経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

インフラ構造物補修の無人化を目指す西武建設の吹付ドローン

土木測量では既にドローンの活用が進んでいるが、西武建設ではインフラ構造物の点検と補修にもドローンの導入を検討している。人の入れない場所や高所での点検や補修をドローンで対応できれば、施工の低コスト化や無人化が可能になるため、実用化が期待されている。

西武秩父線の運休がドローン活用のきっかけに

西武建設として、ドローンの活用を検討するきっかけは、2014年2月の大雪で、グループ内の西武鉄道の西武秩父線が運休になったことだった。

秩父方面の山深いトンネルが雪で塞がり、状況把握をしなければならなかったが、現場に入ることが非常に困難だった。そこで人が入れない場所で情報を得る方法が検討課題に挙がった。

また、橋梁をはじめとするインフラ構造物で老朽化が進んでおり、点検・養生の必要が生じているが、その際に長大橋梁や高所での作業に足場を組まずに手軽で低コストに点検する方法の必要性が指摘されるようになった。この2つの観点から、実地検査や点検の分野でドローン導入の検討が始まった。

さらに業界全体の流れとして、国土交通省が15年11月にICT建設技術を統合した「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の取り組みを発表。土木現場にICT技術を全面的に活用することが推奨され、調査・測量にドローンが活用されるようになってきている。

測量・災害対応にもドローンを活用

西武建設でも、東北復興事業で応札した福島県の保原桑折地区の道路改良工事が、i-Constructionの推奨現場に指定されたことから、測量にドローンを活用。ドローンによる航空写真測量を実施し、現況地盤形状の3Dモデルを作成している。

また、災害対応について、16年8月に台風の影響で、西武多摩湖線で土砂崩れが発生した際にも、ドローンを活用した。上空から現場を撮影することで、さらなる土砂崩れなど2次災害の危険性を啓発。早期の復旧の一助となった。

測量や点検では徐々にドローンの活用が進められているが、一方で問題もある。測量は広大な土木現場でドローンを飛ばすが、インフラ点検では、橋梁の下や高圧線直下、さらにトンネルの中など、GPSが効かない環境でドローンを飛ばす状況が生じる。ドローンが手軽に安定的に飛ばせるのは、GPSで自らの場所を捕捉できるからである。

空中での静止はGPSに基づいた場所に留まるようドローン自らモーターを調節する。このため、GPSが効かない環境では、空中での静止も常に操縦者が操作し続ける必要がある。

また、風に流されやすくなるため、特に強風が吹くことが多い橋梁の下での操縦はいっそう困難になる。土木事業部エンジニアリング部の二村憲太郎氏によると、GPSが効かない環境下では機体の性能よりも操縦者の技量に左右されるという。

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開発中の吹付ドローン

人が入れない場所や高所での作業に

測量・点検に加えて、西武建設が芝浦工業大学と共同で進めているのが「吹付ドローン」を使った構造物の補修だ。

吹付ドローンは2リットルのタンクに水や補修剤を蓄え、4本のノズルを利用してスプレー噴射。これにより、橋梁やトンネルなどコンクリート構造物のひび割れた部分を補修する。目的は点検と同じく、人が入れない場所での作業や高所で足場をかけないで作業を行うことで、低コストの補修を実現することにある。

ただし、点検と同様にGPSが効かない環境下での作業が想定されるため、操縦者の技量が問われる。さらにドローンを目視で操縦する際に、特にスプレー噴射では構造物との遠近感がつかみづらいという。そのため、現在は構造物との距離を把握できるセンサーの開発を進めている。センサーで飛行が安定するようになれば、操縦も容易となるため、センサーの開発は大命題だという。

また、補修については、現状では補修剤を吹き付けることしかできない。本来、補修する含浸剤はローラで塗布するものであり、吹き付けるだけで、補修剤の効果をどこまで発揮できるか、検証が必要だという。

現在進めている機体の改良については、位置を把握するセンサーに加え、さらにスプレー噴射の精度も向上させる。また、春先をメドにスプレーのタンクの容量を2リットルから3リットルに増量し、バッテリー搭載型とすることで高度制限をなくし適用範囲を拡大する。そのため機体の大きさも全体的に1.2倍に大型化する。

まだ実用化までの課題は多いが、ドローンによる点検や補修が実現できれば、高所作業が不要になるため、施工の省力化・無人化が実現できる。今後も西武建設では実用化に向けた取り組みを加速していく。

「土木作業自体、技能労働者が減っていくことが見込まれる中で、無人化施工は今後必要になる。それに向かって吹付ドローンの開発を進める」と同担当部長の井上靖雄氏は意気込みを語った。

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