」できるので、自分で運用実績に目を光らせるというわずらわしさから解放される。
金融機関側の事情もある。証券会社の営業は株式や投資信託の売買で販売手数料を得ることを主眼にしており、どうしても顧客が投資中の信託商品を別の商品に乗り換えるよう勧誘することが多くなり監督官庁から再三、注意を受けていた。
だがファンドラップなら、売買手数料があらかじめ決まっているため過剰な売買は起こり得ない。これなら監督官庁からも批判されない。それでいて金融機関にしてみれば、顧客の資産規模に応じた手数料が定期的に入ってくる。つまりファンドラップは預かり資産拡大が安定的に見込まれる「おいしい商品」だ。だからこそ店頭やホームページで、盛んに宣伝を行っている。
毎年15万円で収支トントン
しかし、金融機関にとっておいしいファンドラップの手数料が顧客には大きな負担になる。ファンドラップの手数料は投信を個別に買うよりずっと割高なのだ。
例えば、年率2%で500万円をファンドラップで預けるとする。すると口座管理手数料が毎年10万円かかる。さらに資産残高に対する運用手数料も定期的に口座から引き落とされる。管理と運用の手数料を合わせると資産の預かり残高や運用スタンスの違いで多少の違いがあるが平均で年に3%ほどになる。年に約15万円だ。毎年15万円以上のリターンを得られなければ、顧客は「手数料負け」することになる。しかも、ファンドラップは投資なので500万円の元本は保証されない。手数料負けどころか元本が目減りする可能性もある。
米国の次期大統領に決まったドナルド・トランプ氏が示した経済政策が意外にまともだった安心感から市場は円安株高に傾き「トランプラリー」と呼ばれる堅調基調が続いているが、いつ潮目が変わるか分からない。債券も世界的な金利低下で主要国の債券利回りがマイナス金利に転じており、当面、高リターンは望み薄だ。
日本投資顧問業協会が9月8日に発表したラップ口座の資産残高は16年6月末で5兆7596億円と、3月末の残高(5兆7776億円)より減少。4年ぶりにマイナスに転じた。ファンドラップのトラップ(落とし穴)に気が付く人が増えてきたのだろうか。
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