経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

技能実習生の介護職受け入れの決定で必要とされるのぞみグループの取り組み――甘利庸子(のぞみグループ代表)

介護職の人手不足対策として、外国人技能実習生の介護職の受け入れが決定した。2015年3月の閣議決定以前より「日本の介護の未来を素晴らしくしたい」という想いから、アジアと日本で活動を続けてきたのぞみグループの取り組みが注目されている。

東南アジアで実績を積んできた教育研修カリキュラムが注目

甘利庸子

のぞみグループ
代表
甘利 庸子 (あまり・ようこ)

2025年に38万人が不足すると言われる日本の介護職。昨年11月に技能実習生に関する法案が可決され、外国人技能実習生の受け入れが今年中に施行される見込みとなった。

「受け入れが決まった介護職は、高齢者一人一人と向き合い、身体に触れる職種。それだけに十分な介護の教育研修が一番大切です」と、語るのは長野県小諸市で医療法人と社会福祉法人、高齢者施設などを運営するのぞみグループの甘利庸子代表。

日本に技能実習生を送り出している東南アジアでは、技能実習生の職種である建設、製造、農業等の従事者は多いが、専門職として介護職は少ない。同社は、12年にタイで日本語と日本の介護研修を必須とした介護学校を開校。15年からは、ベトナムの現地法人を通じて国立ハドン医療短期大学看護学部、ドンア大学看護学部と介護の教育支援の覚書を交わし、日本の介護研修の準備を進めてきた。

「体制が整わず、国内外で理解が得られていない当初の数年間は、母国での看護師としての基礎知識が技能実習生の絶対条件と考えています。医療の世界共通の言語、知識、意識を持ち、人の身体に触ることに慣れている看護師は、日本の介護にすっと入れるでしょう。また、日本語検定4級合格者であることも当社の条件ですが、国内外の日本語研修で教える介護の現場で使う日本語は、字で書けば同じでも、お年寄りとの向き合い方、話し方は、建設や農業とは全く違います。私自身が薬剤師・臨床検査技師であり、介護支援専門員としての経験とグループ内の医療法人と社会福祉法人、現場を知る他職種の専門職の力を借りて、5年越しで教育研修のテキストやカリキュラムを整えて来ました。不十分な教育や実習、日本語研修による事故やトラブルを防ぐためにも、十分な教育研修もまた絶対条件です」

タイとベトナムでの教育支援で培ってきた教育研修カリキュラムと受け入れ条件が、技能実習生の受け入れを希望する社会福祉法人や高齢者施設などから求められている。

技能実習生を支援し、将来の介護福祉士の取得を目指す

日本の介護の未来を素晴らしくしたい、という想いから活動を続けてきたのぞみグループ。その想いは、グループである教育支援を行う一般社団法人海外介護士育成協議会と、技能実習生の受け入れ監理団体となる介護施設協同組合の2つの団体の取り組みにも現れている。

「海外介護士育成協議会は、技能実習生の教育レベルを維持するために、広く全国の組合から教育研修の委託を受けます。介護施設協同組合は、実習受け入れ施設と技能実習生を支援し、技能実習生が5年後に笑顔で帰国して活躍できるようにと考えて設立しました」と甘利代表。

技能実習生には、まず入国前に現地で数カ月間の介護導入研修を行う。入国後は海外介護士育成協議会で2カ月間の初任者研修を行い、介護施設協同組合および全国の組合を通して実習受け入れ施設に送り出される。

「研修のための寮とトレーニングセンターも小諸市内に完成済みです。研修では介護技術や知識に加え、日本の介護の『自立支援』についても教えます。できることできないことを見極め、できることは自分で、できないところだけを介助する『自立支援』の大切さを理解しないと、戸惑うことも多いはずです。日本での生活や介護の不安を軽減するのも当協議会の役割です」

実際に介護の現場で受け入れが始まれば、さまざまな課題や修正点が出てくる。技能実習生の介護レベルを維持するためにも、テキストやカリキュラムの改善が不可欠となってくる。

「当組合が、実習受け入れ施設と技能実習生を支援する理由はここにあります。現場での課題や修正点を当組合の役員である介護支援専門員・介護福祉士・医師などの専門家が検証し、協議会のテキストとカリキュラムに反映させていく。協議会と組合が両輪となってこそ、技能実習生の働く環境を改善できます。今後、この取り組みを発展させ、技能実習生のために国家資格である介護福祉士の受験を支援する体制を構築していきます。また、組合員である受け入れ施設が集まり、必要な支援や体制を作り上げる『組合員のための、組合員が作る、真の協同組合』に向けての活動も始まっています」

日本とアジアの介護の未来のために先手を打ってきた甘利氏の取り組みが、必要とされる時代が来たようだ。

のぞみグループ

  • 設立/1992年
  • 事業内容/介護事業、介護施設事業、日帰り温泉施設事業、エステティックサロン事業、レストラン事業、海外介護士育成事業などグループ9法人
  • ホームページ/http://www.nozomi-g.co.jp http://www.kaigai-kaigoshi.jp

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